第8話 お買い物と変態3人組
ホテルの地下はホテルの隣りの60階建てのビルと連絡しているのでショッピングモールは結構広い。
そこをブラブラしながら下着や普段着、それに靴を買い込んでいった。やはりスポーツメーカーのシューズは履きやすい。ランニング用とウォーキング用とあったがよく違いは分からなかった。なんとなくランニング用の方がよさげだったのでランニング用シューズを2足ばかり買った。トルシェもアズランも俺のマネをしてランニングシューズを買ったようだ。
さすがに金糸の入った黒い絹のローブを着ているのは目立ちすぎるので3人とも店で買った普段着にすぐに着替えた。
着替える前の俺たちは危ないコスプレーヤーだったが、いまでは立派なシティーギャルと超美少女二人組だ。いまどき、シティーギャルなる言葉があるとしてだがな。
俺の格好は無難に細身のジーンズにやや厚めの白の長そでシャツ。トルシェとアズランにはゴスロリを着せたかったが暑苦しい、動きづらいと言って断られ、結局二人とも俺と同じような格好になった。
トルシェは赤い細身のパンツに白のブラウス、その上に薄黄色のカーディガン。トルシェは緑色のひざ丈のパンツにベージュのブラウスを選んでいた。各人の好みは尊重しないとな。それはそうとたかがズボンとシャツだったが結構な値段だった。
俺が異世界帰り、トルシェとアズランは異世界生まれ。田舎者と思ってぼったくっているんじゃないだろうな? とはいえ、一着では洗濯もできないので、俺もそうだが似たような服をそれぞれ二着くらいずつ買っておいた。
「これで奇異な目で見られなくなった」
「ダークンさん、何だかこれまで以上に視線を感じるんですが?」
「アズランは敏感だからな。こういっては何だが、トルシェもアズランも相当な美少女だからな。この国にはお前たちのような美少女はかなりニーズが高いのだ」
「ニーズ?」
「そうニーズだ。いろんな意味で高く売れるってことだ」
「わたしたちが奴隷に?」
「この国には奴隷制度はないが、似たような商売はある。騙されないようにしないと気付けば実質奴隷になっていることさえあるんだ」
「それは怖いですね。でも何であれ叩き潰せばいいんですよね?」
「それはそうなんだが、何度も言うが、証拠を残さないようにしないと後々面倒なんだ。悪人だろうと勝手に殺すと、殺した方も罪に問われる。そういった世界なんだ」
「変な世界ですね。でも、そこらの官憲がわれわれを罪に問えるんですか? やってきた連中を片っ端から皆殺しにしていけばいいんじゃ?」
「それはそうだが、それをするとこの国ではあっという間に官憲殺しが国中に知れ渡ってしまうので、まともな生活できなくなるんだ。この国は便利だし、この国ほど生活しやすい国はない。ということで特にトルシェ、面倒なことはしないでくれよ」
「嫌だなー。ダークンさん。この3人の中で最も常識的なわたしにそんな注意は不要ですよ」
本人が自分のことを非常識ないし無常識と思うことはまれだしな。自信の塊のトルシェだ。こんなものだろう。
「さて、服も買って着替えたし、次は何をするかな?」
「ダークンさん、変なヤツらがこっちに近づいてきます。明らかに私たちが目当てのようです」
「俺たちに用事があるということは? 暇つぶしになればいいがな」
俺たちは通行人に迷惑にならないように通路から引っ込んだ袋小路に入ってアズランの言う変なヤツらを待っていたら、ニヤついた若い男の3人組が俺たちに話しかけてきた。
左右の指に銀色の指輪を三人ともしていて、ピアスやら何やらで顔をデコレートしている。
あっ! そういえば俺の『支配の指輪』がどこに行ったのかこの世界に戻って来た時以来指先から消えて無くなっている。向こうの世界に置いてきてしまったか?
これまでお世話になったが、神となった俺には不要だし、トルシェやアズランもこの世界ではあれが有ろうがなかろうがケガなどすることなどないだろうしどうとでもなるだろう。
俺たちに話しかけてきた兄ちゃんたちを見るにつけ、世の中見た目だけで判断してはいけないとよく言われるが、それは最低限の見た目をクリアした後の話で、それ以前の連中はすべてがそれ以下のヤカラと言い切って差し支えない。
「ねえ、イカスきみたちー、僕たちと遊ばない?」
異世界帰りの俺だが、今どき『イカス』とか言う言葉があるとは知らなかった。こいつら田舎から出てきたのか? おっと! 田舎出身者をバカにした思考はこれからは厳禁だ。頭で考えているとやがてそれが口を突いて出てくる。なぜそういった言葉を口にしてはならないかというと、この世界には妙な輩が徘徊してそういった他人をバカにしたようなことを公の場で発言すると『差別』だ何だと騒ぎ出すのだ。これは女神の勘なのでまず外れることはない。
兄ちゃんたちの一人、薄っぺらいチャラ男が俺の肩に手を伸ばそうとしてきた。その手を軽く躱して
「お前たちと遊ぶと何かいいことでもあるのかな?」
「なにー、このお姉さん、変わった口の利き方するー!」
「おっもしろーい!」
「うけるー!」
やっぱりこいつらは危機管理能力が欠落しているようだ。俺はもちろんだがどう見てもか弱い少女っぽく見えるトルシェとアズランが薄ら笑いを浮かべていることにも気付けないようだ。
俺たちのいるのは30メートルほどの袋小路になった通路で、ベンチが並んで置いてあり、そこに数人座って休憩している。中には俺たちの方を見ている者もいるので、赤いものが飛び散らないようにこいつらを処分する必要があるが、果たしてどうしてやろうか。
そうだ! いいことを思いついた。ほんとならこいつらを脅してお布施をいただくところだが、さすがに人目が多いのでやめておこう。その代り女神さまのお慈悲でこいつらには一生の思い出をプレゼントしてやろうじゃないか。
『コロ、こいつらの着ているものを全部食べてくれ。中身はそのままな。そうだ、髪の毛とバッチいけど下の毛も食べていいぞ』
ベルト状態のコロから触手が伸びて、男たちの衣服を一瞬できれいさっぱり食べてしまった。頭の髪の毛も毛根からきれいに食べたようで、普通なら青ぞりの坊主頭になるのだろうが、禿げ頭は肌色だ。もちろん下の方もツルツルだ。どちらも一生ものの永久脱毛のハズ。俺のプレゼントだ。大事にしてくれ。
そこで俺はすかさず、
「キャー! 変態3人組ー!」
大声で叫んでやった。女言葉を使うのはこういう時でないと恥ずかしいが、こういう時だと俺でも結構それらしい声を上げることができることを発見した。
変態の意味は分からなかったようだが、トルシェとアズランも面白がって、
「キャー! へンターイ!」「キャー! ヘイターイ!」とか大声で合唱してくれた。
俺たちの悲鳴を聞いて人がどんどんが集まって来た。
パシパシとスマホのフラッシュがたかれた。動画に撮っている者もいるようだ。これで彼らは全世界的に有名になることだろう。目指せ動画再生1億回!
一斉にたかれたフラッシュの中で何が何だかわからないうちに気づけば全裸になった上、上と下がツルツルになった男たちは大事なところを隠して走って逃げていった。俺たち自身も撮影されてしまったが国際救助隊サン〇ーバードではないのでこれについてはもはやどうしようもない。
「ああいった虫けらはどこの世界にもいるんだなー」
「ですねー」「あの大きさが標準ですか?」
約1名学究心があるのか変な感想があったが、まさに異世界だろうがこの世界だろうが人類はみな兄弟姉妹を実感してしまった。