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第68話 お客さま遠方より来る、また楽しからずや。


 みんなでマンションの下の食堂街で昼食をとった後、アズランはそのまま発信器の取り付けに出かけ、トルシェは部屋に戻って奥の方で作業を始めた。アルコールで何がどうなるわけでもないアズランだが、アズランはたいてい車で出かけるので、俺たち周囲も含めて昼食時の酒は控えている。


 俺は涼音たちとリビングのソファーで花子に淹れてもらったお茶を飲んでいたら、やっとお待ちかねのお客さまがいらっしゃったようだ。頭のおっさんにも見せてやりたいが、もちろん面倒なので頭のおっさんは放ったままだ。


 以前バイザーたちが押し入って来た時と同じように、玄関から廊下を土足で歩く数人分の足音が聞こえ、すぐにリビングのドアが開かれた。またまた押し込み強盗風な連中だ。


 玄関の鍵については、最近俺たち3人のうち誰かが涼音のマンションにいる時は、押し込み強盗さんのようなみなさんに鍵を壊されても面倒なので、鍵をかけないようにしている。


 押し入ってきたのは、黒いスーツ姿の3人組で中の一人は女だった。3人とも東洋系の顔をしていたので、頭のおっさんが言っていたエージェントだとすぐにピンときた。だからといって110番に通報はしないけどな。


『ようこそ!』


 口には出さないがそんな気持ちだ。


 花子がすぐに涼音と白鳥麗子を庇うように二人に前に立った。俺は立ち上がりながらダークサンダーを装着してやった。本当はメッシーナとフラックスを呼んで二人に対応させた方がよかったのだが、呼びに行くのが面倒なので俺が直々対応することにした。


 俺の変身姿に押し入ってきた3人は一瞬たじろいだようだが、その程度でたじろぐような連中が、俺を楽しませてくれるのかいささか疑問だ。とは言え、奥の方で作業しているトルシェに見つかると涼音のマンションがメチャクチャになってしまう可能性が高いので、


「お前たち、頭のおっさんみたいにどこかの異空間で戦うとかできないのか?」


 頭のおっさんで通じるとは思わなかったが、おっさんの名前を聞いたかもしれないが忘れているので、頭のおっさんで押し通すしかない。


 それでも、俺の言ったことが通じたようで、気付けばまた異空間さいせきじょうの跡地に立っていた。


 俺にとってもおそらく連中にとっても運よく、俺と3人組以外この異空間にはいないようだ。


 3人組は頭のおっさんとは違い、俺と同じ採石場の一番底、俺から20メートルほどのところに立っていた。


「お前が、王良おうりょうを斃した怪人だな!」


 頭のおっさんの名まえは王良おうりょうだったか。そういえば使い込みをしそうな名前だと最初に思ったんだった。


 いま女神おれさまに向かって怪人といった罰当たり(バチあたり)な男のイントネーションはしっかりしていたので、この男は日本人かもしれない。俺にとって必要な情報はこいつらの本拠地の場所だけだ。後の二人は日本語が通じるかどうかも分からないので、こいつは最後に処分する(バチをあてる)ことにしよう。



 相手てきの質問に答えるのはアニメや漫画の世界の話だ。これから殺す相手に情報を与える必要などなにもない。逆に質問には質問で返し少しでも情報を得る。これこそが正しい対応なのだ。俺のように手に入れた情報を30分もしないうちに忘れるようでは意味はないかもしれんがな。


「お前たちが頭のおっさんの言っていた悪魔から恩恵しゅくふくを受けたエージェントのようだが、その悪魔がモブキャラのサティアス・レーヴァというじゃないか。お前ら、関西のお笑い会社に就職できるんじゃないか?」


 俺の言葉が先ほどの男以外は理解できなかったようだ。残りの二人が小声で先ほどの男から説明を受けていた。なんだか悠長な連中だ。る気があるなら何も言わずに攻撃してこいよ。どうせこの連中、一般人相手にヌルゲーをしてたんだろう。甘いんだよ。


 力の差をメイドの土産に持っていけ! おっと、これはいいセリフだな。今度花子にメイド服を着させて、菓子折りを持たせたら面白そうだ、と閃いてしまった。


 この異空間内では叩き切ろうが、叩き潰そうがよそ様に迷惑がかからないので、俺は腰に下げたエクスキューショナーとリフレクターをそれぞれ手に持ち、らしく構えて意識を戦闘状態に移行させた。


 おそらくこれで、俺は10倍速の時間の中にいる。アズランに比べれば劣るものの、常人などに比べればはるかに素早い俺が、さらに10倍速く動き回れるようになったわけだ。20メートルの距離など1秒もかからない。


 そらな。


 俺が通り過ぎた後で、女の頭が地面にころがり、罰当たり男ではないもう一人の男の頭が破裂していた。


 10メートルほど通り過ぎて振り返った俺は、最後に残った罰当たり男に向かって、


「もう少し、俺を楽しませてくれると思ったがな。こんなものなのか?」


 ちょっと挑発してやったのだが、首の上をなくした女が自分の頭を地面から拾い上げ首にくっ付けてしまった。頭をカチ割ったはずの男の方は部品が散らばったせいか再生はしていないが、それでもまだ生きているようだ。やはり、頭のおっさん並みの再生能力はあるようだ。


「われわれを甘くみない方がいいぞ!」


 いやいや、今の俺の動きに全くついてこられなかったのだが。


 面白いので一つだけこいつらに情報を教えておいてやろう。


「お前たちの仲間だった、頭のおっさんだがな、どうして頭のおっさんというのか教えてやろう。おっさんの体を切り刻んだ後、俺のペットのスライムがそれを全部食べたから今は頭だけになっているんだ。それだと口がきけないから、口がきけるように細工して、さっきいたリビングの奥にある俺たちの本当の拠点に置いている。お前たちも下等動物並みに生命力だか再生能力があるから同じようにサンプルとして、そこの頭をなくした男以外の頭をいただいてやろう」


 俺の言った言葉を、罰当たり男は理解したはずだが、特に返事はなかった。


 その代り、男が口の中で何かもごもご唱え始めた。


 フウー。何だ体の中がホカホカと温まって、実に気持ちがいい。


 なるほど、こいつは俺に向かって呪いのようなものをかけていたのか。常闇の女神たるこの俺さまは呪いの類は大好物ということを知らなかったのだろうな。そこは、仕方ないかもしれない。


 これまで、俺に向かって呪いの類をかけてきたヤツらは、一様に俺が呪いを受けても何ともないことに驚いていた。ここはそれを逆手にとって遊んでやるのも面白そうだ。



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