第40話 試運転1、メッシーナとフラックス
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メッシーナに部屋を用意したから寝ていろと言ったが、本人は起きていると言って俺たちが飲み食いしているテーブルの席についていた。
さすがに人間では起きている時間に限度がある。メッシーナが目を瞑って動かなくなったところを見計らってフラックスに言って、メッシーナを部屋に運んでベッドに寝かせてやることにした。子どもみたいなやつだ。フラックスはそのままメッシーナの部屋から帰ってこなかった。
これまでのメッシーナの様子を見るにつけ、まともな生活を送っていたとはとても思えない。案外IEAはブラックなのかもしれない。今後何かあって俺たちのことを女神さま一行と知りつつIEAが俺たちに敵対するようなら、これまでと同じで叩き潰してやる。
天井のエベレストの空はまだ暗かったが、俺の体内時計で夜が明けてしばらくしたところで、アズランは自動車免許を取りに行くと言って部屋を出ていった。トルシェはスケルトンを10体ほど新しく召喚して、のっぺらぼうのマネキンのような物を作り始めた。スケルトン改造人造人間との置き換えターゲットの詳細が分かり次第細部を作り込むのだそうだ。
そうこうしていたら昨日の今日でバイザーがやってきた。ドアフォンでの呼び出しだったらしく涼音がバイザーを迎え入れて、俺たちのところまで連れてきてくれた。
「日本事務所で掴んだ悪魔崇拝組織の情報がありました。悪魔がいるかどうかはわからないそうです。事務所では、5課には1級エージェントではなく対人殲滅部隊を、アジア担当の4課には悪魔祓い《エクソシスト》の派遣を要請しようとしていたそうです」
「こっちの準備はできてる。メッシーナは疲れていたようでまだ寝てるが、あいつの相棒もトルシェが作ったし、悪魔にはその場にいて欲しいが、肩慣らしの様子見のつもりだからザコ相手でもいいだろう。場所はどこだ?」
「ここからだと40キロくらい離れています。東京の交通事情は知りませんが道が混んでいても車で1時間もあれば到着できるのではないでしょうか」
「メッシーナもだいぶ寝ているからそろそろ起こしてもいいころだろう。
花子、メッシーナを起こしてきてくれ」
頷いた花子がメッシーナの部屋に歩いていった。
「メッシーナの支度が終わったらすぐ出かけよう。車はあるんだろ?」
「車は運転手が乗ったままここの地下駐車場に駐めています」
「アズランはいないが問題ないだろ。
トルシェはついてくるか?」
「ザコ相手じゃつまんないから、ここで作業してます」
「それじゃあ、トルシェは適当にやっててくれ」
そうこうしているうちに寝ぼけ眼のメッシーナが花子とフラックスに連れられて起きてきた。
部屋から出てきたメッシーナが着ているのはパンツだけだったので、慌ててバイザーが顔をそむけた。
「トルシェ、パンツの余ってるのが有ったら着替え用にメッシーナに1枚やってくれ。
涼音は、メッシーナの服を下着から全部、それなりの数用意してくれるか? 化粧品もな。金はこれを使ってくれ。足りなかったら困るから、もう一つ渡しておこう。涼音もその金の範囲内で好きなもの買っていいからな」
そう言って100万円の札束を二つキューブから取り出して涼音に渡しておいた。
「はーい」「はい」
トルシェからパンツを受け取ったメッシーナが「ありがとう」といって涼音と一緒に母屋に歩いていった。シャワーでも浴びに行くのだろう。
何のかんので30分ほどでメッシーナの準備が終わったので、俺、バイザー、メッシーナ、フラックスの4人で地下の駐車場まで下りていき、バイザーが乗ってきたIEAの東京事務所の車に乗り込んだ。車は国内メーカーの大型クロスカントリー車で7人乗り。日本語がペラペラな大柄のイタリア人運転手の他巨漢のバイザーを含めた俺たち4名が乗っても余裕だった。
バイザーが助手席、メッシーナとフラックスが2列目、俺が一番後ろの3列目だ。
俺たちの格好だが、メッシーナは昨日トルシェが渡したジーンズと長そでシャツを着ている。足元は自分が履いてきた革靴だ。俺とフラックスはワンピースのスカート姿だが俺はどうせダークサンダーを装着するし、フラックスは動き回って何が見えようが気にしないはずだから何ともないだろう。バイザーはあの神父の外出着の格好だ。
高層マンションの地下駐車場から恵比寿の街並みに出た車はすぐに高速に乗っかって埼玉方面へ北上していった。
荒川に架かる橋を渡り、さらに10分ほど車は進んで高いビルが何本か立ち並ぶ街並みを横目に見ながら車は一般道に下り、そこから30分ほどで目的地に到着した。
そこは荒れ果てた畑だか田んぼに囲まれた一軒家。土塀で囲まれたいわゆる旧家だった。
「こんなところをよく見つけたな?」
俺が運転手に話しかけたところ、
「この屋敷は数年前当主が亡くなり、そのあと相続人も次々と亡くなったようで、今は空き家になっています。近年この周辺で行方不明者が急増していまして、警察が捜査したんですが、警察でも捜査に当たっていた警察官が数人行方不明となっているようです。
そういった状況で、この国の警察庁から調査依頼がIEAの4課にもたらされ、東京事務所のわれわれが3カ月ほど調査しています。屋敷の中には祭壇や、複数人のものと思われる血痕などを見つけていますが、警察の調査ではそういったものは見つかっていなかったとのことでした」
「血痕が見つかっていればそれなりに被害者の捜査が進むだろうしな。何かのトリックか悪魔が何らかの手を使ったか。
それで、祭壇はどんな感じだったんだ?」
「祭壇の形式などから悪魔を召喚する儀式が行われていたとわれわれは判断しています。実際悪魔が呼び出されたのかどうかは確認できていませんが、状況から考え実際に悪魔が呼び出された可能性は高いとわれわれは考えています」
「呼び出していてほしいな。探すのが面倒だから悪魔にはどこにもいかずここにいてもらいたいものだな」
「祭壇がある以上、悪魔単体ではここからそんなに遠くへは移動できないと考えられます。移動する場合は人間に憑依するはずです。上級悪魔は人に憑依することはありませんから、もし人に悪魔が憑依していれば、その悪魔は中下級悪魔と考えることができます」
「そうなのか?」
「IEAでの経験則ですので、理由は分かりません」
「そうか、それなら悪魔を捕まえて理由を聞いてみればいいか。
忘れなかったら、悪魔に理由を聞いてやるよ」
「そんなことが可能なんですか?」
「捕まえる前に間違えて殺してしまわなければ、それくらい簡単だと思うぞ」
「そ、そうですか」
「それで悪魔崇拝の連中は今どうなってるんだ?」
「悪魔崇拝の連中ですが1カ月に1度、東京を中心に関東各地からこの屋敷に集まり儀式を行っているようです。それがちょうど新月である今夜だとわれわれは考えています」
「お前たちが3カ月調査しただけでそこまでわかっているのに、警察が何もわからないというのはちょっと引っかかるが、ナイスタイミングだったな。その儀式は何時ごろから始まるのかな?」
「儀式は日が暮れて、2、3時間で始まると思いますが、正確な時刻は分かりません」
「今の季節だと、8時とか9時か。まだだいぶ時間があるな。車の中にいてもつまらんから中に入って様子を見てみないか?」
トルシェとアズランなら、簡単に「賛成」の一言で即実行できたのだが、メッシーナもバイザーも返事をしてくれない。慎重なことは悪いことではないが、この女神さまがいる以上大船に乗った気持ちで何も心配などないんだからな。
「ダークンさん。いつ誰が屋敷にやってくるか分かりませんから、取りこぼしの無いよう連中が儀式を始めるまで待って一網打尽にしませんか?」
「悪魔崇拝者どもはどのみち皆殺しにするんだろ? やってきた順に逃がさないよう処理していけばいいじゃないか? それに死体の処理はその場で俺が責任をもってしてやるから何も心配いらないだろ?」
「死体の処理班は午前0時にやってくる手はずになっています。
そこまで言われるのでしたら中に入ってみてください。私は街に出てファーストフードで食料を調達してきます。そのあと車は少し離れたところに停めてそこで待機しています」
「お前はこないんだな?」
「はい。私はあくまで運転手ですから」
確かにそうだ。素人にフラフラされると邪魔ではある。




