第46話 生贄の女2、白鳥麗子
生贄の女の顔がきれいになったところで、気を利かせたフラックスが地面に座り込んでいる女を立たせてやり、前から抱き着いて服の汚れを取ってやった。
なぜか女はうっとりした顔で目を瞑ってフラックスにされるままになっていた。
この女、その気があるんじゃなないだろうな。恋愛は自由だし、性にとらわれる必要はないかもしれないが、相手は女型とは言え、スケルトン。性別を超越してると思うがな。まあ、性別以前に種族?の垣根を越えているが、そういった恋愛もまた美しい。のか?
「それでお前の名まえは何て言うんだ?」
いままでうっとりと目を瞑っていた女が俺に呼ばれて、
「はっ! はい、私の名まえは、私の名まえは、……、あれ?」
「どうした?」
「思い出せません」
「難儀なヤツだな。あまりの恐怖で一時的かどうかは知らんが記憶喪失になったみたいだな。しかたない、俺が祝福してやるからありがたく思えよ。『闇の祝福』」
先日久しぶりに祝福した時にはやる気もあったが、そろそろ祝福も面倒になってきたので、軽く女に向けて右手を上げて祝福してやった。
左手に持ったコップからストローでコーラを吸ったら氷を残してコーラは空になったようで、ジュルジュルいう音だけして吸えなかった。女神さまのジュルジュル音。こういうとなんだかいけないもののようだし、行儀も良くないのでフラックスへの教育上やめた方がいいだろう。
「どうだ、思い出せたか?」
「はい、思い出せました。私の名まえは、白鳥麗子といいます。
何で今まで思い出せなかったんだろう?」
お嬢さま名ランキングに出てくるような名まえだった。せっかくなのでこいつの名まえはいつもフルネームで呼ぶことにしよう。
思い出したのは俺が祝福してやったからだが、説明するのも面倒だ。
「ここに立っていても仕方ないからまた車に戻って待機だ。
コロはそこの毛布とそこら辺に散らかったものを処分してくれ」
コロにそこら辺に散らばっていた毛布とか諸々を食べさせてIEAの車に撤収し、次の獲物の到着を待つことにした。
白鳥麗子は後部座席、前から3列目で俺の隣に座らせた。3列目は2人掛けシートなので少々窮屈だがそれほどでもない。
「お前、腹が空いてたら、もう冷たくなってるが、ハンバーガーならあるぞ」
「朝から何も食べていないので、すごく空いてます」
フラックスがハンバーガーを白鳥麗子に渡して、その後コーラの入ったコップにストローを突きさして渡してやった。
何気にフラックスは気が利く。
「ありがとうございます」
白鳥麗子はすぐに紙に包まれたハンバーガーを紙から半分のぞかせてかぶりついていた。
「フラックス、ハンバーガーはまだあるよな?」
フラックスが頷いたので、
「足りなきゃまだあるから言えよ」
「はい。モグモグ、ゴクン。ゴクゴク、ゴクン」
白鳥麗子は結局ハンバーガーを二つとポテト大を一つあっという間に食べ終えた。
「すみません、おトイレに行きたくなったんですが?」
そこらでシロともいえないので、
「ほかにもトイレに行きたい奴がいるだろうから、トイレがないか建物の中を探してみよう」
いちおうそう言ったところ、フラックス以外運転手を含めて全員トイレに行きたいと言い出した。
「揃っていくか。マンションだと台所の近くに水回りを集中させるが、こういった民家はどうなんだろうな」
「浄化槽の関係がありますから、この駐車場に面してる可能性が高いような気がします。あ、あそこにマンホールが。きっと浄化槽のマンホールです」
バイザーのヤツ、なかなか鋭いじゃないか。
「中に入って、そこを目指そう」
バイザーを先頭にして6人でぞろぞろと屋敷の中に入っていく。
玄関を入って先に進んで、右に曲がったらバイザーの洞察通りトイレがあった。さすがに水は流れないのだろうが、そこは我慢するより仕方がない。
トイレの扉を開けて中を覗くと、トイレには男用の小と個室が2つ。
「大のヤツは最後な」
いちおう誰も大ではなかったようだ。
メッシーナと白鳥麗子が個室に入り、バイザーと運転手が小で用を足した。俺とフラックスはトイレには用はないのでトイレの入り口で待っていることにした。今から考えると俺とフラックスがトイレについていく必要などなかった。
俺とフラックスがトイレの入り口でぼーっと待っていたら、屋敷の奥の方、祭壇のあったあたりからわずかな音が聞こえたような気がした。一人も逃さず処分したはずなので奥の方に人がいるはずはないのだが。
トイレから全員出てくるのを待って、
「奥の方に何かいるようだぞ、さっき音がした」
「メイスを持ってきていて正解でした」とバイザー。腰に下げていたメイスを両手に持って握りしめている。
メッシーナはベルトに付けた鞘から俺のスティンガーを引き抜いた。
水がないので当然誰も手を洗っていないはずだが、そこは指摘しないでおこう。
「運転手は車に戻っているか?」
「いえ、一人で車に残っているのは不安なのでついていきます」
ということなので、全員揃って奥の方に様子を見に行くことになった。
白鳥麗子は何が何だかわからないのだろうが、何も言わずにメッシーナとフラックスに挟まれるような形でついてきた。俺が先頭で次にバイザーが続き、その後ろを女性3人、最後に運転手という並びで歩いていった。
服が汚れてもフラックス方式でコロに掃除してもらえればすぐにきれいにはなるが、何かの拍子で破れたり孔が空いては嫌なので、俺は先頭を歩きながら、ダークサンダーを着けておくことにした。
「装着!」
一瞬のうちに俺が黒く禍々しい全身鎧に包まれたところを見た運転手と白鳥麗子が驚く声が後ろから聞こえた。
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