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第41話 試運転2、悪魔崇拝者たち


 IEAのクロカン車を降りた俺、メッシーナ、それにバイザーとフラックスの4人は目の前の屋敷に向かった。大型車が乗り入れることができるよう塀の一部は取り壊されており、そこから中に入ると砂利敷きの駐車場になっていた。乗用車なら、大型車でも10台は余裕で駐めることができそうな広さだ。駐車場から南に回り込んだ先は前庭で、数ある背の高い植木は手入れされず傷んでおり地面は雑草だらけだった。その前庭を少し歩いていくと玄関があった。


 玄関の扉は引き戸だったが、鍵がかかっておらず、人が何年も住んでいなかったという話のわりに、建付たてつけもしっかりしていてすんなり横に滑ってくれて簡単に開けることができた。


「ここからは、少し真面目に行こう。俺が先頭、俺の後ろにバイザーとフラックス。一番後ろがメッシーナだ」


 俺は一張羅のワンピースを汚したくないのでダークサンダーを装着し、バイザーは自慢の宝具ジ・アノインテッド・メイスを構えての臨戦態勢。メッシーナはジーンズと長そでシャツ、フラックスはワンピース。ちょっとまちまちなパーティーだが仕方ない。俺やバイザーが相手を殴りつけたり、叩き殺せば必然的にいろいろなものが飛び散って着ている物が汚れるので、メッシーナとフラックスにも汚れ防止用に防具ぐらい用意しておけばよかった。


 玄関から家の中に入ると、そこは土間になっていて、片側に上がりかまちがありその先は板の間が広がっていた。上がり框の反対側は土間の延長で台所になっていた。家の中は、雨戸関係を閉め切っているのか、今開けた扉から差し込む光しか明かりはないので結構暗い。とはいってもバイザーは俺の祝福を、メッシーナは俺の加護を受けているので暗がりは平気のハズだ。もちろんトルシェが召喚した闇の眷属ブラック・スケルトンにスライムをくっつけた人造人間フラックスも大丈夫だ。


 どこかにある配電盤を探して中のブレーカーでもいじれば電気が点くかもしれないが、そういうわけで俺たちには明かりは不要だ。


 板の間の上に上がると、黒くなった床板の上にいろいろな靴跡が白くついていた。天井からはどこにでもあるような丸い傘のついた蛍光灯が1つぶら下がっている。


 板の間の脇からは雨戸を閉じた縁側が続いていた。もちろん雨戸の内側はアルミサッシのガラス窓がはまっている。その反対側はところどころに柱を挟んでふすまが並んでいた。和室が並んでいるのだろう。


 一応確認のため、ふすまを開けながら縁側を歩いていったが、ふすまの先は何もない畳敷きの和室で、畳はそれほど傷んではいなかった。


「祭壇のある場所を運転手に聞いてこなかったが、足跡がこれだけはっきりついているとこの縁側の先だな」


 縁側の突き当りも引き戸になっていて、そこをガラガラと動かした先は武術の道場のような板の間になっていた。武術の道場なら一番奥に、漢字か何かでモットーのような物が書かれた扁額へんがくとか神棚がありそうなものだがそこにあったのは、高さ1メートル、横幅2メートル、奥行き70センチくらいの黒い台だった。


 これが悪魔を呼び出すための祭壇だな。


 近づいてみると、台の上は何やら赤黒いものがこびりついてかなり汚れていた。その上、生臭い臭いまで残っている。試しに指先で触ってみたところ、硬くはあったが、まだ湿り気のような物が残っていた。よく見れば床にも似たようなシミが広がっている。


「これはどう見ても血だよな」


「そうですね。おそらく生贄の血でしょう」


「悪魔への生贄というとやっぱり人間か?」


「もちろんです。そのために人さらいを平気でするような連中です」


「なるほどな。この血を流した生贄の本体はどこにいったんだろうな? 俺の知っている悪魔は魂だか何かを欲しがっていたが、死体そのものには興味なかったはずだが」


「おそらく悪魔崇拝者たち腹の中でしょう。悪魔崇拝者たちのこういった儀式場の床の下などで人骨の山が見つかることはよくあります」


「わかった。皆殺しにしなくちゃいけない連中ということがよーくわかった。

 それで、悪魔はどこにいるのかな?」


「どこかに潜んでいるのでしょうが、一度召喚されたことのある悪魔なら、今日の儀式の最中に姿を現すと思います」


「ふーん。まだまだ夜までには時間がありすぎるが、どうする?」


「いったん車まで戻っていましょうか?」


「そうだな。なんとなく暇だから様子を見にきたが、あまり面白くなかった。

 俺もフラックスも腹は基本的には減らないが、お前たちは腹が減るだろうから栄養補給に戻るとするか」


「はい」





 そこから屋敷を出て、車が停まっていた道まで戻ったのだが、車はまだ買い出しから戻ってきていなかった。俺はダークサンダーを収納し普段着姿に戻っている。


「どこまで行ったのかなー?」


「今の時間帯だとファーストフードも混んでるかも知れませんね」


「そういえばそうだな。俺は大皿料理は大量に持っているが、まさかここで店開きもできないしなー。暇だなー。

 ところで、この屋敷は誰のものなんだろうな? こういった物件は国のものになるのかな?」


「私は詳しくは分かりませんが、常識的にはそうなんでしょうね」とこの中で一番の年上のバイザー。メッシーナは全く見当もつかないような顔をしているし、フラックスに至っては周囲を警戒しているようで俺の話は耳には入っているのだろうが、何か返事を寄こすような感じは全くない。まだ生まれて半日のフラックスでは仕方ない。というか、そもそもフラックスは口が利けなかった。


「国のものだと仮定すると、いずれ競売か何かに出されるんだろうな。荒れ果てた田畑の真ん中の屋敷でしかもいわくつきの物件は誰も買い手は付かないだろうから、田畑はまだしも屋敷は安く手に入りそうだな」


「女神さまがここを手に入れるということですか?」


「場合によってはな。今の拠点は住みやすいから、どうするかは未定だ。いずれ俺の神殿は必要だからまとまった土地は欲しいからな。

 おっ! こっちに車が向かってきてる。IEAの車じゃないから、目当ての連中かもしれないぞ。俺たちがこんなところにたむろしていたら怪しまれると思うが、もし本物の悪魔崇拝者だったら怪しまれようと死人に口なしだ。サクッとここで始末してしまおう」


「そうですね」


 その車は黒塗りのセダンタイプの国産高級乗用車だった。国産車を使っていること自体は大いに結構、好感が持てる。だからといって生かしておくつもりは毛頭ない。いちおうリフレクターで叩き潰すのではなく、痛くないようエクスキューショナーで首を刎ねてやろう。これぞまさに『慈悲』の権能を持つ俺ならではのやさしさの発露だな。



 すぐにその車は俺たちの近くまでやってきて、カーブを切って屋敷の駐車場の中に入っていった。ざっと見、車の中には4人ほど人が乗っていた。


「バイザーなんかいかにも神父のコスプレしてるのに俺たち無視かよ」


「女神さま、何度も言いましたがこれでも私は本物の神父ですので、コスプレという訳ではありません」


「固いことを言うなよ。それじゃあ今の連中を始末しに行くぞ。

 装着!」


 俺はソフトターゲットを潰して出てくる微妙な液体や湿った物体で着ている服が汚れないよう、ダークサンダーを着込んだ。これで少々のことはへっちゃらだ!


 おっと、さっきは『慈悲』の心で首を刎ねて逝かせてやろうと思っていたことはすっかり忘れて潰してしまうことを前提に考えていた。ドンマイ!




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