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第65話 白鳥麗子2


 住んでいたアパートが全焼した白鳥麗子は、涼音の電話を借りて銀行とかカード会社に連絡を入れていた。カード関連は全滅だろうから仕方がない。


 新しいカードが来週にはここに送られてくるようだ。


「ところで白鳥麗子、お前は仕事の方はいかなくていいのか?」


「えーと、私の会社は先々月倒産してしまったので、今は仕事を探しているところです」


「そういえばハロワがどうとか言ってたか。そにかくそれは大変だ。貯金で食べていたのか?」


「雇用保険と貯金で生活していました」


「それならどうだ、俺のところで働かないか?」


「ダークンさんのところというと、どういった仕事なのですか?」


「今はそこらでブラブラしていればいい。準備が整ったらお前をテストケースとしてどこかの選挙に出して地方議員にする。その時はその地方に住んでいる実績がいるから、選挙の3カ月くらい前には住民票を移してアパートを借りて住まないといけないな。近所の人にも挨拶して在住アピールすればなおいい」


「地方議員といっても、そんなに簡単に議員に成れるんですか?」


「成れる。俺が議員にしてやる。そのあと、国政選挙があるだろうから、その時は地方議員を辞めて国会議員に鞍替えだ」


「私が国会議員」


「ところで、白鳥麗子、お前は今何歳だ?」


「24歳です」


「俺より年上とは思わなかった。24ということは確か涼音と同い年だな」


 そういうと、涼音が頷いた。俺の記憶力もまんざらではなかった。


「俺の歳は無意味だからどうでもいいがちょうどいい。確か地方議員の被選挙資格も25歳以上だったと思うからなんとかなるだろう。いずれにせよそれまでは何もすることはないから、選挙関係の法律やら何やらをしっかり勉強しておけばいい。必要なパソコンなんかは適当に注文してくれ。

 給料はどうしようかな。月給だと面倒だから年俸制にするか。俺のところに勤めていても会社じゃないし、社会保険は自腹になるだろうから、年俸1000万でどうだ。全て自腹になるから、少々安いかもしれないが衣は別としても、食住はほぼタダだからそんなものでいいだろう。見た目無職だから所得税、住民税は払わないでいいから、全額手取りだ。どうだ? おそらく健康保険も最低額だろうし手続きすれば国民年金も免除されると思うぞ」


「1000万円は魅力ですが、無職の私が議員に立候補するんですか?」


「国民には定められた年齢に達しさえすれば、犯罪を犯して公民権を停止されていないかぎり被選挙権が自然発生する。胸を張って立候補すればいい。もし無職を中傷するような対立候補がいるようなら、いい攻撃手段になる。おそらくそのころにはこの国の主要メディアは俺の意図したような情報を発信するようになってるはずだから、そいつは悪い意味で全国デビューすることになる」


「主要メディア?」


「俺たちはこの国を変えようとしているのだ。主要メディアはそのためのただの道具だ。現在は準備中だがもう半年もすればかなりいい線いっていると思う」


 俺の今の言葉に、トルシェとアズランが頷いている。さすがは幹部だ。


「それで、どういった国にするのですか?」


 白鳥麗子が聞いてきたので、俺は『健全なる肉体に健全なる精神は宿る』論を展開し、


「そのためには、まずこの国を俺の思うように動かさなければならない。要は『神の国』をこの地上に実現するのだ」


 それまで俺の話を真面目に聞いていた白鳥麗子だが、俺が『神の国』と言ったとたん胡散臭そうな目で俺を見たので、


「お前、おれが悪魔を捕まえて解剖しているところを見ていたじゃないか。それでも俺が女神であることが信じられないのか?」


「ダークンさんのことはさすがに女神さまだとは思っていますが、いくら女神さまでも神の国はないんじゃないかなーって」


「まあいい。しょせんツバメやスズメでは、大空を舞う大きな鳥の気持ちなど分からんからな」


 俺が少しだけ教養のある言葉を言ったら白鳥麗子はきょとんとした顔をしていた。涼音は半分笑っていた。トルシェとアズランは頷いていた。トルシェとアズランはこの言葉も知っていたというのか?


「それはそうと、今日は結局新宿での募金活動はダメだったんだが、いい話を聞いてきた」


「なんですか?」


「実はバイザーの言っていた最上級悪魔サチウス・ラーヴァなんだが、単に発音の違いでどうもそいつはあの(・・)サティアス・レーヴァだったようだ」


「なんであんなのが最上級悪魔?」


「それは分からないが、何かのはずみであの世界から過去のこの世界にあいつがやってきたんじゃないかと俺は思っている。今までの感じから言って、数百年は俺たちよりも先にこの世界に来たような気がするな。

 そんなことはどうでもいいんだが、そのサティアスに恩恵しゅくふくを受けたエージェントが俺たちを斃すためにこの国に派遣されるらしい。それも複数だそうだ」


「でも、あのサティアス以下なんじゃ、あんまりおもしろくないんじゃ?」


「そうは言うが、この世界だとあんなのでもブイブイ言わせてるんだから、少しは遊べるんじゃないか? 何百年も修行していればあのサティアスでも少しはデキる悪魔になってると思うぞ」


「期待はあまりできないけれど、やってくるのを待ってましょう。

 でも、やってくるってことは、どこかからやってくるわけで、こっちからそこに乗り込んだ方が早くないですか?」


「残念ながら、その場所は聞けなかった。

 あっ! そうだ。そこであの生首の登場だ。

 トルシェ、最上級悪魔さまから恩恵しゅくふくを受けたおかげかどうか知らないが、その場所を知っているはずの男の生首を持っているんだ。その生首はまだ生きているんだが、首から下がないから発声できず声が出せないので何も話せない。トルシェが首から下の肺とか何かをそいつに作ってやれば口がきけるようになるんじゃないか?」


「できると思います。それじゃあ、すぐにやっちゃいましょう」


「そう言えば資材が届いたそうだが、そっちの方はどんな感じだ?」


「まだ全部届いたわけじゃないので、ある物だけは組立てているけどまだ何も動いてません」


「そっちはボチボチやっていけばいいさ。

 そういえば、メッシーナとフラックスは訓練中か?」


「あまり近くでばたばたされると気が散るので、二人用に訓練場を作ってやりました」


「良いんじゃないか。少しでもメッシーナの実力が上がれば。

 それじゃあ、奥の拠点にいって作業しようぜ」


「はーい」「はい」


「涼音と白鳥麗子は見たければ見学していればいいし、適当にしてくれ」


「はい」「はい」



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