第43話 悪魔崇拝者たち3
最初に車に乗ってやってきた4人は、始末した後コロに全部食べさせたので、今となっては砂利の上のシミになってしまった。
「女神さま。さっきの拳銃といい、死体がきれいさっぱり無くなってしまいましたがこれも女神さまのお力ですか?」
そうバイザーが聞いてきた。
「コロのことは説明しただろ? 何でも食べることができるんだ。いまみたいに死体を片づけることも簡単にできるから重宝してるんだ」
「なるほど」
「コロは死体や物に限らず、相手が生きていても食べる。いままで悪魔を食べさせたことはないが、食べるかも知れんぞ」
「まさか。そんなことは」
「よーし、それなら俺と賭けるか? きょう悪魔が出てきたらコロに食べさせてみるからな。コロが悪魔を食べたら俺の勝ち、食べることができなかったらお前の勝ちだ。そうだな、お前が勝ったら俺の加護をやろう。そのメイスを持ったお前が俺の加護を受けたらおそらく悪魔に対して無敵になると思うぞ」
「分かりました。もし私が負けたらどうなるのでしょう?」
「うーん、特にお前から欲しいものがあるわけじゃないから、そっちはどうでもいいや」
「コロ殿に食べさせる前に悪魔に聞くことがあるとかありませんでしたか?」
「いかんなー、もう忘れてた。呼び出された祭壇から遠くに移動できないのはなぜかということと、上級悪魔はなぜ人に憑依しないかということだったよな」
「そうだったと思います」
「われながらよく覚えていた。自分的には100点満点で120点の出来だ。ワハハハ。悪魔が俺の質問に答えてから、コロに食べさせよう。答えなかったら俺が捕まえて実験に使うとしよう」
以前、トルシェは捕まえた鳥人間を生体解剖しようと言っていたが、あの時の俺は捕虜の虐待に当たると思ってその案を却下した。神さまだって所変われば品変わるわけで、今の俺は知識欲にかられた、学級の徒だ。
「実験ですか?」
「以前悪魔を飼ってたんだが、飼ってること自体忘れるような影の薄いやつだったんだ。今度はじっくり観察して遊ぼうと思ってな。例えばどれくらいの電圧に耐えられるとか、体の中はどうなっているとか、子どものころカエルの解剖とかしなかったか?」
「子どもはみんなカエルの解剖をしてるんですか?」
「さあ。俺はしたような記憶があるが、俺が人間だったころのことだからはっきり覚えていないな」
「女神さまは、以前は人だったんですか?」
「そう。人であり、ゾンビであり、そしてスケルトンだったこともあるぞ」
「やはり、神さまともなるといろいろ体験されていらっしゃるのですね」
バイザーのやつ、意外とすんなり俺の話に付いてくるな。話を元に戻して、
「まあな。それで、悪魔の体の中がどうなっているか、調べてみたいとは思わないか? おまえも興味あるだろ?」
「興味があるかないかで言えば、興味はあります」
「だろう。じゃあ、おまえも一緒に解剖に付き合えよ。悪魔を解剖して一切れつまんで食べたら意外とうまかったりしてな。俺のキューブの中には外国製ではあるが醤油とワサビもあるから結構いけると女神の勘が告げている」
「食べちゃうんですか?」
「もし食べてみてうまかったら捨てるのはもったいないだろ? 本マグロのカマやらホホより希少だぞ」
「本マグロのカマやらホホが何なのかなんとなくわかりますが、捨てるのは確かにもったいないです」
「食べてみてマズかったら、捨てるだけだしな」
「いちおう、悪魔を解剖した残骸は、資料として取っておきませんか? バチカンでも興味があると思いますので」
「考慮だけはしといてやるよ。悪魔がいなけりゃ始まらないが、今から楽しみだな。
それはそうと、メッシーナ。初めての接近戦だったみたいだが、最後のじじいへの蹴りはなかなか良かったぞ」
「ありがとう。次も頑張る」
「その意気だ」
ダークサンダーを収納して普段着に戻り、いちおうの反省会をしていたら、IEAの運転手が俺たちが立っている駐車場にやってきた。
「食料を買ってきました。車が1台停まっているということは?」
「その車に乗ってきた4人はさっき始末した」
「そ、そうですか。死体の方は?」
「処分した。そこは気にするな。面倒だから車はこっちに回してここに停めておけよ。車の中で食べながら次の獲物がやってくるのを待っていようぜ」
「それじゃあ、車を回してきます」
運転手が屋敷の外の道端に停めていた車の方に歩いていった。
「フラックス、おまえさっき女の頭を握りつぶしたから手が汚れてるぞ。タオルをやるからちゃんと手を拭くんだぞ」
俺がキューブから取り出して渡したタオルでフラックスが手を拭いたのだが、異世界産のタオルだったので品質的にはあまりよくなく、なかなかきれいに拭きとれない。フラックスの本体はスケルトンだから物は食べないけれど、骨の周りにくっ付いたスライムが食事すると思って手をきれいにするようにと言ったが、スライムだから気にする必要はなかった。いやいや、汚れた手で他のものを触って欲しくないぞ。
「そうだ、フラックス。そもそもお前の体はスライムでできてるんだから、汚れを食べればいいんじゃないか?」
俺の言葉を理解したフラックスが、自分の右手を見て開いたり閉じたりした。
横にいる俺から見ても指先が簡単にきれいになったことが分かる。
「放っておくと臭くなるから衣服に付いた汚れやシミもできるだけ取ってしまえよ」
一瞬服の内側から水が漏れ出てきた感じでフラックスの着ている服が濡れたようになり、それがすぐに戻った。衣服に付いていた汚れやシミはそれだけできれいさっぱり見えなくなった。
「すごいじゃないか。俺は今までコロの触手でチマチマ汚れを取っていたが、今度から今の方法にしよう。
フラックス、ついでにメッシーナの服も少しだけ汚れてるから同じようにきれいにしてやれよ」
フラックスは一度頷いて、メッシーナの後ろに回りそこからメッシーナを両腕で抱きしめた。メッシーナも嫌がるそぶりを見せずフラックスのなすがままになっている。それでメッシーナの服も濡れたようになり、間を置かず濡れた部分から汚れがとれてきれいになった。何も百合展開を期待していたわけではないが、メッシーナの顔が少し赤くなっていた。これから長い付き合いになるんだろうから仲良くやってくれ。
全員の衣服がすっかり綺麗になったところで、砂利敷きの駐車場の中に乗り入れてきたIEAの車にさっそくみんなで乗り込んだ。
運転手の買ってきたのは某チェーン店のコーラとポテトのついたハンバーガーセットで紙の手提げ袋4つに入っていた。中身は10人前より多い。紙袋は助手席に置いてあったのでバイザーが助手席に座るのに邪魔なので、一番広さ的に余裕のあるメッシーナとフラックスの座る2列目に移して、フラックスがそこから飲み物と大き目のハンバーガーをみんなに手渡していく。
メッシーナがハンバーガーを包む紙を広げ大きく口をあけてハンバーガーにかぶりついた。
「おいしい」
俺たちもすぐにハンバーガーにかじりついた。
「大きな口を開けて人前で何かを食べたのは今日が初めて。おいしい」
また、メッシーナが聞いてて悲しくなるようなことを嬉しそうに口にする。やはり、メッシーナの体に刻み込まれていた聖刻とやらはトルシェが言っていたように呪いだったようだ。




