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第50話 解剖学(アナトミー)教室3


 悪魔の頭の中身を調べるため、頭部を開頭することにした。本来はノミやドリルを使うのだろうがあいにく俺の手元には出刃包丁しかない。とはいうものの、おそらくこいつの頭部にも頭蓋骨などないだろうから出刃で十分だろう。


 悪魔が俺を見つめている。こうしてみると悪魔の目がつぶらに見える。これが最期かもしれないので、この瞳を覚えておいた方がいいかもしれない。今憶えても明日の朝には忘れる自信がある。



 いちおう様式美として、


開頭術かいとうじゅつを開始する」


 右手に持っていた出刃包丁の刃を悪魔の額の真ん中に立て、眉は悪魔にはなかったが、気持ち眉に平行になるようにして、ぐっと力を入れて突き刺し、先端が祭壇に当たったところで、そこを支点に出刃包丁の柄を倒す。カボチャを切るより簡単に悪魔の頭の半分がきれいに切れた。今度は刃を返してまだつながっている方向に出刃包丁の柄を倒す。


 コロリ。


 悪魔の額から上の部分が檻の中に転がった。頭の上半分が無くなったことで、ずいぶんさっぱりした悪魔ができ上った。坊主頭より明らかに斬新だ。悪魔は相変わらず俺の方を見ている。顔色は分からないが多分元気だ。いや、よく見ると目が全く動いていない。


「おい、生きてるか?」


 返事がない。さすがに悪魔も頭が上下2つになると死んだか。ということはトルシェのスッポーンが悪魔には有効ということだ。




 檻の間から出っ張り(つの)が2本付いた盃状の悪魔の頭の上半分を取り出して観察する。


 中身はやはり黒いコンニャクだった。脳みそはないらしい。道理で下等動物並みに生命力は高いし再生能力も高いわけだ。いや、これでは下等動物そのものだ。


 盃を軽く手で叩いてみたら、文明開化の音はしなかったが、コンコンと軽い音がした。それをバイザーに渡したら、バイザーとメッシーナで叩いたり内側のコンニャクを触ったりしていた。


「悪魔はコンニャクだったという驚くべき知見を得たわけだが、体の中にコンニャクしかないんじゃ解剖学にならんな。そろそろ飽きてきたからちょっとだけ味見してそれで終了だ。

 さて、どこを食べようか?

 表に出ているところは不潔そうだから体の中のコンニャクを一切れ食べてみるか」


 頭の上半分がちょうどきれいに露出しているのでそこに出刃を突っ込んで形は悪いが1柵(ひとさく)ぎとった。場所は狭いがキューブに収納していたまな板を祭壇の端に出して、その上に柵を置き、


「刺身包丁」


 出刃包丁をフラックスに渡し代わりに刺身包丁を受け取った。


 コンニャクだから薄い方がいいだろう。


 シャカシャカと刺身包丁を前後させ、コンニャクの薄造りを作ってやった。それを小皿にとって、箸で2、3枚一緒につまんで醤油とワサビを入れた小皿に少しつけて口に入れてみた。


「……。モグ、モグ? うーん、まずい。

 臭いはないが独特のエグミがある。歯ごたえはあるからエグミさえなければ食べられないこともないが。これは味噌漬けか粕漬けくらいにしか使えないな。

 バイザーにメッシーナも食べてみろ。運転手と白鳥麗子もな」


 一同が恐る恐るフォークに突き刺したコンニャクを醤油に付けて口に運びなんとか吐き出さずに飲み込んだ。白鳥麗子は箸を使って俺と同じように、2、3枚つまんで醤油を付けて口に入れた。


「どうだ?」


「食べ物じゃないです」「同じ」「ダメです」「私はこれくらいなら平気かな」


 白鳥麗子はこれを食べて何ともないとなるとある意味スゴイな。その特技は何かに生かされるかもしれないがそうそう生かされないだろう。あっ! 残った薄造り、白鳥麗子が全部さらって食べちゃった。



「結局、今回の解剖で判明したことは、

 まず、悪魔は内骨格を持たず外骨格生物だったということが1点。そして、体内には器官は分化しておらず、コンニャクで満たされている。あと、頭を二つにすると、死んでしまう。この3点だ。

 この3点だけでも、悪魔解剖学に偉大な足跡を残せたものと思う。

 これにて、今回の解剖術を終了する」


「ただいまの時刻は14時30分です」


 ちゃんとバイザーが終了時刻を報告してくれた。なかなかロールプレイがこなれてきたようだ。


「道具を片付けて撤収するか?」


「まだ、悪魔崇拝者たちがやってくるかもしれませんが」


「そうだったな。

 ここで待ち受けるより、車の中の方が快適だから駐車場に戻ろう」


 祭壇の上に転がしていた悪魔の頭の上半分を元の場所にくっ付けたらどうなるかと手に取ったら、角の部分が手に当たった。角を指でつまんだら、鹿の角のような硬さはなく、悪魔の皮膚が少し硬くなったくらいの感じがした。一本力を入れて捻ったら簡単に折れた。


 折れた断面を見ると白っぽい。これといって面白いものではなかった。投げ捨てるわけにもいかないので、元のところにくっ付けてしばらくそのまま押し付けていたら元通りにくっついてしまった。試しに引っ張ってみたところちゃんとくっついている。



 それじゃあこの頭の上半分を元の場所に戻したらくっつくのかと思い、檻の隙間から突っ込んで頭の下半分にくっつけてやったら、すぐになじんでくっついた。角を引っ張ってみたがちゃんとくっついている。


 今回何も考えずに元の位置にちゃんとくっつけてやったが、前後さかさまにくっつけてやれば後ろ向きに角の生えた悪魔だ。斬新なので、写真を撮ってSNSで拡散したら大反響だったはずだ。惜しいことをしてしまった。今度なにかの機会があったらやってやろ。


 俺が悪魔の頭の辺りをそうやって名残惜しそうに見ていたら、いままで死んだ魚の目をしていた悪魔の目玉が動いた。


「あれ? お前もしかして生き返った?」


「生き返った? さっきまで真っ暗で何も見えない中フワフワしていて一度すごく痛い思いをしたんですが、さっき突然目が見えるようになりました」


 あれ? こいつの本体は頭の上半分だったのか? これはこれで面白い生態だな。


 バイザーたちは半ば呆れて俺と悪魔の会話を聞いていた。


 改めて、


「駐車場に戻って、獲物がこないか待っていようぜ」


 みんなを促して駐車場に戻ることにした。


 悪魔を檻に入れたままここに放っておくわけにもいかないし、バイザーが持って帰りたいとか言っていたような記憶がある。なので、悪魔の入った檻をまた円筒形に戻してさらに小さくしてやったのだが、俺の『ゴールデンプリズン』はトルシェの檻魔術の劣化コピーだったようで、檻の上に持ち運び用の取っ手が付いていなかった。


 仕方ないので悪魔がキッチリ円筒形になって収まった檻を祭壇から床の上に落っことして、蹴っ飛ばしながら駐車場に戻ることにした。



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