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第66話 取りあえず飲み会


 リビングの隣の小部屋の先にある拠点に入ると、トルシェが言っていたように追加で部屋が拡張されているようで、大部屋入り口の反対側の壁に大きな扉がついていた。


 今は扉が開け放されていて、扉の向うでメッシーナとフラックスがスポーツウエアを着てランニングをしているのが少し見えた。スポーツウエアとシューズは下でテナントとして入っているのかどうか知らないが。そこらのスポーツ用品屋で午前中に買ってきたのだろう。


「あいつら向うの部屋の中でランニングしてるようだが、向うの部屋はどれくらいの広さがあるんだ?」


「縦横200メートルで天上の高さは50メートル、そんな感じです」


「それはすごいな。」


「100メートル四方が1ヘクタールだから、4ヘクタールか。ヘクタールにすると大したことなさそうだが、4万平米か。マンションの一部屋と考えると、ちょっと広いな」


「作る手間は一緒だし、陸上競技会を開くためにはこのくらいあった方がいいかなって」


「陸上競技会を開くつもりがあるのか?」


「神の国ができ上った後の話ですよ。ダークンユーゲントの若者たちに使わせてもいいし。それで、魔道具の照明の数もさすがに足らなかったので、今は動く天井にしています」


「動く天井?」


「この部屋はいまのところヒマラヤ固定だけどむこうの部屋はいつも太陽が真上で晴天になる場所につながるようにしました。競技場は夜になる必要もないし、青少年にはいつも昼間の方が便利かと思って。紫外線は遮断したうえ、太陽が真上にあると言っても暑くならないよう赤外線部分もかなり遮断してますからだいじょうぶです」


「なるほど。

 俺の眷属筆頭、『闇の右手』トルシェがちゃんと将来のことを考えているようで、俺は嬉しいぞ」


「エヘヘヘ。それほどでもー」


 トルシェが嬉しそうにはにかんで見せた。確かにトルシェは美少女だ。正確に言えば相当アブナイ美少女だけどな。




 メッシーナたちは勝手に頑張っていればいいので放っておいて、大中華興業グループ本社で捕まえてきたおっさんの生首を瓶型ゴールデンプリズンから髪をつかんでとり出し花子やフラックスの改造に使った台の上に置いた。台の上に置く前、生首の切断面がこいつの再生能力で塞がっていたら面倒だと思って確認したところ、斬った後には皮膚が覆って傷口は塞がっていたが食道と気管だけはまだ開いていた。これなら声帯も残っている気がする。肺と気管を繋げて口がきけるようにするだけならこのままで十分だ。


 台の上に置いたおっさんの顔を改めて見ると目をぱちくりしていたので、まだちゃんと生きていた。


「なかなか生きがいいだろ? こんなになっても生きているから、再生医療の研究に役立つと思ってこのままの形で持って帰ってきたんだ。因みに下の部分は輪切りにしてコロに全部食べさせてもうどこにもない」


 目をぱちくりさせている生首を見て「ほう。お面白い」とトルシェ。アズランは一部始終を現場で見ていたので特に感想はないようだ。


「それでは、まずはスライムを召喚」


 何も演出もなく、すぐに台の上に4、5匹のピンク色のソフトボール大のスライムが現れた。


 演出が無かったのは一々スライムごときで演出に凝っていたら、尺に合わせた予算オーバーするためプロデューサーに止められたのかもしれない、などと勝手な想像をしていたら、トルシェがてきぱきとスライムをくっつけて変形させていった。最初に肺と気管のセットを作り出し、おっさんの生首の底に空いている孔に2つの器官を繋げて孔を塞いでしまった。


 フラックスと花子を改造してノウハウを掴んだのかかなり手際がいい。さすがは大賢者トルシェだ。魔法を極めた今になっても日々精進していることがうかがえる。


「どうだ? こいつは話ができるようになりそうか?」


「大丈夫だと思います」


「生首と肺のセットを台の上に置いておくと、あまり見てくれは良くないな」


「それなら、こいつに適当なスケルトンの体でもつけてやりますか?」


「この生首を付けたスケルトンがそこらを歩き回ると、なんだかスケルトンに対する冒とくのような気がするから、そんなことはしなくていいよ」


「ダークンさんはスケルトンには思い入れがあるんですね」


「それはそうだろう。俺が生まれ変わって最も親しんだ種族がスケルトンなんだから。

 そういえば、サティアスから恩恵しゅくふくを受けたエージェントがやってきたら、このおっさんと同じような再生機能を持っているだろうからそいつらも捕まえてこんな形にしてしまうか。それで、バイザーに売りつければそれなりの金になるんじゃないか? 悪魔一匹で14億だ。この生首でも1億にはなるだろう。あとでIEAのバイザーに伝えておこう」


「どうせ、大した連中がやってくるわけじゃないでしょうから、お金になると思って相手になってやりますか」


「俺たちが出張ってしまうと面白くも何ともないだろうから、メッシーナたちに訓練を兼ねて対応させてもいいな」


「それもいいかも。

 よし、これで完成です」


 俺と話をしながらもちゃんと手を動かしていたトルシェが作業終了を告げた。


「おい、おっさん。俺の声が聞こえるんだろ? これでお前は口が利けるようになったはずだから、ちゃんと返事をしてみろ」


「ふぁ、ふぁい?」


 発音にまだ慣れていないようだが、声は出ている。もう少し練習させてから話をさせた方がお互いストレスが溜まらないだろう。


「どうも発音がまだうまくできないようだから、お前はそこでしばらく発声練習でもしていろ。発声練習ってわかるだろ? 変則五十音。

 アエイウエオアオ

 カケキクケコカコ

 ……

 これだ」


 ちょっとだけ発声練習のアイウエオを教えてやった。


「ウァ、ウェ、ウィ、ウ、ウェ、ウォ、ウァ、ウォ」


 まだダメダメな発声だがそのうち良くなるだろうということで、そのまま発声練習を続けさせることにした。ただ、部屋の真ん中でそんなことを続けられたら鬱陶しいし、うるさいのでおっさんを乗せた台ごと部屋の隅に移動してやった。部屋の隅からわずかに発声練習の声が聞こえてくる。これくらいの騒音なら我慢できる。



「一仕事終わったから、そろそろの飲み始めるか?」


「さんせー」「はーい」


 ということで俺たちはそのまま飲み会に突入した。


 俺が酒樽をキューブから何個か取り出して花子に渡し、そのあと作り置いてキューブに入れていた料理をどんどんテーブルの上に食べ物をならべていく。


 花子が給仕してくれるのでそこらの店にいるのとさして変わらなかった。そのうち匂いにつられたのか、白鳥麗子がやってきて、その後涼音がやってきた。


 メッシーナたちはまだ訓練を続けているようで、いまのところ俺たちの飲み会には参加していない。



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