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第59話 対峙1、バトルフィールド(さいせきじょう)


 高層ビジネスビルの最上階。さらにその一番奥の部屋の中に大中華興業グループ本社の親玉がいた。そいつはダークサンダーを装着した俺に向かって、俺の予想に反して流ちょうな日本語で話しかけてきた。アズランは俺のすぐ後ろに立っている。


 俺が黙っていると、おっさんがもう一度俺に話しかけてきた。


「きみが仮面のコスプレ怪人か?」


 このおっさんは、子どもの頃バイクに乗った怪人のファンだったのかもしれないが、俺の自慢のフルフェイスヘルメットを仮面と言われたのは初めてだ。敵に情報を与えるほど俺はお人よしではない。神だけにな。


 俺は男の再度の問いにはも答えず、


「お前がここの親玉だな?」と質問に質問で返してやった。勝った!


「そのとおりだ。私が大中華興業グループ本社の代表を務めている王良おうりょうだ。きみも知ってのとおりグループ本社の代表というのは表向きの顔だがね」


 使い込みをしていそうな名前に一瞬笑い出しそうになった。


 それはそうと、あたかも俺がこのおっさんの裏の顔を知っているとでも言いたそうな口ぶりだが、当然俺はそんなこと知らんがな。


「きみもやはり、サティアス・レーヴァさまを信奉しているからこそ、その力を得たのだろ?」


 サティアス・レーヴァだと? なんであいつの名まえがここで出てくるんだ? なんで俺のペット(・・・)だったヤツを俺が信奉するんだ? こいつの言っていることははっきり言って俺にとっては意味不明なのだが。まさか、サティアス・レーヴァとIEAのバイザーが言っていたサチウス・ラーヴァって同じじゃないだろうな? これは確かめないといけないぞ。


「よく似た発音のサチウス・ラーヴァは聞いたことはあるがこの世界の(・・・・・)サティアス・レーヴァは知らんな」


「? サティアス・レーヴァはサチウス・ラーヴァの英語の発音だと思うが」


 あっ! そういえば、バイザーはドイツ人だとか言っていたがIEAそのものはイタリアだからラテン系の読み方だったのか。なるほど。ということは、あの(・・)サティアス・レーヴァがこの世界にやってきている? 話しぶりから言ってかなり前にこっちにきていないとおかしいが、異世界の行き来に時間的なズレがでるかもしれないのでそこは何とも言えないし、この世界のサティアス・レーヴァが俺の知っているサティアス・レーヴァと同じとは限らない。


 作った本人のトルシェが、魔法で作ったサティアス・レーヴァ用のとりかごは100年や200年といった単位で長くもつと言っていたから、あのサティアス・レーヴァがこの世界にやってきていたとすると、サティアス・レーヴァの主観では数百年経過しているような気もする。


 そういったことを考えた俺は、おっさんに向かって、


「俺の知っているサティアス・レーヴァはただの悪魔だが、それでいいんだよな?」


「? ただの悪魔? 最上級の悪魔、サティアス・レーヴァさまに向かってただの悪魔だと!」


「その言いようは、ひょっとしてお前は悪魔崇拝者か何かの組織の幹部なのか?」


「お前たちは、それを知ってここにきたのではないのか?」


「知るわけないだろ!」


 おっさんはかなり嫌な顔をして俺を睨んできた。自分が勝手に先走ってべらべらしゃべったのが悪いんだろ!


「まあいい。池袋の件は水に流そうじゃないか。どうだね、われわれと一緒に行動しないかね? きみの実力を見込んで、相応のポストを用意できると思うが。そうだな、私はじきに本国に帰ることになる。きみさえその気があるのなら、今の私のポストをきみに譲ってもいいんだがな。後ろの子どもは情報になかったがきみの子どもというわけではないのだろ? きみがこんなところに連れてきているということは、何かの能力者なのだろうから、われわれの組織に入れば大いに厚遇されるぞ」


「お前の提案は面白いが、俺たちにとっては何の魅力もない。何か俺たちの食指が動くような提案はないのか?」


「きみは理解していないのかな? 断ればサティアス・レーヴァさまから直接恩恵(しゅくふく)を受けたエージェントがきみたちを抹殺するため派遣されるのだよ?」


「そのエージェント、ほんとに来るんだろうな?」


「お前のことは既に本部に連絡している。私がGO(ゴー)と言ったらすぐにでも派遣されてくる。しかも複数のエージェントだ! どうだ、恐ろしくなったんじゃないかね?」


「お前を始末するのを待っていてやるからGOサインを今から出してくれ。GOサインを出さずにお前を片付けてしまったらせっかくの遊び相手が来なくなってしまうからな」


「何も知らない者は、威勢のいいことだ。私は面倒なので荒事からは遠ざかっていたのだが、荒事が不得手という訳ではないのだよ」


「お前が俺たちの相手になってくれるのか。ただ殺すのでは面白くないから、それなりには楽しませてくれよ。ここでり合うとなるとこのビルのオーナーには悪いが、お前のところでも火災保険ぐらい入ってるんだろ?」


「そこは心配しなくてもいい。ほらな」


 おっさんがそう言ったとたん、俺は知らぬ間に戦隊もののヒーローが悪役と戦う採石場の跡地にいた。なかなか味な真似をするじゃないか。戦隊ものだと悪役を倒せば元に戻れるから安心だ。


 俺とアズランは何段もベンチ式に掘り下げられた採石場の底にいる。おっさんは50メートルほど先、ベンチで言えば2段ほど上に立っていた。お約束通りなら、おっさんは何かの怪人に変身していなければならなかったが、部屋にいた時と同じビジネススーツをきっちり着ている。


 そのおっさんが、俺たちに向かって、文字通り上から目線で、


「これは、サティアス・レーヴァさまが私に授けてくださった能力だ! 最近使うこともなかったが、錆びついてはいなかったようだな。さあ、どこからでもかかってこい!」


 どこからでもかかってこいという割に、自分はかなり遠くにいて、しかも上に立っている。こいつ、口のわりに弱っちいんじゃないか?


 上から見ているおっさんも気づいてはいるのだろうが、すでにアズランは俺の後ろにはいない。


 あまり簡単におっさんを倒しても面白くないので、先手はおっさんに譲って、俺は黙ってその場に立っていることにした。



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