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第30話 襲撃2


 ターゲットが棲家に戻ったとの連絡が入った俺たちは、ターゲットの棲むアパートの扉に手をかけた。鍵がかかっているものと思ったが試しにドアノブを回したら鍵はかかっていなかった。


 ターゲットのアパートの扉を開け、玄関に入り、玄関から一段高くなった短い廊下の先のドアを開けるとそこは広々して見晴らしのいいリビングだった。窓際のソファーに女が二人座ってお茶を飲んでいる。その一人は写真で見たターゲットの女だ。もう一方の女は普通の女に見えるが、そんなはずはないだろう。


 そして、二人の女の脇にはエプロンをした真っ黒なスケルトンが立っており、どう見ても二人に給仕している。


 今まで、悪魔は数えきれないほど見てきたし、スケルトンも何度か見たことはあるがこれほど禍々《まがまが》しいスケルトンは見たことはない。このスケルトンは黒いだけでなくテカテカに黒光りしている。そして、ぽっかり空いた眼窩の奥から赤い光が俺たちを見つめている。ただのスケルトンのハズはない。しかもなぜか骨の上に直接花柄のエプロンを着けている。それが一層不気味さを引き立てている。


 背中に冷たいものを感じたが、ここまで来てしまった以上任務を果たすしかない。ルイージも同様の覚悟を決めたようで、ソファーから立ち上がろうとしているターゲットに俺がメイスを構えて向かって行くのに合わせて、糸をターゲットに繰り出した。


 繰り出されたルイージの糸は生き物のようにターゲットを絡み取った。ターゲットはルイージの糸が絡まるに任せて反応がない。いや反応できなかったようだ。これならいける。俺は敵を過大評価していたようだ。


 その時ターゲットが俺に向かって、


「〇%、##△&?=」


 と、言ったがもちろん俺はこの国の言葉も悪魔の言葉も分からないので無視し、天井から下がった照明が邪魔にならないようメイスを斜めに振り上げ、ルイージの操る糸で身動きできなくなったターゲットに斜め横から両手でメイスを叩きつけてやった。


 ルイージの糸で手足も含め身動きできなくなったはずのターゲットが俺の体重を乗せた渾身の一振りを虫でも払うように軽く左手で払った。気付かぬ間にルイージの糸は切られていたのだ。


 マズい。


 しかも、俺のメイスの一撃を払ったといえども受けたターゲットの左手は、青い炎で焼かれることもなく何の変化もない。


 マズい、マズい。


 それでも俺はメイスを横合いからもう一度ターゲットに振るったのだが、今度はターゲットは体を反らして簡単に俺の第2撃を躱してしまった。


 マズい、マズい、マズい。


 聖なる青い炎で焼かれないということはどういうことだ? まさか、このターゲットは『サチウス・ラーヴァ』なみの最上級悪魔なのか? いや、本物のサチウス・ラーヴァの可能性すらある。


 マズい、マズい、マズい、マズい。


「お前はサチウス・ラーヴァなのか?」


 つい俺はターゲット向かって声を出してしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「この巨漢、何語をしゃべってるんだ? いまどっかで聞いた言葉を俺に向かってしゃべったようだが、アレなんだっけなー? しかし、非常に失礼な言葉のような気がする。

 こいつの喋っている言葉は、雰囲気的にイタリア語のようだが、せめて英語でしゃべってくれよ。どこの誰かは知らないけれど、ここまで踏み込んできて俺を楽しませてくれたことに敬意を表して、ちゃんと相手をしてやろうじゃないか。服が傷むと面倒なので、

 ダークサンダー、装着!」


 ダークサンダーをまとったところで、ふと良いことを思いついた。


 俺が相手してやってもいいが、せっかく花子がいるんだし、俺自身、花子と同じオブシディアン・スケルトンだったこともあるので、花子の強さはある程度見当がつくが、花子の戦闘能力を第3者視点で確認することは大切だ。


「花子、そこの二人の相手をしてくれ。話しを聞きたいから一応殺さないように。部屋は壊さず、血なんかであんまり汚さないように。まあ、汚れはコロに食べさせれば時間が経っていなければきれいになるから、そこまで気にしなくてもいいがな」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ダークサンダー! 〇&$!」


 ダークサンダーがどうのとターゲットが叫んだ瞬間、全身鎧風の真っ黒な姿に変身した。そのの表面には漆黒の血管のような模様が浮き出ている。これぞ悪魔の化身。サチウス・ラーヴァの真の姿に違いない。


 本性を現したサチウス・ラーヴァが向かってくるかと思いルイージをかばうように身構えたのだが、サチウス・ラーヴァはその場から動かずエプロンを着たスケルトンが素手で俺たちの方に近づいてきた。サチウス・ラーヴァともう一人の女は余裕でソファーに座り直し俺たちの方を見ている。完全に余裕の観戦モードだ。


 馬鹿にするな! と言いたいところだが、俺たち程度ならスケルトンで十分だと判断したのだろう。


 俺のジ・アノインテッド・メイスが黒いスケルトンに効果があるかないかで勝敗が決まる。たとえ勝ったとしても、後ろにはメイスの効かないサチウス・ラーヴァが控えている。絶望的な状況だ。しかし、まだ若いルイージだけは逃がしたい。


「ルイージ、俺が敵を抑えるあいだに、お前は逃げろ」


「バイザーさん!」


「悔しいが俺たちには荷が重すぎる敵だったようだ。ルイージ急げ! さらばだ!」


「バイザーさん、済まない、……」


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何だか二人して真剣な顔で叫びあっていたかと思うと小男の方が逃げ出していった。俺は去る者を追うのはよほどのことがない限り面倒なのでしない主義だからあっさり見逃してやった。


 俺には含むところなど何もないが、トルシェは仲間を見捨てて逃げるやつは大嫌い(注1)なので、もしトルシェがここにいたらスッポーン案件だったな。スッポーンしたとたんに部屋を汚さないようコロに食べさせないといけなかったがタイミング的に間に合わず涼音の部屋うちを液状化した脳みそやら脳漿のうしょうやらその他もろもろで汚すところだった。幸いトルシェがいなかったから、俺も逃げた小男も運がよかったようだ。これも一種のウィン・ウィンだ。ちがうか。




注1:トルシェは仲間を見捨てて逃げるやつは大嫌い

トルシェは、強力なモンスターから逃げるための時間稼ぎにパーティーメンバーから動けないようケガをさせられた上、モンスターの前に突き出されている。ダークンはその時のトルシェを助けており、それからの付き合いである。その後トルシェはそのパーティーを皆殺しにしてきっちり借りを返している。『復讐の連鎖を生まないためにも敵は皆殺しにする』がトルシェのモットーである。



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