第51話 お仕事終了
俺の新技『ゴールデンプリズン』に捕らえた悪魔を、檻ごと足で蹴っ飛ばしながら縁側を過ぎ、板の間から土間まで転がしていった。
悪魔は円筒形の檻の中でぎゅうぎゅう詰めにされているので円筒形に変形している。そういったところも、中身がコンニャクだからこの可能なのだろう。
玄関は段差があるので一応檻の端の金色の骨組みを掴んで片側を持ち上げてそこから引きずってIEAの車まで戻った。
「バイザー、バチカンがこれに興味あるとか言ってたよな?」
「できればいただきたいです」
「うちに持って帰ってトルシェたちに見せたら何かいい加工法でも思いつくかと思ったが、邪魔でもあるしこの檻ごと連れていってくれていいぞ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、車に乗せておくか。……、よっこらしょ」
車のバックドアを開けて、一番後ろの座席の脇の空いたところに突っ込んでおいた。その際まだ檻が大きかったのでもう2割ほど小さくしておいた。これで悪魔は完全に円筒形に変形してしまった。
「これだと、俺の場所が狭くなるから白鳥麗子はメッシーナたちの2列目な」
全員が車に乗り込み、次にやってくる悪魔崇拝者を待ち受けることにした。
それから夕方まで粘り、3台の乗用車、14人の男女を処分した。
「悪魔も生け捕ったし、だいぶ処分したから、ここで残党が何をしようがどうにもならないだろう。まだ残りがやって来るかもしれないが、こんなもんでいいんじゃないか?」
そろそろ面倒になってきたのでそう提案してみた。反対意見はないようだ。
「駐車場の車は高級車ばかりでもったいないが、後でややこしくなっても面倒だからここできれいさっぱり処分してしまおう」
車の窓を少し下げて、
「コロ、頼む」
5台駐車場に車が残っていたが、窓の隙間からコロが触手を伸ばし、ものの10秒ほどですっかり食べ尽くしてしまった。
こういうのは見ていて楽しい。自動車の形をした綿あめが消えてなくなったようで見事なパフォーマンスだった。
「撤収だ、撤収!」
車内から目の前で消えていった車のあった場所を眺めていた運転手を促して、
「俺の恵比寿の拠点までな」
車は駐車場を出て、来た道を引き返していった。
「白鳥麗子はどこに住んでるんだ? 帰りに下ろしてやるから」
「私は赤羽のアパートに住んでいます」
「荒川を渡ったら運転手に道を教えてやれよ。
というかカーナビに住所を入れれば何とかなるんだよな?」
「はい。その通りです。
お嬢さん、住所を教えていただけますか?」
「赤羽西のXX丁目のXXXです」
「赤羽西のXX丁目のXXX。OKです。じゃあ、そっちに回ります」
しばらくして車が荒川を渡ったところで、急に白鳥麗子が、
「あっ! 財布も鍵も携帯も何もない」
とか言い出した。
拉致られた時無くしたのか、拉致った連中に取り上げられたのか。
「どうしよう」
「困ったな。アパートの扉は簡単に壊すことができるが、壊したくはないだろ?」
「それはもちろんです」
「それに財布もないんじゃ無一文だよな?」
「お金もそうですが、キャッシュカードもクレジットカードも交通カードも全部入ってました」
「難儀なヤツだな。放り出すわけにもいかないから、いったん俺のところに連れ帰るか。
運転手、仕方ないから、恵比寿の俺んところに頼む」
「了解」
車は一般道から一度高速に入り直ししばらくして高速をおりて恵比寿に到着した。
恵比寿のマンションが近くに見えてきたところで、
「あれが、俺たちのいるマンションだ」
と、白鳥麗子に教えてやった。
「あんなすごいところに住んでいるんですか?」
「成り行きでな」
「私なんか赤羽の1DKの安アパートなのに」
「一人で住んでいるんだったらそれで十分だろ?」
「十分です」
「なら良いじゃないか。どうしても高級マンションに住みたいんだったら、努力して金を稼ぐんだな」
「私今無職なんです。貯金もそんなにないし。今日ハロワに行く途中で拉致られちゃうし、運がないんです」
「あのままだったら多分殺されて、魂は悪魔に吸い取られていたんだ。それがこうして生きているんだ。お前の人生これからだぞ。自分はほんとは運がよかったんだって人生をつかみ取るよう頑張ればいいんだ」
「できればそうしたいです」
白鳥麗子、こいつはどうも後ろ向きだな。悪魔の腰巻には興味津々だったのに急に落ち込み始めた。意識が現実に引き戻されたか?
恵比寿のマンションの地下駐車場に車が入っていき、来客用エリアに停まった。
「メッシーナはどうする。このままこの車に乗って戻るか? それならフラックスを連れていっても構わないがまだフラックスは喋れないから、トルシェに改造してもらってからの方がいいだろう」
「うん。ここにしばらくいる」
「わかった。
バイザー。それじゃあ、悪魔はお前にやるから適当に使ってくれ。その檻はあと1週間はもつだろうからそれまでに何とかしろよ」
「はい。今日はありがとうございました。悪魔ですが、こちらの方で正式な手続きを行います。なにがしかを振り込まさせていただくと思いますので、後日女神さまの口座を教えてください」
「ああ、そのときは人を寄こすなり涼音の電話に頼む。涼音の電話番号は調べれば分かるだろう? そんじゃな」
「はい。失礼します」
運転手とハウザーはそのままIEAの出先に戻っていった。
「そんじゃあ、帰ろう」
残った俺とメッシーナとフラックス、そして白鳥麗子の4人はマンションのエレベーターに乗って最上階の涼音の部屋に戻った。エレベーターホールへの入り口はセキュリティがかかっていたので涼音にインターフォンで連絡して開けてもらっている。
玄関からリビングに入っていくと、涼音、トルシェ、アズラン、花子が出迎えてくれた。
「ただいま」
スーパー裸エプロン姿の花子を見た白鳥麗子が「ひっ!」と言って俺の後ろに隠れた。
「白鳥麗子、こいつは花子っていうスケルトンだ。今ここの家事をしている。見かけは怖そうに見えるし、実際相当強い。そういえばフラックスの中身は花子と一緒のこの黒いスケルトンだ。お前、フラックスは怖くないだろ?」
「フラックスさんは怖くありません」
「ならいいじゃないか」
「? そうですね」
「ということで、こいつの名まえは白鳥麗子だ。ちょっと事情があって拾ってきた。どうせ今日も飲み会だからそこでおいおい紹介してやる。
トルシェ。後でこいつ用に寝るところを作っておいてくれ」
「はーい」
「みんなで、奥に行って、今日の反省会をはじめるか」
「はい、はーい」「はい」「はい」「???」




