第85話 前半ミッション終了、撤収!
巨大悪魔を素材として頂いてしまった。巨大悪魔が生きていたのか死んでいたのか今となっては不明だがトルシェが完全に解体して収納してしまっている。もしも悪魔のコンニャクが役に立つようなら、巨大悪魔を養殖したいところだ。収穫時には、服を燃やされないように俺は真っ裸で作業してやるつもりだ。
「だいたいこんなところだな。そろそろ帰るか」
「そうですね」
「どこか、よさげなレストランにいって中華料理でも食べませんか?」
「それもそうだな。今週中にはもう一度ここにきてお掃除を完遂したら宴会をしなくちゃいけないから、下見しておこう。ここは成都だから四川料理だな」
「ですね」
「おっと、この格好じゃマズいな。普段着になっておかないと」
俺はいったんダークサンダーを収納したところ、案の定ほぼマッパだった。ところどころに溶けて黒くなった化繊の名残が俺の肌にこびりついている。
そういった汚れをコロにとってもらい、下着から順に服を着ていった。また着る服が減ってしまった。こう、毎度毎度着ている物がダメになってしまうと結構な物入りだ。俺ぐらいスタイルが良くて顔が良ければどんな安物を着てもそれなりに似合うのだろうが、衣料品産業育成のため俺はあえて高級品を身に着けている。それがアダとなった形だ。
俺の着替えを待ってくれていたトルシェとアズランに詫びて、出入り口まで戻り、地面に置いていたサティアスの入った鳥かごを忘れず拾って、階段の始まるシャフトの底に出た。
階段を上りながら、鳥かごの中のサティアスに先ほど疑問に思っていたことを聞いてみたところ、
「サティアス、さっきのドーム型のバケモノ。相当デカかったけれど、あれって悪魔だったんだよな?」
「あ、はい。あの悪魔は『貪食』と呼ばれていた最上級悪魔の1体でした」
「あいつには角が1本しかなかったが、それでも最上級なのか?」
「本数に関係なく角の色がピンクであることが最上級の証です」
「じゃあ、お前は?」
「あと1000年くらいあればなんとかその位置にたどり着けたかも?」
「あんなに無様で弱っちくて最上級なら、そのうち悪魔の国にでも殴り込みをかけてやるか。悪魔を根絶やしにすやれば、全宇宙の平和に貢献できるんじゃないか」
「よ、よしてください。女神さまは『貪食』が弱っちいと評価されていますが、先ほどの光の攻撃は何者も防げませんし光ったと同時に命中するので躱すこともできません。『貪食』の角が光った瞬間、狙われた獲物は蒸発してしまいます。単純に女神さまが強すぎるのです」
「そうかー? おだてても何もでないぞー。フフフフ。
そこまでお前が言うなら、悪魔の国への討ち入りはよしてやってもいいカモな」
「お願いします」
何時になるか分からないが、三人団の構成メンバーのリクリエーションを兼ねて、悪魔の国に討ち入りするのは決定だ。今のところ悪魔の国にいく方法がないが、サティアスを言いくるめればいき方も分かるだろう。
1階に出た俺たちは、少しずつ薄れてきた瘴気をもう一度胸いっぱいに吸い込んで、悪魔崇拝者のアジトのビルを後にした。
「俺の勘だと、あっちに歩いていけばいいレストランがあると思うぞ」
「ダークンさん。ダークンさんは中国語が分かりますか?」
「いや。普通にわからんぞ」
「字は読めます?」
「中国語は漢字だから多少は読めるんじゃないか? いや、そうでもないか。ここの漢字は簡体字だから読めない漢字が多いというかほとんど読めないな」
「どうします。レストラン?」
「高級レストランだったら少なくとも英語は使えるんじゃないか?」
「ダークンさんは英語ができるんですか?」
「もちろんだ。最初にバイザーがやって来た時、ちゃんと英語で会話したんだからな」
「それなら安心ですね」
「英語なら任せてくれて大丈夫だ。
ということは、外国人が大勢いるホテルのレストランなら間違いないんじゃないか?」
「ですね」
そういうことで、俺たちは海外からの利用客の多そうな高級ホテルを探すことにした。手にした鳥かごの中のサティアスはオウムに擬態させているので、そんなには怪しまれない。子豚とかに擬態させていたら、食用と勘違いして、買いたいというやつが出てきたかもな。
成都の街の中をホテルの入っていそうな高層ビルを探すつもりで上の方を見ながら俺たちが歩いていたら、警官らしき3人組に呼び止められた。知らん顔をしていたらいきなり腕を掴まれて、さらにホイッスルを吹かれた。そしたらどんどん俺の周りに警官?が集まってきた。
俺の腕を掴んだ男は何とか俺を組み伏せて、仲間と一緒に取り押さえようとしているようだが、たかが警官風情で俺がどうなるわけもなく、普通に立っていたらますます激高し大声で喚き散らし始めた。
警官の数もどんどん増えていき、見物人の数もどんどん増えていった。
いい加減鬱陶しくなった俺は、常套手段となったコロによる腰から下の衣服接収を発動した。対象は俺たち3人以外周囲の者たち男女ひっくるめて全員だ。今日のコロはそれなりにいいものを口にしているので、元より口のきけないコロではあるが、こういったゲテモノを食べさせても不平不満を口にすることはあるまい。
「コロ頼む」
ほんの数秒で、俺の周囲百数十メートルにわたって、俺たち3人以外の男女の下半身が露わになった。ところどころから若い女の悲鳴が上がり出した。その声がだんだん大きくなり、それと同時に混乱が広がっていった。
「どうも中国料理どころじゃなくなったな」
「帰りましょうか。東京の中華料理もおいしいと思いますよ」
「それもそうだな。帰るとするか」
トルシェがいればどこからでも俺たちの本拠地に戻れるそうだが、人目を避けるため中国人たちの悲鳴だか怒声を聞きながらアズランに先導されて、最初の公園らしき場所に戻っていった。そこで、トルシェが拠点の大広間に空間を繋げ、俺たちはいつも通り無事拠点に帰還した。
ちなみに、『アイヤー!』とかいう叫び声は俺の耳では聞き取れなかった。今回の騒ぎもそのうちSNSで拡散されるのだろう。




