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第39話 スケルトン改造人造人間


 トルシェが召喚したオブシディアン・スケルトンの肉付けとテクスチャー貼りの傍ら、欠食児童のようなメッシーナが食事している。


 スケルトンの肉付けにはトルシェが召喚したスライムを使ったのだが、テクスチャーの肌色具合がなかなか良い。髪の毛の長さは肩口ほどで、色はアマ色とでもいうのだろう。これは西洋人仕様か。俺たちはいつもすっぴん(・・・・)なので、誰も化粧道具を持っていない。後で涼音に化粧道具を貸してもらえば相当な美人に化けそうだ。何気にトルシェに造形のセンスがあったようで驚きだ。俺が作ればさしあたりへのへのもへじ(・・・・・・・)の畑の案山子かかしが関の山だ。メッシーナのことを潰しが効かないとか思ってしまったが、よく考えたら、俺も女神を廃業したら潰しが効かない。暇なときにでも何か手に職を持てるよう訓練していた方が良さそうだ。



 配下の者が立派な仕事をした場合、褒めることは管理職の務めだ。


「なかなかいいデキじゃないか。さすがは大賢者トルシェ(注1)」


「でしょ? だけど、まだこれは喋ることはできないから、ちゃんと喋れるスケルトンが作れるようもう少し研究しておきます」


「頑張ってくれ。言葉が喋れないと、俺の計画で使えないからな。

 それで、こいつの名まえはどうする?」


「メッシーナとコンビを組ませるんだから、メッシーナに付けさせますか?」


「それもそうだな。

 おい、メッシーナ。こいつはお前の相棒になるんだから、お前が名まえを付けてやれよ」


 俺がいきなりメッシーナの名まえを呼んだものだから、お食事中のメッシーナが喉を詰まらせそうになった。


 すぐに花子がコップに水を入れて渡してやったようだ。


 テーブルの上に水があったとは知らなかった。まさか、酒じゃないよな?


 花子は生まれてまだ2、3日くらいしかたっていないはずだがよく気が付く。スーパー裸エプロン状態の花子に特に違和感を感じた素振りもなく、メッシーナは花子から手渡された水を飲んだ後、花子に向かってちゃんと「ありがとう」と言っていた。


 コイツ、聖刻を消してやった俺たちには感謝しなかったくせに、花子には感謝するんだ。大したことでもないことに感謝の言葉を素直に言えるところをみると、根は悪いヤツじゃなさそうだ。


 あれ? 俺たちはこいつが仲間になったように勝手にいろんなことをしてしまったが、こいつはまだ一度も俺たちと一緒に行動するとも言っていなかったような。


 まあいいか、イヤだとも言っていなかったはずだし、このままなし崩し的に『ダークン・ユーゲント』に取り込んでしまおう。こいつは今はタダの居候の欠食児童だが、いずれ何かの役に立つかもしれないしな。


「名まえはフラックス」


「フラックスには何か意味があるのか?」


「髪の毛の色が亜麻色フラックスだから」


「分かった、苗字はどうする?」


「いらない」


「いらないと言っても、パスポートとか必要だろ? そういえばお前の苗字は何て言うんだ?」


「ない」


「じゃあ、どうやってパスポートを作ったんだ?」


「バチカンとイタリアの共通外交官パスポートを使ってる。その場その場で名まえは変わる」


「なるほど。それじゃあ、お前がそのうちイタリアに帰るときフラックスを連れて帰るなら何とかしてやってくれ」


「連れていっていいの?」


「当たり前だろ。お前の相棒にしようとわざわざ作ったんだ」


「なんでそこまでわたしにしてくれるの?」


「さあ、なんでだろうな。いいじゃないか、細かいことは気にするな。俺たちにとっちゃこれくらいのことは大したことじゃないんだ」


「でも、……。ありがとう」


「ああ」


 やっぱりこいつはいいヤツだったようだ。



 それからしばらくしたら、自室で寝ていた涼音がやってきたのでメッシーナとフラックスを紹介してやった。


「涼音。お前、化粧品を持ってるだろ? 後でメッシーナに貸してやってくれ」


「はい」


「わたし、化粧なんてできない。したことない」


 なんだか、メッシーナが可哀かわいそうになってきたぞ。


「涼音、都合のいいときにメッシーナとフラックスに化粧をしてやって、ついでに化粧の仕方を教えてやってくれ」


「分かりました。これだけ二人とも美人さんですと、俄然やる気が出ます。さっそく始めましょう。

 メッシーナさんとフラックスさん。私についてきてください」


 そう言って涼音が自分の部屋の方に歩いていき、その後をメッシーナとフラックスがついていった。



 涼音が化粧講習会を開いているあいだ、メッシーナ用に小部屋を大広間の脇に作ってやった。もちろん作ったのはトルシェだがな。いつでも寝られるように寝具付きのベッドもあれば小さな箪笥も置いてある。


 30分ほどして涼音がメッシーナとフラックスを連れて戻ってきた。


 確かにこいつら二人とも相当な美人だ。二人ともあどけなさというか幼さというかそういうのが残っているくせにそこはかとなく大人びたところがある。


「涼音、お前、メイクの才能あるんじゃないか?」


「ダークンさんに初めて褒められました。素材がよかったので、ファンデを塗ってかるくメイクしただけです」


「それで、これか。素材も良ければ腕も良かったということにしておいてやろう。

 メッシーナ。お前があっちで化粧している間にお前の部屋を作っておいたぞ。お前疲れてるんじゃないか? 部屋で寝てていいんだぞ。俺たちは寝なくていい体だからここにずーといるけどな」


「まだ起きてる」


 そう言って、メッシーナはそれまで座っていた玉座・・にまた座ってしまった。


 本人がそう言っている以上、強制的に寝かせるわけにもいかないので好きにさせることにした。


 天井エベレストは明るいが俺の体内時計によるともう夕方だ。


 メッシーナは食事するでもなく、酒を飲むわけでもなくそのまま椅子に座っていた。


 トルシェは、酒を飲みながらテーブルの上でアキバで買ってきた小さな機械を何個か組み立てていた。何でも高性能の盗聴器なのだそうだ。電波を近くの(・・・)受信機に飛ばすだけの物だったそうだが、トルシェが魔法も駆使して改造した結果、この拠点ひろまに備え付けた受信機まで電波が届くようになるそうで、それを録音していくのだそうだ。受信装置と録音用機材は明後日に届くという話なので、盗聴器の取り付けはその日以降になる。もちろんターゲット周辺への盗聴器の取り付けはアズランが行なうことになる。


 これで、社会を今まで牛耳っていたやつらの身の回りの情報をいただいて、トルシェ謹製のスケルトン改造人造人間に覚え込ませ、十分本人としてやっていけると判断したら、本人と入れ替えていくのだ。





注1:大賢者トルシェ

以前、異世界で魔術師ギルドを乗っ取った際、トルシェは大賢者の称号を得てしまった。


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