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第45話 流れ作業2、生贄の女


 俺が真っ赤なケチャップをポテトに付けて食べていたら、運転席から運転手が、


「お見事でしたね。死体が消えていくと思ったらワゴン車まで。一体どうなってるんですか?」


「企業秘密ってわけじゃないが、あとでバイザーにでも聞いてくれ」


「了解しました」



 俺がポテト大を食べ終わる前に、次の車が駐車場に入ってきた。その車も大型セダンで最初のセダンの脇に停まった。今回は中から全員出てくるまで待ってからの襲撃だ。


 その車の中から出てきたのは、男3人に女1人の計4人。


 4人は、車の中で食事中の俺たちを怪訝けげんな目で見ていた。


 俺がバイザー以下3名に『行け!』とアゴで合図したら、3人が車から飛び出してあっという間に4人を文字通り血祭りにあげた。俺はポテトの入った紙袋とケチャップの入った小さな容器を持って車から降り、ポテトを食べながらコロに死体を処理させて、車に戻った。



「あまり面白くないな。ムシャムシャ」


「相手はただの人間ですから、こんなものです。ムシャムシャ」


「何かスペシャルイベント的なものがあればいいんだがなー。ゴクゴク。

 メッシーナはどうだ?」


「だいぶナイフの扱いも慣れてきた。もう少し相手が強い方がいいかもしれない。モグモグ」


「そうだよな。まあ、我慢して作業を続けるしかないな。

 フラックスは何かあるか?」


「……」


 フラックスはハンバーガーをひとかじりして口に入れるのだが、口の中で溶けているらしく一切()まずに次のひと齧りをする。宴会芸としては面白いかもしれないが、食事方法としてははなはだ見た目がよろしくない。


「フラックス。食べる時は格好だけでも顎を動かして噛んでるように見せて、飲み込むふりをしろ。今の食べ方だと、誰か見てたら不審に思うぞ」


 俺の注意を聞いたフラックスは、すぐに顎を何度か動かして飲み込むしぐさを始めた。これじゃない感はあるがそのうちらしく(・・・)なるだろう。


 俺が、コーラを大きな紙コップからストローで吸っていたら、次のお客さんがやってきた。


 今度も大型セダンで、中から男が4人出てきた。そのうちの二人が後ろに回ってトランクを開けた。


 トランクから二人がかりで取り出したのはどう見ても毛布で簀巻きにされた人間だ。頭の部分に黒い布をかぶされ、毛布はロープでぐるぐると縛られている。


「あれって、今日のための生贄じゃないか?」


「そのようですね。それじゃあ、行ってきます」


 車から飛び出した3人によって、あっという間に4人の男は生物せいぶつからただの生物なまものに相転移した。今回の襲撃では、バイザーは二人をメイスで撲殺。メッシーナがスティンガーを男の後頭部から突き入れて延髄を切断して即死させた。フラックスは男の首に手をかけてそのままねじ切ってしまった。できあがりの綺麗さから評価すると、メッシーナが100点、フラックスが80点、バイザーは40点だ。バイザーの場合、武器が撲殺用の鈍器かもしれないが、殺すだけなら思いっきり殴りつけて潰さなくてもいいだろう。


 地面に放り出された簀巻きは、もぞもぞと少し動いているので、中身は生贄らしくちゃんと生きてはいるようだ。


 俺はコーラの入った紙コップを片手に車から降りて、コロにそこらに散らばっている生物なまものを片付けさせ、ついでに簀巻きのロープを食べさせた。


「何が出てくるかな?」


「それは人でしょう」とバイザー。


「バイザーくん。きみって、仲間内なかまうちの会話で浮くことがなかったかな?」


「あまり記憶にありません」


「記憶にあるなら少しは改善してたはずだものな」


「???」


「それじゃー、お楽しみ。な・に・が・で・て・く・る・か・な?」


 左手に持っていた紙コップをバイザーに持たせて、お殿様と腰元ゴッコのつもりで、簀巻きの毛布の端を持って引っ張り上げたら、簀巻きがコロコロ転がって中から全裸ではなく普通に女物のビジネススーツを着た小柄な人間が現れた。頭は黒い布で隠されているので顔は見えないが出るところは出ているので女装した男というわけではないだろう。ないよな?


 バイザーは俺に紙コップを返して「予想通りでしたね」とバイザー。


 いやいや、お前は『人間だろう』しか言ってないじゃないか。


 俺はストローでコーラをチューチュー吸いながら、頭を隠している布のひもをコロに食べさせて、布を引きはがしたら、中から20代前半に見える女の顔が出てきた。


「予想通りでしたね」と、またバイザー。


 その通りだと俺でも思うよ。


 女はどこかで見たようなプラスチックでできた丸い猿轡さるぐつわを口に入れられ、そこからよだれが垂れて顔がビチャビチャになっていた。


 猿轡さるぐつわの黒いテープ状の紐をコロに食べさせて、猿轡をとってやったら、女がせき込んでしばらくむせていた。


 やっと落ち着いた女は、俺たちというか、一番近くにいた俺を睨みつけた。


「生きていてよかったじゃないか。お前、今夜悪魔への生贄として殺されるところだったんだぞ。俺たちがお前をさらった連中を始末してやった。感謝しろよ」


 女は最初、俺の言葉を理解できなかったようだが、そのうち脳が俺の言葉を反芻はんすうでもしたのか、


「あなたたち、いえ、みなさんにわたしは助けられたんですね」


「そういうことだ」


「うえ、うえ、うえーーん!」


 女は急に泣き出した。顔がよだれでびちょびちょだったが、今度は涙を流し始めた。それを両手でこするものだから両手もびしょびしょだ。


「ほらよ。これで拭けよ」


 そう言って俺はキューブからあまり水を吸わないタオルを女に渡してやった。


「あ、ありがとうございます」


 そういって、俺の渡したタオルを受け取った女はタオルで顔を拭いたのだが、なにぶん水分の吸収が悪い。顔中によだれと涙が広がってしまった。


「あのう、これ、本当にタオルだったんですか? グスン。ジュルジュル」


 おそるおそる女が聞いてきた。もっともな疑問だ。


「すまんな、品質が低くて。悪いがそれしかなかったんだ」


「いえ、すみません。わがまま言って。グスン、グスン」


「水の代わりに酒なら大量にあるが、酒で顔を洗うか?」


「さすがにそれは。グスン、グスン」


『コロ、この女の顔を何とか綺麗にできないか?』


 コロから触手が一本伸びて、女の顔を上から下に拭くように移動したらすっかり女の顔からよだれや涙、それに鼻水がきれいになった。


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