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第34話 されど懇親会(のみかい)は続く


 よくわからないうちにいつものノリで飲み会が始まってしまった。初見の者もいるので、自己紹介をすることにした。最初に新参のバイザーが玉座・・から立ち上がり、


「ヤーマン・バイザーといいます。ドイツ出身です。イタリア、ローマのバチカンに本部を置くIEA、国際エクソシスト協会で悪魔討滅と悪魔崇拝組織の殲滅を主任務とした部署で1級エージェントをしています。一応その部署では、序列第2位でした」


 おっと、一応はバイザーの出自は聞いていた俺でも食指が動くC2-ポジティブ(注1)御用達ごようたしの珠玉の単語群がズラズラ出てきたぞ。なになに? 「悪魔討滅」「悪魔崇拝組織の殲滅」「1級エージェント」「序列第2位」。いいじゃないか。しかし、俺の祝福を受けたからといっても日本語がうまいな。ドイツ的言い回しなんかが普通はあるんだろうが、日本語として違和感がなかったぞ。俺の祝福って何気にすごくないか?



 バイザーの自己紹介を聞いたトルシェとアズランの目がもうキラキラだ。アズランは以前はC2-ネガティブだったはずだが、トルシェからC2を感染うつされ久しい。この二人、これでも半神だ。


 かくいう俺もC2-ポジティブ気はあるのでこういった言葉は大好物だがな。


「それじゃあ、次はトルシェだ」


「はーい。

 名前はトルシェ・ウェイスト」


 トルシェの上の名前は俺も忘れてた。そんな名前だったんだ。


「自分が何かというと、ダークンさんの眷属で半神『闇の右手』。魔術全般が得意。あと、この世界にいるかどうかわからないけれど、エルフに対して絶対命令権を持ってる」


 おっと、トルシェもバイザーに刺激されたのか「絶対命令権」なるカッコいい言葉を使ったぞ。嘘ではないしなかなかいいじゃないか。前の世界でトルシェの「絶対命令権」を試してみなかったことが返す返す(かえすがえす)も残念だ。


「じゃあ、次はアズラン、一緒にフェアのことも頼むな」


「はい。

 名前はアズラン・レイ」


 アズランの上の名前も俺も忘れてた。俺には上の名がなかったしな。何か付けとけばよかったぞ。ダークン・クライン(注2)とか。


「私もダークンさんの眷属で半神『闇の左手』。体を動かすこと全般、感覚を研ぎ澄ますことが得意。私の場合はハーフリングに絶対命令権を持ってる。

 そして、私の肩に座っているのが、フェアリー・クイーン・ポイズナーのフェア。私より素早い」


 一見フェアは飾り物に見えるからな。アズランの紹介に合わせてフェアがお辞儀したらまたまたバイザーが驚いていた。こいつの驚く顔は何だか面白いな。


「俺はさっきバイザーに自己紹介したからいいか。コロがまだだったな。俺のこの黒いベルトがコロだ。ベルトがコロと言ってもピンとこないだろうが、コロの実態は形のないスライムだ。スライムといってゲームも何もしたことの無いようなバイザーでは分からないかもしれないが、ある程度粘性のある液体のような生き物だ。

 それで、このコロなんだがブラック・グラトニーというスライム種の最上位種だ。あらゆるものを捕食し、物理攻撃には絶対耐性、そのほかの攻撃にも非常に高い耐性を持っている。しかも各種凶悪な特性を持つ瘴気を発生できる。言ってみれば、究極のBC兵器ってとこだな。

 最後は、涼音」


「は、はい。

 大川涼音と言います。敵対する大陸系ヤクザに捕まり拷問の末、死にかけていたところをダークンさんたちに助けていただき、今こうして一緒に暮らしています」


「そういうことだ」


「女神さまは人助けもされたのですね」


「たまたまだがな。だが邪魔するヤツは容赦しないぞ」


「申し訳ありません」


「それはもういいから気にするな」


「ありがとうございます」


「よーし、自己紹介も終わったことだし飲むぞー!」


「「おー!」」


 ……。


 飲んでいるうちにだんだん気持ちがよくなってきた。バイザーは自分で「いくらでも飲める」と言っていただけにいい飲みっぷりだ。涼音はジョッキに入ったお米のお酒を一舐めしただけで今はペットボトルに入っていたウーロン茶を自分のところの台所に置いてあった冷蔵庫から持ってきて飲んでいる。俺がキューブに入れているお米のお酒は一度鑑定したところアルコール度数20度くらいだったので、少し濃いのかもしれないが、俺たちにとっては誤差だ。


 ……。


 2個目の樽が空いたところで、米の酒はこれくらいにして麦の酒を蒸留した50度ほどの酒に切り替えることにした。2樽キューブから取り出し、今度はトルシェがテーブルの脇にキューブから取り出したがっしりした台の上に並べてやった。これなら近くで簡単に注ぐことができる。


 麦の蒸留酒が1樽の半分ほど空いたところで気が大きくなってきた。まだヒマラヤ、エベレストの空は明るい。


「それでだ。俺は『秘密結社、3人団』の団長だ。バイザー、お前いい体しているから、『秘密結社、3人団』の下部・・構成員にならないか?」


「構成員というと? その秘密結社の一員になるということですか?」


「そういうこと。うちは兼業を認めているから、今まで通りお前はIEA(はらいや)を続けててもいいんだぞ。ついでに言えばお前が仕えている神をそのまま信じてても構わないし」


「そういう問題ですか? というか、その秘密結社は何をする組織なんですか?」


「まだ言ってなかったかな? この国の未来を憂い、この国の未来のために活動する『秘密結社、3人団』。目指すはこの女神おれさまが支配する『神の国』の建設」


「あのう、私はいちおうドイツ人なんですが」


「うん? ドイツ人が日本おれの国のために働いちゃいけないのか? 現にトルシェもアズランもこの国で生まれたわけじゃないぞ。戸籍もあるにはあるがこの前買ってきたものだし」


「戸籍が何かはなんとなくでしか分かりませんが、ドイツ人でも日本のために働いて悪くはありません」



「ダークンさん、自分から公言している秘密結社はないんじゃないですか?」


 また涼音に突っ込まれた。こいつはツッコミキャラだったのか。


「憲法の何条かは知らんがこの国では『結社の自由』を保証している。結社が大っぴらだろうとよそ様に秘密にしていようと勝手だろ!」


「そ、そうですね」


 しゃべっている俺自身も何を言っているのか分からなくなってきた。


「ところでトルシェ、花子は料理はできるのか?」


「黒ちゃん並みにはできると思います」


「それなら、そろそろつまみじゃなくて、ステーキでも食べないか?」


「「賛成ー!」」


「花子、この肉で厚めのステーキを焼いてくれ」


 キューブから牛肉のブロックを取り出して大皿の上に乗っけて花子に渡してやった。10キロほどの塊だからそれなりの量だろう。


「私はレアの厚切りで」


 バイザーはレアか。大男のバイザーが食べても足りるだろうが、足りなければまだまだ肉は沢山あるのでどんどん焼くだけだ。


 俺は日本人っぽくミディアムだな。ミディアムの何が日本人ぽいのか分からないが、中庸を好むとでも言っておくか。


「俺はミディアム。厚くなくていい」


「わたしも、それで」「わたしも」



 花子は一度頷いて俺の渡した牛肉の塊の乗った皿を持って台所の方に消えていった。






注1:C2-ポジティブ

14歳前後の中学生がり患するという恐ろしいやまいに感染している状態。


注2:ダークン・クライン

ダークンの名前はダーク(暗い)からとっている。最初トルシェに名を聞かれた時、ダークくんとお茶目で少女受けしそうな名前を思い付きそう答えたのだが、トルシェの聞き違いでダークンになってしまった経緯がある。


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