第57話 新宿の篤志家2、大中華興業グループ本社
ラシイ二人組を陰に隠れるようにこっそり追ったアズランの後を、俺と白鳥麗子が余裕をもって歩いていく。
10分ほど歩いていくと、何だかまた大きなビルの立ち並んでいる辺りに出てしまった。
「ここいらはビジネス街じゃないか? あんまりこの辺りはラシくはないが、こういった一等地に篤志家たちのアジトがあるかもしれないな。時代は変わるってことかね。とはいっても俺も昔の篤志家を知っているわけじゃないから何とも言えないが」
などと独り言のようなことをつぶやいていたら、
「篤志家は昔も今もお金持ちでしょうから、一等地に居を構えているのではありませんか?」
などと、白鳥麗子がピントのズレたようなズレていないような返事をした。
「一部の反社はお金持ちなんだろうが、一応は社会に対して後ろ暗いことをしているんだから、もっと人目に付かないようなところにいるんじゃないのか?」
などと、二人で呑気な話をしながら、アズランのいそうな方向に歩いていったら、アズランがとある高層ビルの入り口前に立っていた。
「このビルに連中は入っていきました。連中の乗ったエレベーターは最上階の50階に一度に止まってしばらくそのままでしたから、50階で連中は降りたと思います。エレベーターには忍び込めなかったので、確認はしてません」
狭い上に遮蔽物のないエレベーター内ではさすがのアズランでも隠れることはできないだろうから仕方がない。
ホールの入り口近くの壁に、このビルにテナントとして入っている企業なり団体が何階に入っているのか書いてあるのボードが貼ってあるだろう。そう思って見まわしたら、当たり前だがちゃんとボードに階数と企業名が書かれた金属製のプレートがはめ込まれていた。
「ナニナニ? 50階は、……。
大中華興業グループ本社。まんまじゃないか! しかし、よくもこんなオフィスビルにアジトを堂々と構えているもんだな」
「ダークンさん。わたしもついて行かなくちゃいけないんですか?」と白鳥麗子が心配そうに聞いてきた。
「俺たち二人はデジタルカメラでは写らないから、俺たちが活躍中の場所に防犯カメラが設置されていてもまったく問題ない。だが、白鳥麗子。お前を危険な目に遭わせることはないが、お前はタダの人間だからバッチリ防犯カメラに写るからな。俺たちが50階でお仕事しているところに一緒にいると、おそらくお前が容疑者になってしまう。それはさすがに嫌だろうから、お前はこの辺りで待っていろ」
「はい。そうします」
「白鳥麗子。長くても30分はかからないから。
さて、さすがにこの高層ビルごとぶっ壊すわけにはいかないし、どうしたもんかな?」
「50階には大中華興業とそれらしい関連企業しか入っていないようだから、50階にいる連中をみんな処分してやりましょうか?」
「方針はそれでいいと思うが、中にはカタギの人間もいるような気がする。処分する前、一応反社かどうかの確認はした方がいいな」
「ダークンさん。反社かどうかどうやって確認するんですか?」
「相手の目を見ながら、『お前は反社だろ?』と聞いてみて、目をキョロキョロさせて『違う』と言ったらそいつは全反社だ。目をそらさず『そうだ』と言ったらそいつも全反社だ。相手が全反社であるかどうかはそれで分かるが、相手が反社でないとは言い切れない。結局みんな怪しげな会社にいるんだから、確認出来たら全反社で、未確認はほぼ反社ということで半反社と思えばいいんじゃないか?」
「全反社は全殺しで、半反社は半殺し?」
「結論はそういうことだ。簡単だろ? 今回はビジネスビル内だから、あまり金目の物は置いてないと思う。サクサク処理していこうぜ」
「了解しました」
白鳥麗子を1階のホールに残し、俺はアズランの後について、エレベーターホールまで移動した。低層階と高層階とでエレベーターが別になっているようだったので、俺たちは50階に行く高層階用のエレベーターに乗り込んだ。エレベーターには俺たち二人しか乗っていなかったので派手な出迎えでとばっちりを受ける者はいないようだ。俺自身は大事な普段着に孔でも開いたら嫌なのでこれ幸いとエレベーターの中で黒き稲妻ダークサンダーを装着している。
高層ビルのエレベーターは高速なので非常に気持ちがよい。バカは高いところに上たがると言われているが、こういった高層ビルの坪当たりの賃貸料は階数が上にいくほど高くなるらしい。らしいというのは、俺は高層マンションの価格から類推しているだけなので、本当かどうかはわからない。少なくとも上の階に入っている企業は、景気の良い企業と思っていいだろう。
できれば俺も優良企業を何社か手に入れて、不労所得で生きていきたいものだ。
この日本では、オーナー会社ならともかく、雇われ社長の会社では、会社に因縁をつけて社長を人質に取ったところで会社が手に入るわけもない。こういった発想を自省してみると、これこそまさに反社の発想だ。逆に考えれば、反社の手の内が良く分かるともいえる。
あまり意味のないことを考えていたら、エレベーターのチャイムが50階に到着したことを告げ、扉が音もなく開いた。アズランはダークサンダーを着込んだ俺の体を盾にするような位置取りだ。コロはダークサンダーの隙間から腰の位置に滲みだしてベルトに擬態している。
俺を見て逃げ出したあの二人組も、さすがに俺たちがここまで追ってきたとは思っていなかったようで、エレベータの扉が開いたとたんにお出迎えの鉛の弾は飛んでこなかった。相手も防犯カメラに写りたくはないだろうしな。
エレベーターを降りた先は、鉛弾の出迎えがあるかないかに関わらず、大中華興業グループ本社の窓口だか受付があると思ったのだがそんなものは何もなく、制服を着たガードマンが二人、警棒のようなものを持ってエレベーター正面の頑丈そうな扉の前に立っていた。




