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第77話 出撃準備


 涼音相手に女神おれさまの『千年王国』構想をぶっていたら、リビングの固定電話が鳴った。


「失礼します」といって涼音が電話に出た。


「ダークンさん、バイザーさんから電話です」


「サンキュ」


 俺が代わって電話に出てやった。


『IEAのバイザーです』


「お前、まだ日本にいたのか?」


『いえ、この電話はバチカンからです。日本事務所から経由してもらってます』


「そんなこともできるんだ。それで、俺に何の用だ?」


『大規模な悪魔崇拝者組織の本拠地アジトを発見したものですから、女神さまにお電話しました』


「どこだか言ってみろ。まさか、大陸中国の成都とは言わないよな?」


『ご存じなのですか?』


「俺は女神さまだから、と言いたいところだが、ひょんなことから、先日連中のこの国でのトップを捕まえたんだ。それでそいつに本拠地の場所をしゃべらせた。悪魔に魂を売っていたやつだったが、俺が祝福してあの世に送ってやった。消えてなくなる前、俺に感謝してたぞ。

 それはいいとして、その本拠地にはサティアス・レーヴァの恩恵しゅくふくを受けたエージェントとか呼ばれる連中がいて、そいつらが俺のところに2度ほど遊びに来たんだ。

 最初にきた3人は俺が直々遊んでやったが、あんまり弱っちかったので、2度目の3人組は花子に相手させたら、一打ち3匹で、ハエを叩き潰すような感じで頭を3個まとめて粉砕して一瞬のうちに退治してしまった。それ以来、遊びに来てくれなくなってな。

 トルシェとアズランは忙しくしてるが俺は暇なので、近いうちにでも成都に遊びにいこうかと思っていたところだ」


『そうだったんですね。さすがは女神さま。われわれはこの情報を得るためだけでも2級以下ですがかなりの数のエージェントを失っています』


「あんな連中に後れを取るようじゃダメだろ。もう少し鍛えた方が良いんじゃないか? なんならこれ以上死なないようにお前のところの若いもんをゾンビにしてやろうか?」


『女神さまはゾンビを作れるのですか?』


「俺はできないが、トルシェがな」


『あんなかわいい顔をして、そんなことができるとは驚きです』


「そうか、お前はトルシェのスッポーンを見たことがなかったんだな。あいつは特別沸点が低いから気を付けた方がいいぞ。怒らせると怖いからな」


『あのう、スッポーンとは?』


「人間の頭の上半分だけを真上に吹き飛ばす魔法だ。未公認ではあるが、トルシェは世界記録保持者だ。天井がなければ、10メートルは上がるぞ」


『ゾンビも凄いですが、そっちも大概ですね。

 ところで、メッシーナはどうしてますか?』


「あいつは武器の訓練そっちのけで走り込んでいる。1万メートルで30分を切れば自分に勝ったことになるとか言ってたぞ」


『1万メートルって10キロですよね。1キロ3分、100メートルだと18秒。それをぶっ続けで30分。まさか』


「この前は、1万メートルを30分ちょっとで走ってたぞ。女子の1万メートルの世界記録が29分らしいからな。それはそうと、お前のところ(IEA)でのメッシーナの扱いはどうなったんだ?」


『それが、本人がいないのでまだ結論は出ていません。おそらくエージェントから身を引くよう勧告すると思います』


「ふーん。あんなに酷い入れ墨をしておいてそれだけか?」


『申し訳ありません。私も大反対なのですが、上が決めてしまえば私ではどうしようもありません』


「まあいいや。俺が面倒を見てやる」


『引退時には慰労金がそれ相応支払われますから、そこは安心してください。おそらく1千万ドルほどになると思います』


「1千万ドルと言えば聞こえはいいが、この前の悪魔と同じ値段じゃないか」


『申し訳ありません』


「まあいいや。それで、話はそれだけか?」


『いえ。本題は、女神さまにぜひその悪魔崇拝者の本拠地襲撃に参加していただきたいという依頼です』


「俺に依頼か。受けてやってもいいが条件がある」


『金銭的なものならかなりの額が用意できると思います。エージェントを送り込めばこちらも少なくない犠牲を払うでしょうから、金銭で済むならそれに越したことはありません』


「金はあって困るもんじゃないからいただくが、来週あたり羽田からの飛行機便を手配してくれないか? 成田は面倒だから羽田からだからな。そこはきっちりしてくれよ。あと俺はパスポートも何も持っていないからそこもな」


『了解しましたが、そんなことでよろしいのですか?』


「特に望みはない。最初から俺一人で行こうかと思っていたところだからな。

 それで、そっちからは何人くらいやってくる?」


『女神さまがご出馬になるのでしたら、私とあと2、3名になるかと思います』


「そうか。だったら、こっちはメッシーナとフラックスを連れていこう。二人の出入国のことも頼んだ」


『了解しました。

 段取りでき次第日本事務所の者に届けさせます。おそらく二日後には用意できると思います。バチカンの外交官としてのパスポートになると思いますのでご了承ください』


「了解した。そしたら、俺はお前のマネをして修道女のコスプレするとしよう。修道女のコスプレ衣装も用意してくれるとありがたいんだがな。それと、細かいようだが飛行機は日本の飛行機会社にしてくれよ」


『私はコスプレではないのですが、了解しました。それでは失礼します』



 そうと決まれば、メッシーナに話をしておかないとな。


 俺が、涼音に、


「メッシーナに用ができたからちょっと奥に行ってくる」


 そうことわって、奥の陸上競技場に向かった。


 いつも通り、メッシーナとフラックスが凄い速さでトラックを走っている。タイムを計っているスタート地点に置いてある時計を見ると、25分過ぎたあたりだったので、1万メートルを走っているならもう数分でゴールだろうと、スタート地点で二人が走り終えるのを待つことにした。



 時計を眺めていたら、二人がゴールした時間は29分30秒だった。目標の30分は達成したのにもかかわらず走っているところも見ると、記録を狙っているのかもしれない。世界記録は29分ちょっとだったはずなので、もう一息だ。


「メッシーナ、ちょっと話がある。息を整えながら聞いてくれ」


「ハア、ハア、ハア、……」


「来週あたり、悪魔崇拝者どもの本拠地のある大陸中国に行くことになった。メッシーナもついてこい。もちろんフラックスも一緒だ」


「ハア、ハア、わかった」


「ところで、メッシーナ。お前のナイフの腕前はすこしは向上しているのか?」


「イメージトレーニングだけはしている」


「イメージだけか?」


「そう。イメージだけ」


「練習相手はフラックスなんだから、遠慮せずにガンガンいっていいんだぞ」


「2、3度練習したんだけど、なぜかナイフが勝手にフラックスに当たる」


「うん?」


「フラックスは人間じゃないから死なないけれど、相手が人間だったら間違いなく死んでる」


「それで訓練をしていなかったのか?」


「そう。なにかおかしな力があのナイフに働いてるような気がしてナイフの訓練はしてなかった」


「変だな。俺のスティンガーにそんな効能はなかったはずだがな。それじゃあ、試しに俺と手合わせしてみるか?」


「うん。やってみる。スティンガーを取ってくるから待ってて」


 そう言ってメッシーナは競技場から走って出て行き、すぐにスティンガーを持って戻ってきた。何気に足の速さが生かされていた。



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