第82話 サティアス・レーヴァ
いままで頭の中に響いていた言葉が今度はちゃんと声として聞こえてきた。
「も、もしや?」
「いいから、お前の名まえを言ってみろ!」
「われの名を聞けばお前は後戻りできないぞ。それでもいいのだな?」
「分かったから早く言え!」
「われの名はサティアス・レーヴァ、悪魔の中の悪魔だ!」
「やっぱりサティアスじゃないか。お前、俺のことを覚えているだろ!」
目の前の黒い塊には黒い角が2本見える。確か黒い角は上級悪魔だったはず。こんなチンケなペット風情が上級悪魔とは笑わせる。俺の知っていたサティアスの角は、えーと。思い出せるわけないか。無駄な努力はやめておこう。元がどうだったか全く思い出せないがそれでも、角が少し黒くなったような気もする。
「黒い全身鎧姿でその話しぶり。えーと、常闇の女神さま?」
「そうだ。お前、なに偉そうにそんなところにいるんだ?」
「こ、これには深い理由がありまして」
「お前の理由を聞いても仕方ないからどうでもいい。俺の知りたいのは、そこら中に漂っている瘴気の元はお前なのか、それともその祭壇なのか?」
「もし瘴気の元が私だったら?」
「連れ帰って瘴気サウナの素にする」
「サ、サウナの素ですか?」
「ああ、サウナだ。この世界じゃこれほどの瘴気を浴びられる場所の当てがないもんでな。どうせなら近くに素を置いておきたいだろ」
「それなら、瘴気の素はこの祭壇です。今まで信者たちが何百人もの人間をこの祭壇の上で殺して私に魂を捧げていますから」
「本当なんだろうな? お前は女神の俺に目を付けられているんだから逃げられると思うなよ」
「逃げるなんて、滅相もございません」
「そういえば、お前。悪魔崇拝者に最上級悪魔とか言われて崇められて、ブイブイ言わせているそうじゃないか?」
「いえー、それほどでも」
「バカか!
俺がわざわざここにきたのはその悪魔崇拝者たちを皆殺しにするためだ。今回は半分だけ殺す半殺しの予定だがな」
「半分だけ殺す半殺し?」
「100人いたら50人殺すって意味だ」
「そ、そうですね。せっかくですから魂は私にいただけませんか?」
「俺には魂を集めるような妙な趣味はないから勝手にしろ。どうせ悪魔崇拝者の魂だ。いずれお前のものになったんだろ?」
「そのように契約しております」
「じゃあ、堂々と魂をいただけばいいじゃないか」
「そうですね。いちおうは女神さまにお断りした方がよろしいかと思いましたもので」
「その気持ちは大切にしろよ」
「そう言えば、あとのお二方は?」
「あんまりここが臭いから、階段の踊り場で待機してる。そろそろ行くぞ!」
「私も? 祭壇だけじゃなくて?」
「それはそうだろ。
そうだ、お前も檻が懐かしいだろ? 今檻に入れてやるから待ってろ。
ゴールデンプリズン!」
金色の檻がサティアスを包んだ。
「どうだ、檻の中は落ち着くだろ? お前は確か伸縮自在だったから檻はかなり小さくしても大丈夫だよな?」
サティアスが何も返事をしないうちから、ゴールデンプリズンを縮めて高さ60センチ、直径30センチの筒形の鳥かごにしてやった。鳥かごの大きさに合わせてサティアスの体が小さくなるところが見ていて楽しい。
サティアスを捕まえたので、今度は目の前の祭壇を俺の収納キューブに収納しておいた。
これにて一件落着! じゃなかった。まだ、半殺しの作業があるんだった。
今回のゴールデンプリズンは少しレベルアップして、鳥かごの上に持ち手が付いている。前回悪魔を捕まえたときは、持ち手がなくてやむなく蹴っ飛ばしながら移動したが、俺自身かなり進歩したものだ。
鳥かごを持った俺は、ざっと部屋の中を見回したが、祭壇を収納したらがらんどうになってしまったので、もうここには用はない。
トルシェたちの待つ階段の踊り場にいって、そこから1階ずつ下に降りながらめぼしいものを回収しつつゴミ掃除をしていくとしよう。
階段へ通じる扉を開けた先の踊り場で、
「ほら、サティアスが奥にいた」と、トルシェたちに鳥かごを見せてやった。
「サティアスだ」「ホントだ」
「しばらく見なかったけど、生きてたんだ」「どっちでもいいけどね」
「こいつが悪魔崇拝者たちがいう最上級悪魔だそうだ」
「キャハー。そんなバカなー」「サティアスってそんなに偉かったんですか? 嘘みたい」
「だよな。ペットのくせに、祭壇の上でふんぞり返っていたんだぜ」
「ここの連中はサティアスをありがたがっている連中ってわけだから、そこらの犬のフンでもありがたがりそう」
「それはあるカモ」
酷い言われようだが、実際俺たちからすればサティアスなどその程度のものだ。サティアス自身も何を言われようが黙っているし、妙なことを口走ればエライ目に遭うことくらいわかっているはずだからな。
「ここから1階ずつ下に下りながら掃除をしていこう。その間に目ぼしいものが有ったら回収だ」
「イェーイ!」「はい!」
「今日は半殺しの予定だから、上から順にこのビルの真ん中まで掃除すれば十分だろう。
次来るときはまた増えてるかもしれないしな。
そういえば、サティアス」
「は、はい。何でしょう」
「お前、魂の対価にチンケな能力を崇拝者にやってるんだってな」
「申し訳ありません」
「別に怒っているわけじゃないが、もうすこしまともな能力ってなかったのか? 俺のところに能力者とかいって何回かやってきたんだが、少しも遊べなかったぞ。最後に3人きたのはトルシェが召喚したスケルトンにほんの一瞬で3匹まとめて頭を砕かれて死んじゃったしな」
「相手が悪かったのかも?」
「バカ言え。スケルトンに一瞬だぞ。
悪魔というのは魂を吸収したら、吸収するほどレベルアップするんじゃないのか?」
「これでも、昔に比べればずいぶんレベルアップしているつもりなんですが」
「修業が足らんな。
どうだ、俺が鍛えてやろうか?」
「ありがたいお言葉ですが、遠慮いたします」
俺とサティアスがバカ話をしているあいだにも、トルシェとアズランは下の階に突入して片っ端から悪魔崇拝者たちを掃除していっている。
俺は後から歩いていってコロに後片付けさせる係だ。最初の階はだいたい5分で片付いた。
そんな感じで掃除をしていき、10階分の掃除が終わった時には、それでも1時間近くかかっていた。
「目ぼしいものがありませんねー」
「出てくる連中みんな精気の無い顔をしてたんですが、首を切ったら血も噴き出るし、人間だったようだけど、どこか変だったな」
「サティアス、お前何か知ってるか?」
「私と契約して能力者になった連中は別ですが、自分たちの魂を削ってなにか大きなことをしてたようです。私は関心なかったので内容は分かりません」
「削った魂はどうなったんだ?」
「どうもこの建物の地下に何かあるようで、そっちに吸われていっているようでした」
「ふーん。何だか面白そうな話だな。掃除しかしてないからちょっと飽きてきたところだ。
どれ、掃除はこれくらいにして、地下にいってみようぜ。魔神がいたら面倒だがまさか魔神はいないだろ。いたとしても、俺も今では女神さまだ、昔の俺じゃないから何とでもなるだろう」
「はーい」「へへへ」




