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第42話 試運転3、悪魔崇拝者たち2


「さっきの車に乗ってたのは4人だったから、肩慣らしにメッシーナとフラックスでってこい。俺とバイザーはバックアップで逃げ出したヤツがいたら仕留めてやる。そうだなー、悪魔がいれば俺の加護を持つメッシーナも活躍できそうだが、相手が人間じゃ素手のメッシーナだと倒すのが手間だな。メッシーナには俺のダガーナイフ『スティンガー』(注1)を貸してやろう」


 腰に括り付けているスティンガーをメッシーナに鞘ごと渡した。


「一応そのスティンガーは突くことで本領を発揮するが、相手がタダの人間なら斬りつけても差はないだろ」


 メッシーナが俺から受け取ったスティンガーを鞘から抜いて右手に持って突いたり払ったりして様子を見ているのだが、どうも手足の動きがバラバラだ。これまで接近戦などこなしたことはないのだろうから無理もない。拠点を拡張して訓練場でも作って、メッシーナはアズランに鍛えてもらったらいいかもな。



「行くぞ」


「はい!」「はい」「……」



 俺たちは屋敷の中の駐車場に入っていった。目当ての4人は車から降りて玄関の方に歩いていく最中だった。後ろ姿だが、30がらみの男が二人と女が一人、70ほどのじじいが一人だ。最初にここにきたということは、悪魔崇拝者の世話役なのかもしれない。


 俺たちが踏みしめる砂利の音に振り向いたじじいが、しわがれ声で、


「誰だ!?」


 俺は既にダークサンダーを着込んでいるし、バイザーは神父の服装でメイスを構えている。メッシーナとフラックスは一般人に見えるだろうが、俺とバイザーはとても一般人には見えないので、最初からケンカ腰の誰何すいかだった。


 もちろん答える必要はないので、フラックス、メッシーナの順で4人組に近づいていく。俺とバイザーは左右に広がりながら前に進み4人の予期せぬ動きに備えた。


 4人組のうち30がらみの男が二人、じじいと女を庇うように前に出てワイシャツの上に斜めに取り付けたベルトのホルスターから拳銃を抜き出し構えようとした。


 フラックスはまだしも、生身のメッシーナとバイザーは拳銃には分が悪そうなので、


『コロ、あの黒い塊、拳銃を二つとも食べてくれ』


 すぐに腰のベルトに擬態したコロから極細の触手が伸びて拳銃は男たちの手から消え失せた。


 つい先日も同じような展開があったが、目の前のこの二人はすぐに消えた拳銃は諦めて、何も言わずホルスターとは逆の位置に取り付けられた革の鞘からナイフを抜いた。そこらのヤクザよりもよほど慣れた動きだ。


 ナイフを及び腰に構えるメッシーナと素手のフラックスを与しやすしと見た男たちは、二人に向かってきた。


 まずは素手のフラックスに対して片側の男がナイフを斬りつけてきた。


 それに対してフラックスは一歩前に出て、横合いからナイフで切り付けてきた男の手を左手で払い、もう一歩踏み込んで右手で男の頬に平手打ちをかました。


 そのとたん、複合音が駐車場に響いた。


 男の右手首はナイフを握ったままちぎれ飛んでいった。ナイフは空中で手から落っこちて砂利敷きの地面に転がった。


 手首が吹っ飛んだのもそれなりだが、もっと悲惨だったのは男の顔で、顔の下半分、頬から下あごにかけて、先ほどの手首のようにちぎれ飛び、頭が背中側に上下さかさまになってぶら下がった。動脈も何本もちぎれたようで盛大に血が噴き出してきた。


 ある程度手加減させることを失念していた俺の失敗チョンボだ。タダの人間に最上位スケルトン種の張り手はなかった。


 今の一撃で飛び散った体液や生物なまものが近くにいたメッシーナに付着した。メッシーナに向かってきていた男には付着というより下顎らしき塊がもろにぶつかった。タダの肉ならそれほどでもないだろうが、高速で飛来した骨付き肉は痛い。



 ナイフの扱いなど素人のメッシーナが一歩踏み込んでスティンガーを前方に突き出した。やみくもな一撃にしか見えなかったが、なぜかメッシーナのスティンガーは、先ほどの骨付き肉の激突で動きの鈍った男の胸に突き刺さってそこから盛大に血が噴き出した。



 今のはビギナーズラックがいろいろ重なっただけだよな。


 倒れていく男の胸から噴き出す血が微妙にメッシーナから逸れたおかげでメッシーナはそれ以上汚れることなく、残るじじいと女の方に向かっていった。メッシーナの横にはメッシーナを庇うような形でフラックスが並走している。なかなかいいコンビじゃないか。


「フラックス、あまり汚い殺し方はするなよ」


 いちおうフラックスの後ろ姿に向けて注意しておいた。じじいも女ももう逃げることはできないだろうから、俺とメイスを構えたバイザーはゆっくりじじいたちの方に向かって行った。その間にコロには砂利の上に散らばった死体や人体部品などの生物なまものと血や体液といったゴミを処分たべさせている。


 蒼い顔をしたじじいと女は逃げられないと観念したか、その場に突っ立っている。


「お前たち、わしが誰だか知っての狼藉ろうぜきか!?」


 アズランが聞いたら喜びそうな時代劇がかったセリフだ。


 ここにいるのはイタリア人?二人にスケルトン改造人造人間と女神さまだけだ。誰もこんなじじいなど知るわけがない。


 黙ってというかもとより口のきけないフラックスがまず突っ立ていた女に右手を伸ばし女の頭頂部を掴んだ。


「ギャーーー!」


 女は大声を上げて暴れたがそんなものが|オブシディアン・スケルトン《フラックス》に通用するはずもなく、フラックスが右手に少し力を込めたら、5本の指先がそれぞれ女の頭にめり込んでいき、最後に格闘家がリンゴを潰すような塩梅で女の頭頂部が砕けて潰れてしまった。手の大きさがそこまで大きくなかったので実際は頭をえぐったような感じになった。


 周りを汚さなかったことだけは指示通りだが、フラックスの右手はベチョベチョだし、着ている衣服には飛び散ったいろんな物が付着して、もうワヤだ。


 隣りのじじいは腰を抜かしたのか、その場に尻もちをついて後ずさりしながら何かわめいている。うるさいので『黙れ』と言おうとしたら、メッシーナがじじいに近づき、白髪頭を思いっきり回し蹴りで蹴っ飛ばした。


 パッコーーン!


 いい音と同時に首が折れたらしく、あらぬきに頭が捻じれてじじいは動かなくなった。


 おかげでじじいは静かになったし、変なものが飛び散らなかったところはかなりの高評価だ。合格点だ。


 いずれにせよ、メッシーナとフラックスの試運転は上々のできだった。


 今回はコロがいたから飛び道具を簡単に防げたが、今後こういった飛び道具に対する対応も必要だな。多分忘れると思うが、忘れなければそのうちちゃんとした防具を見繕みつくろってやるか。





注1:スティンガー

ダークンの持つ漆黒のダガーナイフ。刺すことで、防御力を無視して貫通する。命を奪うことによりスティンガー自身が強化され、同時に使用者の気力・体力を回復させる。いわゆる、ヴァンピックウェポン。自己修復機能を持つ。


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