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第55話 新宿でお買い物


 新宿駅に電車が到着したので、先頭に立って電車を降り、アズランたちの降りてくるのを待って、それに続いて改札口に向かった。


 切符を自動改札機に突っ込んで通路に出てから先は、どこに向かっているのか全く分からないままアズランに続いて地下通路を歩いていった。どこだかわからない階段を上がったら、大きなビルが沢山建っていた。


「アズラン、車屋の場所は分かってるのか?」


「マンションを出てくる前に何軒か見つけているから大丈夫です」


 複数チェックしていたか。ヤルな。


「クロスカントリー車といっても、タートル号に比べたらずいぶん小さな乗り物ですから、後でトルシェに言って拡張してもらいませんか?」


「どうだろう。車内を拡張した車が車検を通るかな?」


「そう言えば、そういったものもありましたね」


「タートル号みたいに広いと車に乗っているあいだに酒盛りをしたくなってしまうぞ。この国では飲酒運転は犯罪だが飲酒乗車はどうなんだろうな?」


「それは問題ないと思います。花子に運転させれば、私たちは後ろで何をしててもいいはずです」


「いやいや、運転免許はアズランしか持ってないじゃないか?」


「そうでした。そのうち花子にも戸籍を買ってやって免許を取らせましょう」


「それなら問題ないな。そしたら空間拡張で後ろに居間でも作ってもらうか? まてよ、今涼音のマンションに繋げている広間の天井はエベレストにつながってるってトルシェが言ってたよな。そしたら、拡張しなくても車の中をあの広間につなげることができるんじゃないか?」


「そこらへんはトルシェに聞かないと分からないけど、いずれにせよ夢が膨らみますね」


「車の中だから部屋を新しく作っても出入り口は相当狭くなりそうだな」


「そこは仕方ないでしょう。でも空間拡張は前後左右だけでなく上下もできるはずだから車の乗り降りだけ気にすればいいと思います」


「そう言われればそうだった」



 そんな夢を膨らませながら俺たちは最初の車屋にやってきた。もちろん、白鳥麗子は俺たちの話についてこられないのだが、一応話は聞いているようだ。


 俺たちが車屋の中に入っていくと、中にいた従業員たちが一斉に「おはようございます」と言ってきたのでもちろん俺も鷹揚に「おはよう」と答えておいた。


 ちょうど開店したばかりのようでまだ客は誰もいなかったせいか、従業員が全員暇にしていたようだ。


 外から見た限り、ショールーム内にはクロスカントリー車は見当たらなかった。こういったものは車屋間で融通し合うものかもしれないし何とでもなるのだろう。


 俺たちを見て、お金持ちに見えたのかどうかは分からないが、一番偉そうにしているおっさんがやってきて、


「おはようございます。こちらのソファーでお話を伺いしますので、どうぞ」


 ショールームの窓際の商談用のソファーを勧められたので勧められるまま3人でソファーに座った。


「紅茶になさいますか? コーヒーになさいますか?」


 いきなりお茶をご馳走してくれるらしい。


「俺はコーヒー」


「私もコーヒーで」「それなら私もコーヒーをいただきます」


 おっさんの後ろに控えていた女性従業員がすぐに奥に引っ込んだ。


「早速ですが、どういったお車をお探しでしょう?」


「トヨ〇のクロスカントリー車で状態の良いものがあれば購入したい」


「さようですか。グレードによりますが、高いもので1千万、安いもので500万ほどになると思います。1千万のものではオプションはほとんど付いていると思っていただいてよろしいと思います」


 そこで、先ほどの女性従業員が「失礼します」と言ってコーヒーを持って来てくれた。小さな容器に入った一人用ミルクと砂糖のスティックも皿の上に乗っけられてソファーの真ん中に置いてあるテーブルの上に置かれた。


「どうぞ」


「遠慮なく」


 俺はコーヒーには何も入れずブラックで。おっ! 結構うまいコーヒーだ。


「おいしー」「おいしい」


 アズランも白鳥麗子もミルクと砂糖をちゃんと入れてコーヒーを飲んでいた。


「残念ですが、実車はここにはありませんので、こちらのパンフレットでご確認ください。乗ってみたい車があるようなら、すぐに手配しますのでお気軽におっしゃってください。

 トヨ〇のクロスカントリー車ですと、この車種が最高グレードになります。この車ですと走行距離1キロ未満。わざと新車を中古車にしたものになります」


「いわゆる新古車ってやつか」


「はい。ユーザーの方から見れば新車ですと税金なども大変ですし、メーカーさんとかの絡みもあり、われわれ中古車ディーラーもこういった形で販売に協力しているわけです」


「そこらへんはお宅の都合でいいんじゃないか。その車だと値段はいくらだ?」


「この車ですと、諸経費込みで1千万ジャストです」


「値段は手ごろだな。それで納車期間はどんな具合だ?」


「納車前の点検に半日必要ですので、今日の午前中に成約していただきますと、お届け先が都内なら明日の朝には納車できると思います」


「それじゃあ、この1番高いので頼む。アズラン、これでいいだろ?」


「はい。それでいいです」


「現金でこの場で払うから、後の手続きを頼む」


「え? もうお決めですか? あ、ありがとうございます」


 どうせ買おうと思っていた車だし、うだうだ説明されても車が進化・・するわけでもないんだから即決でいいだろ。支払いも現金の方が面倒がない。込々《こみこみ》で一千万だから、1千万の札束がちょうどある。面倒だったので、


「今から現金1千万を出すから、よく見てくれよ」


 手品のつもりで、いきなりキューブの中から百万円が10束まとまった1千万のお札の塊をテーブルの上に出してやった。


「今どこから?」


「フフフ。分からなかっただろ? 朝からいいものが見れてよかったじゃないか。さつは本物だが、ちょっと心配だよな。本物かどうかの確認は後からしてくれ」


「疑ってはいませんので、ご安心して下さい。マジックがご趣味だったとは御見それしました」


「うまいものだろ?」


「こんなに近くで拝見していましたが全く分かりませんでした。まさか玄人の方?」


「いやいやほんの趣味だから」


 おっさんとたわいのない話をしているあいだ、手続きは後ろに控えていた女性とアズランとで全部やってくれた。俺はそういった書類仕事をやろうとは全く思わないが、その前に手続きに必要な涼音のマンションの住所が恵比寿までしか知らないし、電話番号は一桁もわからない。


 納車は明日の9時納車だそうだ。



 コーヒーを飲み干して、


「それじゃ、明日よろしくー」


 そう言って車屋を後にした。結局5分少々で話が終わってしまった。


「あのー、あんなに簡単に一千万円もの買い物をして大丈夫なんでしょうか?」


 白鳥麗子が俺に恐る恐る聞いてきた。


「簡単も何もどうせ買うものだし、何がどうなるわけじゃないだろ?」


「ああいったものは価格交渉とかするものだと思っていました」


「少々値段が安くなったとしてあまり意味はないだろ。向こうの言い値で買った方が後々のサービスも良くなるかもしれないしな」


「お金持ちの発想は、私のような庶民と違うんですね」


「俺はそもそも女神なので、庶民ではないがな。こうやって世間に少しでもカネが回れば、微々たるものでも景気に貢献することになるんじゃないか。お前に言ったかどうか忘れたが、俺の現在の使命はこの国をが住みやすくなるように少しずつでも良くすることなんだ。そうすれば自ずとこの国に住んでる人間も幸せになる。ハズだ。そうだろ?」


「女神さまはこの国の守護神さまだったんですか?」


「いや、そういうわけではない。俺自身はこの世界とは全く違う世界での神さまだったんだ。そういうことなんで、この国をよくすることは、この国にいる八百万やおよろずの神さまに手土産、家賃代わりだな」



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