第69話 罰当(ばちあ)たり男、首チョッパ女、干し首男
俺に向かって怪人などと言った罰当たり男が、今度は俺の大好物の呪いをかけてきた。俺はそれを逆手にとって遊んでやろうと、どういった呪いなのかは分からないが、その呪いで身動きできなくなったようなフリをすることにした。
俺が動かなくなったのを見て、罰当たり男が偉そうに、
「フッ。口先だけのヤツめ。止めを刺してやる」
今の罰当たり男の言葉を聞くかぎり、こいつの呪いを受けた者の反応として黙って突っ立っていることは正解だったらしい。呪いで動けなくなった素人演技を不審にも思わず、罰当たり男は上着の内側に隠し持っていた大型ナイフを手に持って俺に近づいてきた。
ナイフごときで俺のダークサンダーをどうしたいのか謎だが、放っておけば自然と謎が解けるので俺は黙って突っ立ったままでいた。
男は俺に近づいてナイフを突き刺そうとしたのだが、俺のダークサンダーにはナイフを突き入れることができそうな隙間はどこにもない。
「この鎧は一体どうなっているんだ? 脇とかヘルメットと胴の間とか普通は隙間があるんじゃないか?」
普通がどんなものかは俺にはわからないが、ないものは仕方がない。
男はナイフで突き刺すのを諦め、突っ立っている俺を思いっきり蹴りつけてきた。
「痛い!」
物理攻撃完全反射のダークサンダーだが、罰当たり男の蹴りが体重の乗っていない前蹴りだったせいか、男は蹴り足にダメージを受けなかった代わりに、後ろにひっくり返って尻もちをつき座骨を打ったようだ。さっきの「痛い!」はもちろん罰当たり男の声である。
「畜生、こいつはどうやれば止めが刺せるんだ?」
男は尻もちから立ち上がり振り返って先ほど俺が首チョッパして落っこちた頭を拾って元に戻した女に向かって大陸語で何かしゃべった。
その言葉で、首チョッパ女がなにやら妙な構えをとり、俺の方に両手のひらを向けてきた。
何か魔法的なものでも飛び出すのかと思って見ていたら、首チョッパ女の両手から、おそらくはファイヤーボールと思われるヘロヘロな火の玉が俺に向かって飛んできた。
ヘロヘロファイヤーボールでも一般人に当たれば体が吹き飛んで即死するかもしれないが、あいにく俺は一般人ではない。
ファイヤーボール(仮)がじっと待っている俺にやっとのことで命中して、爆発するでもなく「ボン!」と音を立てて弾けた。
あれ? ファイヤーボールと思ったが違ったか?
トルシェの禍々しいファイヤーボールを見慣れているせいで、今の魔法がいったい何だったのか分からなくなってしまった。
何だかわからない魔法攻撃を受けた俺はどう反応していいのか困ってしまった。このままやられたフリをして地面に転がってしまおうかどうしようかと迷っていたら、機を逸してしまった。仕方ないので、突っ立ったままでいることにした。
首チョッパ女と罰当たり男はファイヤーボールを受けた俺がどう見ても無傷で突っ立っていることで、言い争いを始めてしまった。
その間、俺が頭を砕いて頭が吹き飛んだ男の首の上に小さな頭ができていた。アマゾンの原住民が作る小さな首そっくりだ。あれってなんていったかなー? そうそう「干し首」だ。よく覚えていたものだ。干し首男は頭が膨らんでくるのを待っているのか、俺と同様突っ立ったままだ。なんだか親近感が持てるな。
罰当たり男との言い争いを止めた首チョッパ女がこんどは白目を剥いて何やらへんてこな身振り手振りで踊り始めた。特に腰のあたりの動きに特徴がある。強いて言えばインドのベリーダンス。着ているものが黒い男物のスーツなので、ベリーダンスもたいがいだが、どうも場違いな感じがする。
せっかくなので、
『コロ、女の着ているものを下着を残して全部食べてくれ』
あっという間に首チョッパ女の服が消えてなくなった。女は胸当てを着けていなかったようで、胸をさらけ出し、超小型黒パンティー1枚になった。女の胸は結構大きく、その大きさで胸当てがないのは逆につらいのではないかと思われるくらいのモノだった。
黒の革靴と黒い靴下は今回は着ているものの範疇に入らなかったようで、履いたままだ。そのせいか白目をむいて踊り狂っている首チョッパ女は、自分が露出狂状態であることに気づいていないようで、そのまま胸を揺らせて腰を振りながら踊り狂っていた。
罰当たり男も、干し首男もこれには驚いたようだ。干し首男が小さな顔で驚いたさまを見て、俺はほっこりさせてもらった。
首チョッパ女改め露出狂女は一体何がしたかったのか? なにかシャーマン的な呪術でも発動するのかと待っていたが、何も起こらない。
こいつら一体どういう取り合わせだ?
露出狂女のバカ踊りも飽きてきた俺は、呪いで動けなくなったフリを止め、
「そろそろいいかな?」
そう言って一歩前に出た。
俺の言葉が運よく耳に入った露出狂女は自分の半裸というより9割全裸状態を把握することを脳が半分だけ拒んだようで、変なポーズをしたまま停止してしまった。
残った罰当たり男と干し首男は一歩、二歩と後ずさっていった。
あいにく投げても使えるダガーナイフ、スティンガーはメッシーナに貸し出しているので、飛び道具が手元にない。
仕方ないので、地面に転がっていた適当な石を拾い上げ、停止中の露出狂女に投げつけてやった。
投げた石は5センチほどの角ばった石だったが、それが露出狂女の額に当たった。音速は超えてなかったと思うが、露出狂女の頭はそれだけで爆散してしまった。女は9割全裸の格好のままで後ろに倒れていった。頭が無くなったので、放っておけばコイツも干し首女になるのだろうが、待っている必要もないので、コロに食べさせた。これで一匹。
俺とすれば罰当たり男だけ生かしておけば十分なので、もう一度、今度は大き目の石を拾い、後ろに下がる干し頭男の胸目がけて投げつけてやった。それだけで、男の上半身がちぎれ飛んでいった。まだ生きているのだろうが、コイツもコロに食べさせてやった。これで二匹。
「どうせ自分の魂を対価に悪魔の恩恵を受けたんだろ? そういった連中は単純に死んだらお終いではないと思うぞ」
立ち尽くす三匹目に向かって俺が思ったことを言ってやった。
「……」
「どうだ? 俺の尋ねることに素直に答えれば命だけは助けてやる。
俺は嘘はつかないとしか言えないがな」
「どういった質問だ?」
フッ。エージェントとか言っていたが所詮は素人相手に粋がっていたタダの素人。チョロイもんだ。




