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第52話 反省会(さかもり)


 白鳥麗子を連れて小部屋の先の広間に俺たちは移動していった。


「ここは、こんなに広かったんですね。天井から見える青空が素敵。東京にもこんな青空が見えるところがあるなんて。やはり高級高層マンションは空まで高級!」


 と、白鳥麗子。盛大な勘違いだが、頭上にヒマラヤの空が広がっているとは想像できるはずはないので仕方ないだろう。ただ、車に乗っているあいだに日が完全に暮れて暗くなっていたことは忘れているようだ。今は説明が面倒なので放っておくことにした。


 部屋の真ん中に置いたテーブルの上はきれいに片付けられていたので、俺がキューブの中からどんどん大皿料理と酒を出していった。


「白鳥麗子もそこに座って。お前飲めるんだよな?」


「強くはありませんが人並みには」


「ならよかった。あまり飲めない涼音もいるから、そこらは花子がお茶でも用意してくれるだろう。俺たちはジョッキで米から作った酒を飲むがな」


 俺の出した酒樽を台所の方に持っていった花子が俺とトルシェとアズラン用に大ジョッキになみなみ注いで持ってきた。


「そういえば、メッシーナは飲めるのか?」


「飲んだことない」


「じゃあ、最初は薄いので試すか。花子、この樽を持っていってくれ」


 麦からつくったビールっぽい酒の樽をとりだして、花子に持っていかせた。すぐに花子が、メッシーナ、涼音、白鳥麗子用に3杯、ジョッキではなくグラスに入れて持ってきた。


 全員に酒が回ったところで、


「それじゃあ、カンパーイ」「「カンパーイ」」


 いつものように酒盛りを始めてしまった。


 俺が悪魔がらみでバイザーたちと外に出ていた間、自動車免許を取りに行っていたアズランに、


「それで、アズランはどうだった?」


「ちゃんと免許取れました」


「さすがだな。明日にでも車を買いに行ってみようぜ」


「はい。それなら、どんな車にします?」


「今日俺は大型のクロスカントリー車に乗ったんだが結構よかったぞ。あれならかなりの荒れ地も走れるしゆったりできるからいいかもしれない」


「クロスカントリー車はよくわからないから後で調べてみます」


「そうしてくれ。

 トルシェの方はどうだ?」


 留守の間、俺の神の国計画のため、スケルトン改造人造人間が口が利けるよう研究をしていたトルシェにどうなったか尋ねた。


「声を出せるようにスライムの改造はできました。実際に本体のスケルトンに学習データを詰め込まないとちゃんとした会話はできないけど、おそらくそれだけでうまく話すことができるはず」


「それなら、あとでフラックスも口が利けるようにしてやってくれ」


「はーい。花子はどうします?」


「口が利けるようになるためには、スライムくっつけて花子を見た目人間にしないといけないんだろ? 花子のこのスーパー裸エプロン姿が俺は好きなんだがなー」


「じゃあこのまま? 声を出すのは胸から上だけあればいいから、腹から下と鼻から上はこのままにしちゃいます?」


「部分スケルトン人間はさすがにかわいそうというか、俺から見ても珍妙に見えると思うから、一般人が見たらトラウマになるぞ。花子も外の世界が見たいだろうし、それらしくしてやってくれ」


「分かりました」





 酒盛りが始まった時は白鳥麗子はおっかなびっくり静かにしていたが、そのうち慣れたのか、麦から作った酒を飲みながら、涼音と談笑していた。


 天井がだんだん暗くなってきたところで、白鳥麗子が、


「ここって、照明はないんですか?」と聞いてきた。


「俺たちは、暗さは気にならないんだ。そういえばお前には俺の『祝福』を与えていたはずだが、暗くて周りがよく見えないのか?」


「天井が暗くなって照明がないんだなーって思ったんですが、周りは良く見えます。あれ? 何ででしょう?」


「それは俺の『祝福』のおかげだが、そういえば、お前には俺のことを教えていなかったな。ついでだから順に自己紹介するか。

 俺の名はダークン、『常闇の女神』というれっきとした女神だ。俺がお前に『闇の祝福』を与えたからお前は暗闇でも物をよく見ることができるし、闇を恐れるどころか闇で心が落ち着くようになったはずだ。日本名はあることはあるが忘れてしまった」


黒木真夜くろきまよですよ」とトルシェ。


「そうそう、黒木真夜くろきまよだ。なかなかカッコいい名前だろ?」


 そう言われれば頷かないわけにはいかないよな。もちろん白鳥麗子もちゃんと頷いた。結構。結構。酒が入っているせいか、俺が女神だということには疑問はないようだ。命も助けられているし、悪魔も見てるしな。


「それで、今俺の日本名を教えてくれたのが俺の眷属にして半神『闇の右手』トルシェだ。魔法の天才で花子みたいなスケルトンを召喚したり、スケルトンにスライムをくっつけてフラックスを作ったり。この部屋を作ったりしたのもトルシェだ」


「トルシェ。日本名は斉木登枝さいきとし


「その隣に座ってるのが同じく俺の眷属にして半神『闇の左手』アズランだ」


「アズラン、日本名は真中由美まなかゆみ


「次はこのマンションの持ち主の大川涼音。涼音を助けた関係で俺たちが今ここで世話になってる」


「改めて。ダークンさんたちに命を助けられた大川涼音です。麗子さんよろしくね」


「はい。こちらこそ。涼音さんもそうだったんだ」


 涼音が白鳥麗子ににっこり微笑んだ。そうしたら、なぜか白鳥麗子の頬が赤らんだ。こいつもしかして?


「それで、そこの外国人の美人がメッシーナ。さっきまで一緒だったから知ってるだろう」


「メッシーナ。よろしく。私もある意味ダークンさんたちに助けられた」


 何だコイツ。ちゃんとわかってるじゃないか。


「あとは、花子とフラックスだが、さっき言ったようにフラックスは花子と同じスケルトンにスライムで肉付けしたものだ」


 名前を呼ばれた花子とフラックスが首を縦に振った。


 最後に白鳥麗子が、


「悪い連中に拉致されたところをダークンさんたちに助けていただいた白鳥麗子です。現在無職で手持ちという意味では無一文です」


 と、かなりユニークな自己紹介をした。


 一通り自己紹介が終わったところで、トルシェが、俺に昼間のことを聞いてきた。


「それで、ダークンさんはどうだったんですか? だいぶ時間がかかったようだけど」


「まあな。悪魔崇拝の連中がやってくるのを待ち伏せしながら処分していってたんだ。その中で生贄にされるために連れてこられた白鳥麗子を見つけたんだがな。そのあと、悪魔が祭壇の近くでうろついていたから捕まえてみた。大した悪魔じゃなかったんだが、悪魔の身体構造に興味があったんで解剖したんだよ。そしたら、悪魔の中身は、内臓なんか何もなくてコンニャクだけだった。トルシェとアズランはコンニャクってわかるか?」


「なんとなくわかります」「私も」


「そういうことなんで解剖は全然面白くなかった。解剖したついでなので、ちょっと味見しようとそのコンニャクを薄造りにして醤油とワサビで食べてみたんだが、何だか独特のエグミがあってとても食べられたものじゃなかったな」


「なーんだ。おいしかったらどんどん捕まえて刺身にしたのに」


「そうそう。その悪魔なんだが、再生能力が高いんだ。ヒールオールも万能薬も使ってないのにどんどん切り取ったところが元に戻ってくんだよ。コンニャクがうまかったら養殖したかったんだがな」


「ということはそのエグミを取ればいいかもしれませんよ。今度捕まえる機会があったらいろいろ試してやろ」


「そうだな。そのうち何かあればIEAから連絡があるだろうから、意外と早く機会があるかもしれないぞ」


「楽しみー」「わくわく」




運転免許センターでの「一発試験」ですが、仮免試験、仮免での5日間の路上練習(免許を持って3年以上の人が同乗)、本試験と最低でも7日、実質10日はかかるようです。

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