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第33話 懇親会(のみかい)へなだれ込む


 俺が勧めるソファーに腰を下ろした大男に、花子がすぐにお茶を用意して差しだした。


 もちろん涼音のマンションのリビングのソファーは常人用の物なので、大男が座るとかなり窮屈になってしまったがそこは仕方がない。


 スーパー裸エプロンの花子から皿に乗ったお茶のカップを受け取った大男は幾分引き気味ではあったが花子にむかって、


「あ、ありがとう」


 といったら、花子が頷いた。


「えーと、女神さま?」


「なんだ?」


「このスケルトンさんなんですが、どうしてスケルトンさんを女神さまが使っていらっしゃるんですか?」


「花子は、なかなか優秀なスケルトンで、家事など任せようとさっき話した俺の眷属の一人がどこかの謎の世界から召喚したものだ。俺には違いはよくわからなかったが、花子が淹れた茶は美味しいらしいぞ」


「花子さんというんですね。おっ! 確かにおいしいお茶だ」


「お前も違いが分かるお年頃だったんだな」



 大男と打ち解けてお茶を飲んでいたら玄関の方からバタバタと人がやってくる音がして、リビングのドアが開いた。


「ただいまー」「ただいま帰りました」


 トルシェとアズランがアキバでの買い物を終えて帰って来たようだ。アズランは基本足音をたてないのでトルシェ一人の足音だった。


「お帰り」「お帰りなさい」


「あれ、そこの大きな男の人は?」


「ちょっと訳ありなんだが、今はこうして打ち解けている。名まえ聞いたっけ?」


「いえ、私はヤーマン・バイザーといいます」


「だそうだ」


「それで、そのバイザーさんのわけとは?」


「まあ、お前たちもソファーに座って寛げよ。喉も乾いてるだろうから、酒でも飲むか?」


「いただきます」「もちろん」


 二人が適当にソファーに座ったところで、キューブに入れていた米から作った酒の入った酒樽を2つとジョッキを人数分取り出し、


「花子、これを台所に運んで、酒をジョッキに入れて持って来てくれ」


 すぐに花子は酒樽とジョッキを台所の隅に持っていき、樽を横にして鏡面の横に付いた注ぎ口から酒をジョッキになみなみ注いで運んできた。もちろん大男は目を丸くしていたが、特に何もコメントは無かった。キューブから酒樽を取り出して以降の一連のことを女神の奇跡の一つとでも思っているのだろう。


「みんなに回してくれ」


 花子が両手で持ってきた5つのジョッキを回していく。どうもソファーの前のテーブルは狭いし位置が低いので、使いづらい。


「ここじゃあ飲みにくいし、料理も出しにくいから、みんなジョッキを持って向こうに移動しようぜ」


「はーい」「はい」「はい」「?」


「えーと」


「バイザーです」


「そうそう、バイザー。そこの小部屋の先に俺たちの本当の拠点があるんだ。そこでじっくり飲むからな」


 どう見ても未成年のトルシェとアズランが酒の入ったジョッキを持っているのだが、その辺りについてバイザーは気にならないらしい。


 俺たちは各々酒の入ったジョッキを持って新拠点の中のテーブルまで移動していく。俺自身はダークサンダーを体の中にしまい込み普段着になっている。コロはそのまま俺の普段着のベルトに擬態している。


 小部屋を通った先の大広間を見た大男ことバイザーは、マンションの中にこれほど広い空間が広がっていることに目を見張っている。


 バイザーは部屋の広さに最初驚いたようだが、今度はトルシェ以外、俺も含めて全員が天上を見て動きを止めた。天井が一見ガラス張り風になっており、ガラスの先には雲一つない青空というより紺色の空が広がっていた。俺がいない間にトルシェが作ったようだ。


「トルシェ、すごいじゃないか」


 俺が天井を見ながらトルシェを褒めたら、


「天井の上はヒマラヤ、エベレストの上の空に繋げちゃいました」


「繋げちゃったのか」


「そう。繋げちゃいました。いまエベレストは正午過ぎだから、こっちが夜になってもかなり遅くまで明るいですよ。気になるならその時は窓を閉じればいいだけだから」


「ふーん、これはいいな。

 みんな固まってても仕方ないから席についてくれ。

 そういえばバイザーの椅子がないな」


 大男のバイザー用に、


「トルシェ、大き目の椅子ってなかったか?」


「もちろんありますよ」


 そういって、トルシェがキューブから取り出したのはどこかの王宮から拾ってきたような金ぴか椅子だった。確かに大きな椅子だ。


「バイザーはその椅子な」


「は、はい」


 玉座にも見えるその椅子に座ったバイザーは、いかにも座り心地が悪そうにしている。意匠は素晴らしいがクッションが敷いてあるわけでもなく、背もたれも硬いままだ。俺も一度座ったことがあるが、玉座といっても座り心地はそんなにいいものではない。と、言うより普通に座り心地は最低だろう。まっ、我慢してくれ。


「よーし、まずは改めて乾杯だ。

 涼音は乾杯の真似事でいいからな。

 バイザーは飲めるんだろ?」


「はい。いくらでも飲めます」


「おうそうか、それは頼もしい。フフフ」


 いくらでも飲めるといっても限度があるだろう。俺たち3人には本当の意味で限度がないからな。


「それじゃあ、カンパーイ!」


「「カンパーイ」」……。


「つまみは、以前作ったものだが新鮮なものだからな」


 そういって大皿に綺麗に盛った刺身や、揚げ物、ハム、ソーセージ、など次々テーブルの上に並べていった。もちろん取り皿やフォークなど食器も出している。皿もそこらの皿などではなくどう見ても工芸品に見える一級品だし、フォークなども見事な浮き彫りなどが施された一級品だ。だからといって、いくらでもキューブに入っているので普段使いして問題ない。


「乾杯も終わったところで、まずは、えーと」


「バイザーです」


「そうそう、バイザー、お前が最初に自己紹介しろ」


「はい」





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