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第60話 対峙2、運命の時


 おっさんが、砕石場の上の方から、


「こないようなら、こちらからいくぞ!」


 待ってるんだから早くしてくれよ。


 おっさんは俺から距離を取っているから、何かトルシェ的な遠距離魔法攻撃でもしてくるのかと思ったら、そのまま採石場の段を駆け下りて俺に向かってきた。それくらいなら、最初からすぐ目の前に立ってろよ。


 駆け下りてきたおっさんが、俺の腰のあたりを狙って回し蹴りを繰り出してきた。


 シュッ!


 それなりの風切り音がした。


 確かに言うだけあってかなりおっさんの蹴りはかなり鋭かったのだが、所詮は人の範疇。簡単に躱してやった。


 さらにおっさんが前に出て、また回し蹴りを放ってきた。今度は俺のヘルメットを着けた頭を狙っての回し蹴りだ。


 シュッ!


 この蹴りも俺は簡単に躱したのだが、風切り音と一緒に、ビリッ。と変な音がした。


 大きく足を上げての回し蹴りだったため、おっさんの履いたスーツのズボンの股が裂けてしまった。股の間から、何故か赤いパンツが見える。下着の趣味は人それぞれではあるがいい年をしたおっさんの赤いパンツなど見たくはない。


 こんなヤツの相手なんぞしたくないぞ。頭を狙うのは最初の蹴りよりよほど躱しやすいにもかかわらず頭を狙ってきたということは、これが狙いだったのか。おっさんにしてやられた!


「おい。待っててやるから、ズボンを替えてこいよ」


「いや、どうせここにはお前ひとり。お前を斃せば問題ない」


「お前に問題なくても俺にあるんだよ」


 おっさんはまた俺に近づいて、回し蹴りを放ってきた。今度は最初と同じ俺の腰あたりを狙ってきた。やっぱり先ほどの回し蹴りは狙ったものに違いない。


 もちろん俺はその蹴りを軽く躱したのだが、おっさんが俺に向かって偉そうなことを言う。


「なかなかやるな。だが逃げてばかりではじり貧だぞ」


 そろそろ片を付けようと思ったのだが、その前にちょっと気になったので、


「おっさん、ここで死んだら死体はどうなる?」


「間を置かず次に来た時にはすでに死体は無くなっていたから、消えてなくなると思っている」


 おっさんは俺と会話しながらも回し蹴りを繰り出してきている。俺もそれに対して合わせるのではなく躱しているので、おっさんはノーダメージだ。結構なスピードの攻撃だし、その分威力がありそうなため、まかり間違って物理攻撃完全反射機能付きダークサンダーで受けてしまうと、会話どころじゃなくなるからな。


 アズランも相手が相手だけに手出しはしないようだ。


 あと、おっさんに聞くことはなかったかな?


 何も思いつかないので、そろそろ片を付けるとするか。


「おっさんが連絡しなくても、どうせおっさんがいなくなればエージェントやらはやってくるんだろう? そろそろ片を付けてやるが、痛いのが良いか? それとも痛くないのが良いか?」


「フン。鍛え上げたこの肉体に痛みなど感じることはない!」


 リフレクターで殴りつけようか、エクスキューショナーで首を刎ねようかと思って聞いたが思った以上の答えが返ってきた。


「そうかい。なら試してみようじゃないか。おっさんの次の攻撃は俺は躱さずちゃんと受けてやる。だから目一杯、力いっぱいの技を繰り出して見ろ!」


「その言葉に二言はないのだな?」


「俺は嘘は嫌いだとしか言えないが、もちろん二言はない」


「よーし、それなら私の必殺の中段の突きをお見せしよう。そのような鎧を着けているから素手や素足の攻撃は簡単に受けられると思っているようだが、言っておくがこの突きは岩をも砕く突きだからな。一撃で死ぬなよ」


 自分で必殺というところが俺的にはかなりツボにはまった言いぐさで、ヘルメットの中で思わず口が緩んでしまった。


 なぜかおっさんはその場で上に着ているものを脱ぎ始めた。いい歳をして自分の肉体を自慢したいのか?


 上半身裸になったおっさんが、突きの間合いまで前に出て腰を落した。こぶしを握り両肘を直角に曲げ、ゆっくり息を吐き出しながらその両肘を後ろに引いた。


 左肘をさらに引きながら右腕が「トウ!」の掛け声と一緒に突き出された。


 グシャ!


 おっさんの全力の中段の突きが俺の心臓の真上に当たり、予想通りおっさんの拳が潰れ、右肘はもちろん、手首から右肩まで粉砕骨折してだらりと肩から右腕がぶら下がってしまった。


 もちろんいたるところから骨ははみ出しているが不思議なことに血は滴り落ちていない。まかり間違えばショック死するほどの大怪我だ。おっさんはまだ生きているので必殺ではなかったが結構効いてると思う。


「なかなかいい突きだったと思うが、俺は何ともなかったぞ。実に見事に右腕が壊れてしまったが、おっさんは体を鍛えているから痛くはないんだよな?」


「う、ううう」


 痛みで声が出ないようだ。斬り飛ばしたら、傷口だけは痛いかもしれないが、それだけだ。これだけ見事に腕がボロボロになると相当痛いと思うぞ。


「その痛みに耐えて立っているだけでも大したものじゃないか。俺は仏さまではないが、そろそろ俺が引導を渡してやろう」


 どうせこいつは死んじまえば魂はどこかの悪魔の物になるんだろうから、成仏するわけないか。


「せめて、楽に逝かせてやる」


 そういって左の腰に下げたエクスキューショナーを鞘から抜き放ち正眼に構えて一気に振り下ろした。


 何の手ごたえもなくおっさんは眉間から股まで縦に真っ二つになってしまった。臓物などが地面に落っこちることもなくおっさんは二つになった体で器用に支え合って倒れずに立っている。


「あれ?」


 衣服ズボンを切った手ごたえは別だが、肉の部分を斬った感じはコンニャクを切った感じだ。手ごたえが全くない。悪魔の子分になるとコンニャク化が進むのかもしれない。これは新たな知見なのか?


 面白いので、おっさんを見ていたのだが、縦に真っ二つにしたハズの体が何だかくっついているような気がする


 あまりに見事な剣速で真っ二つになったものだから、二つになったことを体が理解できずにそのままくっついてしまったのか?


 問題なのは、体はくっ付いても着ていた衣服ズボン下着パンツと一緒に左右に泣き別れてしまっていることだ。いまは体に何とかくっ付いているが、ゆっくりと体から外れて地面にズリ落ちようとしている。俺としてもここは覚悟を決めないといけない場面のようだ。


 ハラリ。


 運命の時は来てしまった。



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