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第5話 何はなくとも現金1


「二人組の男たちにつけられています」


 貴金属商を出て銀二の後について銀行に向かって歩いていたら、アズランレーダーに何か引っかかったようだ。


 俺たちが今歩いているのは、一応人通りもそこそこある商店街風の道だが、こんなところで白昼堂々何か仕掛けようとする勇気には感心する。その勇気を讃えて、俺が直々お相手してやろう。


 その前に、後ろを歩いているトルシェを振り返ってみたら、ニヤニヤしている。一言言っておかないと面倒なことになりそうだ。



「銀二、ちょっとそこの細いわき道に入ってくれるか?」


「はい?」


 銀二には俺の言った意味が理解できなかったようだが、ちゃんと、すぐそこの小道に入っていった。うまい具合にその道には誰もいない。


 しばらくその小道を歩いていたら、俺たちをつけていた二人組も小道に入ってきた。二人組はしめしめとでも思っているのかもしれない。



「銀二、俺たちは今から、ちょっとした立ち回りをするからおとなしくしててくれよ」


「?」


 俺の言葉に立ち止まった銀二には俺の言っている意味はあいかわらず伝わらなかったようだが、黙って様子を見ていればいいだけなのでこれでいい。


「トルシェ。俺が対応するから今回はおとなしくしててくれよ」


「えーー、今度もダメなんですかー?」


「ザコ相手だと、トルシェの魔法がもったいないからな」


「そう言われればもったいないかも?」


 俺はトルシェをおとなしくさせて、俺たちをつけてきた二人組に振り向いた。


 坊主頭のガタイのいい男と、痩せた狐目の男の二人組だった。


「銀二のところの者だと悪いから確認するが、銀二、こいつら知ってるか? さっきから俺たちをつけてたヤツらだ」


「今まで見たこと有りません」


「わかった。

 おい、お前ら。俺たちに何か用でもあるのか?」


「黙ッテオレタチニツイテコイ、騒グト痛イメニアワセル」


 狐目の男が答えた。


 なんだ、こいつらも大陸系のヤクザなのか。ちょうどいい。さっきは銀二が寝ているあいだに3人のしてしまったが、アレだと銀二には実感わかなかったろう。銀二に俺たちのすごさを少し見せておくのも後々役に立つはずだ。


 俺が一歩前に出たら、狐目が一歩下がった。見た目だけ(・・)華奢きゃしゃな女に対して用心しすぎじゃないか?


 狐目が一歩下がったかわりに坊主頭の男が開いた左手にグーした右手の(こぶし)を打ち付けながら一歩、二歩と前に出てきた。


 坊主頭は俺を捕まえようとでも思ったのか急に両手を広げて俺に近づいてきた。両手が俺を捕まえようと閉じられる動きに合わせて、腰を下ろしつつ、一歩後ろに下がり、左足を回して男の右足首を軽く横からけたぐってやった。


 ゴキッ。


 あれ? 折っちゃった?


 男の右足首が陥没している。まだ骨はくっついてはいるようだ。良かった良かった。


 坊主頭本人はその程度ではたいした痛さを感じていないようだ。さすがは大陸系。我慢強いのか、何かが足りないのか?


 今ので実力差を少しは感じればいいものを、坊主頭は逃げずにちゃんと立っている。


 俺は立ち上がりながら、男の股間を蹴り上げてやったら嫌な感触が足の甲から伝わってきた。


 男はそのまま後ろに仰向けに倒れて後頭部を打った音が響いた。すぐに口から泡が吹出してきた。


 目の前で坊主頭が倒れたところを目にした狐目の男は何も言わず、踵を返して逃げようとしたのだが、アズランが狐目の男の行く手に立っていた。


 小柄な少女なら何とかなると思ったのか、男はアズランにつかみかかろうと右手を伸ばしてきた。アズランは左手で男の伸ばした右手の袖口を掴んで引き寄せ、体を丸めつつ半回転させながら男の懐に飛び込んで、そのまま見事な一本背負いを決めてしまった。


 アスファルトの地面にたたきつけられた男はそれだけで気を失ってしまったようだ。アズランは柔道を知らないはずだが、ああいった武術的に洗練された技はどこの世界でも同じように発達するのかもしれない。



 狭い道で二人も大の字になって寝ていられては交通の妨げだ。俺は先ほど戸籍を得て日本国籍に復帰したばかりだが、社会通念上、生ごみを道に投げ捨てることはこの日本社会ではれっきとした非社会的行動であると認識している。ゴミ箱があればよかったが見回したところ道端にはゴミ箱はなかった。


 仕方がないので、二人の襟首を掴んで引きずり、建物と建物の間の30センチほどの隙間に突っ込んどいてやった。俺の力でもかなり抵抗を感じたし、何だか骨の折れるような音がしたから狐目男はまだしも坊主頭のガタイのいいおっさんは自力では抜け出せないかもしれない。そしたら、レスキュー隊員の出動か。レスキュー隊員の人には悪いことをしたか。いや、実地訓練と思ってくれればいいだけだな。



 結局生ごみをポイ捨てして元の道に戻ると、銀二が俺に向かって、


「日比谷では寝ているあいだに助けてもらったから、姉さんたちの強さがはっきり言ってよくわかんなかったですけど、姉さんたち、とんでもなく強いんですね」


「だから、お前の言っていた大陸系の連中を駆除してやろうかと言ってたんだ。俺たちも暇だから、そういったイベントごとには積極的に参加することにしてるしな」


出入り(・・・)がイベントごとなんですか?」


「イベントだろ?」


「そ、そうっすよね。盛り上がりますもんね。アハハハ」


 笑うならもっと楽しそうに笑えよ。



 そこからはそんなに歩くことなく大手銀行の支店にたどり着いた。


 口座開設の用紙を貰って書き込んでいたら、住所を書くところがあったが、俺たちには住所がない。さてどうしよう。おそらく銀行からカードなどが書留で送られてくるんだろうから住所がいい加減ではマズいだろう。


「おい、銀二、お前の住所を貸してくれ」


「おっ、いいっすよ」


「ここにお前の住所を書いてくれるか」


「はい、……」


「すまんな。お前のところに銀行から知らせが来ると思うがそん時は頼むな」


「任せてください。でもそんときにはどこにお知らせすればいいんですか?」


「金が手に入ったら、今日中にも住むところを決めるから、そこに頼む」


「はい。分かりました」


 書類が書きあがったので、窓口に出したら、個人番号カードが必要だと言われた。さっきもらった袋を出して中を調べてみたら、ハンコと一緒に入っていた。カードには付箋が貼ってあり、そこにカードの4桁と6桁のパスワードらしきものが書かれていた。付箋を外してから個人番号カードを渡した。

 

 そういえば届出印を押すのを忘れていたのでそのハンコを押しておいた。


 個人番号カードには俺と似ていなくもない女の顔写真がついていた。気持ちだけだがその写真の顔に似せるよう表情を作って、窓口に持っていったら、俺の顔を一度も見ないまま、4桁の暗証番号を入れてくれと俺の個人番号カードを差し込んだテンキーボードをこちらに向けてきた。カードに貼られていた付箋に書いてあった4桁のパスワードを入力しただけで済んでしまった。


「お座りになってお待ちください」


 言われるままトルシェたちと一緒に席に座って待っていたら、トルシェとアズランがキューブの中からいつものピスタチオもどきを取り出して食べ始めた。思った通り殻を投げ捨てている。


「よそ様の建物の中でゴミを散らかすとマズいから、コロに向かって殻を飛ばしてくれ」


 そう言っておいたところ、二人は殻を俺に向かって指ではじき始めた。その殻をコロが空中でキャッチしてすぐさま捕食するので、空中で殻が消えたように見える。


 コスプレーヤー3人組のパフォーマンスだと勘違いされたのか、そのうち他の客からえらく注目されるようになってしまった。



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