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第38話 新生メッシーナ


 トルシェの渡したジーンズと長そでシャツをメッシーナが着終わった。少し小さめだったし、予想通り特に胸元がきつそうだ。ベターザンナッシング(トルシェ)。我慢してくれ。胸当てがない分余裕があるはずだったんだがな。


「メッシーナ、お前は俺たちが悪魔で、バイザーが悪魔に取り憑かれていると思っているようだが、それは大きな間違いだ」


「ふん! 悪魔の言葉など耳に入らぬ」


 なんだか、ツンデレキャラっぽい喋り方だな。


「お前、さっき俺たちに、なんとかいう目の攻撃してたんじゃないか? あれは悪魔に効く攻撃だったんだろ? その攻撃を受けた俺たちはこの通りピンピンしてるが、そこのところどうなんだ?」


「うっ!

 バイザーが『聖なる目』の秘密をお前たちに教えた。だから、お前たちが対抗手段を見つけた」


 ちゃんと会話になってきた。こいつバカではないようだが、純粋培養されてそうだし、精神年齢がすごーく低いんじゃないか?


「『聖なる目』の秘密が何なのか興味もないし、お前がそう理解しているならそれでいいが、お前の体に刻み込まれていた聖刻とかいう入れ墨をここにいるわが眷属『闇の右手』トルシェが治療してお前の体から無くしてしまった。ついでにお前のアルビノ的な症状も治してしまったぞ。それはどう思う?

 お前、実はあの聖刻を嫌ってたんじゃないのか? あんなのが体中に刻み込まれていたらマトモな生活などできなかったろう? 俺たちに感謝してもいいんじゃないか?」


「うるさい」


「何だって?」


「うるさい、うるさい! お前に何が分かる」


「何も分からんよ。お前のことなど。感謝したくないならそれでもいいが、社会人ならちゃんと感謝の気持ちくらい持てよな。これから先苦労するぞ。

 お前の大事な大事な(・・・・・・)聖刻とやらを消しただけで不法侵入の罪は許してやるからさっさと帰れ、それじゃあな」


「帰れない。聖刻が無くなった以上『聖なる目』も使えないし、悪魔に抗するすべは私にはもう何もない。エージェントとしての価値の無くなった私は帰りたくてももう帰れない」


「あらま。そいつは難儀なんぎな話だな。

 お前、悪魔退治以外に何かできることはあるのか?」


「なにもない」


 メッシーナは、ナンバーワンだっただけに潰しが効かないようだ。一芸に秀でることは大切だが、あまり尖った一芸の場合確かに潰しは効かないよな。


 困ったな。こいつを放りだすのは簡単だが、それだとどうも寝覚めが悪くなりそうな気がする。俺は寝る必要はないので実際は目覚めが悪くなることはないがな。


 こいつの面倒をしばらく見てやってもいいが、本人が何もできないとなると、本人自身が暇になるよな。


「お前、酒は飲めるのか?」


「飲めない」


 酒の相手でもさせようと思ったが、それもダメか。


「放っておくわけにもいかないし、バイザー、何かいい手はないか?」


「私には何とも」


「うーん。そうだ! 要は悪魔退治ができりゃいいんだろ? そしたら、俺が加護を授けてやろう。さっきのは祝福だったが、加護は強力だぞ。多分だがな。それで悪魔に十分対抗できる。ハズだ」


 両手のひらを広げ左右の人差し指同士、親指同士をくっつけて三角形を作りメッシーナに向け、


「いくぞ。『闇の加護!』」


 メッシーナの体が一瞬紫のもやもやに包まれた。ような気がした。


 今度は俺も真剣にメッシーナに向けて加護を授けてやった。俺の加護では序列第1位の『闇の加護』だ。これは効くぞー。加護の序列・・は、最近序列が流行(はや)りみたいだからいま取って付けただけだ。


 因みに序列第2位は『慈悲の加護』、3、4がなくて、5、6が『破壊』と『殺戮』。


 俺には、破壊と殺戮といった権能の持ち合わせはこれっぽっちもないので5、6は冗談だ。


「どうだ? 俺の加護は?」


「何が変わったのか全く分からない」


 それはそうだな。俺の加護のすばらしさは実戦で証明(コンバットプルーフ)するしかあるまい。


 ただ、加護だけでは防御力アップだけだろうから、攻撃力アップも欲しいところだ。


「トルシェ、メッシーナに何かいい攻撃手段となるようなものが作れないか?」


「オブシディアン・スケルトンの黒ちゃんシリーズならそこいらの悪魔程度なら簡単に斃せると思うけど、今のまんまのスケルトン姿だと連れ歩けないでしょ」


「だな。いつごろ見た目を人間にできる?」


「試行錯誤は必要だから、1時間はかかるかも?」


「1時間でできるなら、1体作ってくれないか? 俺たちの『神の国計画』のテストケースにしよう。

 戸籍だかの証明書は、IEAが用意できるだろう。バイザー、そうだよな?」


「パスポートのようなものでいいなら何とでもなると思います」


「できたら、試運転に悪魔退治してみたいから、どこかこの近くに悪魔はいないかな?」


「日本事務所に聞けば何か案件でものがあるかもしれません」


「なら、バイザー。お前はそこで寝ている小男を連れてその事務所に戻って悪魔退治の段取りを付けてくれ。それができたらここに人を寄こすなりしてくれ。メッシーナを連れて現場に向かうから」


「了解しました」


 バイザーが小部屋の床に転がっていた小男ルイージの頬を軽く叩いて気絶から目を覚まさせ、引きずるようにして涼音のマンションから出ていった。確かにバイザーはよく飲んだ。女神おれさまとその眷属(トルシェとアズラン)並みとは恐れ入る。




 こちらの方の準備も進み、トルシェが新しく召喚したオブシディアン・スケルトンを飲み食いで使っているテーブルの隣に新しく置いた細長いテーブルの上に寝かせ、さらに召喚したスライムを使って肉付けが完了した。トルシェはどうやっているのか知らないが、人肌テクスチャーを体を覆うスライム全体に貼りつけていった。


 今回召喚されたスケルトンは小柄だったため、メッシーナとちょうどいいコンビになりそうだ。でき上りは、18歳くらいに見える美人だ。女物の服しかないので見た目は女にしたのだろう。トルシェが肉付けをした関係で装甲はトルシェと変わらない。


 トルシェが作業しているあいだ、俺たちはその作業を見守っていたのだが、同じくその作業を見守っていたメッシーナの腹が可愛らしく鳴った。


「お前、腹が空いているなら、そこのテーブルに出てるもの適当に食べてていいぞ」


 そう言ったら、メッシーナはバイザーの座っていた巨大な椅子(ぎょくざ)に座って、そこらに出ていたものを食べ始めた。メッシーナは肉が嫌いなのか、手を付けようとしない。冷めてしまった肉は確かにおいしくないので、


「花子、牛肉はまだ残っているだろ? メッシーナに肉を焼いて来てくれ」


 すぐに花子は涼音のリビングに続く台所に歩いていった。


「この肉は、牛肉なの?」とメッシーナが聞いてきた。


「どう見ても、牛肉だろ」


「そ、そうだよね」


 こいつはベジタリアンなのか? 牛肉と豚肉と鶏肉は見た目で普通分かるだろ!


 花子がいま台所で新しく肉を焼いてるんだから待っていればいいものを、大皿の上に重ねてあった牛肉のステーキを小皿にとったメッシーナが、ナイフで小さく切った一切れをフォークに突き刺し小さな口に運んだ。


 メッシーナが小さな声で、


「おいしい」


 そう言ったのが聞こえた。


 欠食児童が久しぶりに食事にありついている姿を見ているようで、なんだか寂しい気持ちになってしまった。



 後で知ったが、バイザーはルイージを連れて日本事務所に戻ったところ、事務所ではかなりの混乱があったようだ。それはそうだ。メッシーナはいないし、悪魔に取り憑かれていると思われるバイザーが戻ってきたんだものな。そこは、あの何とか言うメイスを取り出して事務所の連中を黙らしたらしい。さすがはバチカンの宝具だ。



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