表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/109

第29話 襲撃

途中視点が変わりますのでご注意ください。


 ターゲットの棲む高層アパートの10階に待機用の部屋が用意されていた。IEA5課の1級エージェント、ナンバー(ツー)の俺と、ナンバー(フォー)のルイージ・アリギエーリが同時にアサインされたということは、今回のターゲットは、タダの上級悪魔ではないということだ。


 俺の得物は、歴代教皇に祝福されたバチカンの宝具、ジ・アノインテッド・メイス(the Anointed Mace)だ。このメイスを叩きつけられた悪魔ないし悪魔に取り憑かれた者は聖なる青い炎によって焼き尽くされ跡形もなくなる。まさに悪魔を滅するための究極武具だ。


 これに対して、ルイージ・アリギエーリが使うのは、カーボンナノチューブ繊維をより合わせ現聖下によって祝福された複数の細線いとだ。ルイージはその糸を念力で操り悪魔を切り刻む。俺のメイスには劣るが、教皇聖下(せいか)から祝福された糸は、悪魔ないし悪魔に取り憑かれた者の体に絡みつくとその体に食い込み決して切れることはない。この糸の束にルイージはなにがしかの名前を付けているようだが俺は知らない。


 相手がいわゆる上級悪魔までならルイージが絡めとったターゲットに俺がメイスを叩き込めば仕事は終わる。俺たちはかなり相性のいいコンビと自他ともに認めている。もしも相手が上級を越える最上級悪魔、バチカンに伝承のみで伝わる『サチウス・ラーヴァ』(注1)なみの悪魔だった場合は俺の宝具が通用すれば勝てるし、通用しなければ俺たちは悪魔に取り憑かれるか死ぬだけだ。



 ターゲットが棲家に帰るのを待って静かにジ・アノインテッド・メイスの手入れをしていたら、それほど間を置かず、ターゲットが棲家に帰ったとの連絡が入った。


「ルイージ、いくぞ」


「はい!」


 普段、軽いところもあるルイージだが、さすがに今回は気合を入れているようだ。これならいらぬ不覚を取るようなことはないだろう。


 アパートの住民に見とがめられないよう用心してメイスを上着で隠してエレベーターに乗ったが、誰もエレベーターに乗っていなかった。


 最上階で、エレベーターを降りてターゲットの3004号室の扉に手をかける。当然鍵がかかっているものと思い鍵を壊そうとメイスを構えたのだが、その前に試しにノブを回したら鍵がかかっておらず簡単に扉が開いてしまった。もしや、待ち伏せされたのかと一瞬思ったが、その時はそのとき。ここまで来て引き返すことはできない。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 打ち合わせを兼ねたようなイタリアンレストランでの長めの食事を終えて、トルシェとアズランは機材を購入するためアキバに向かった。俺と涼音だけ拠点に戻って、リビングで寛いでいる。花子がちゃんとお茶の用意をしてくれて、紅茶を持ってきてくれた。よく気がきくものだ。


 花子に今日揃えた服を着せてやってもいいが、家事をしている時着せても無駄なので、今まで通りエプロンだけの、裸エプロン風スケルトン(スーパーまっぱ)でいさせている。


「花子、サンキュー」


「花子さん、ありがとう」


 レストランでもお茶を飲んでいたが、それとこれは別だ。ありがたく涼音と二人でいただいた。


「あら、おいしい。私が自分でれた時よりはっきりこっちの方が美味おいしい」


 涼音は違いが分かるお年頃だったようだ。


 俺は向こうの世界にいた時、スケルトンの黒ちゃん(注2)に淹れてもらったお茶を飲んでいたのだが、お茶葉(おちゃっぱ)の違い程度は分かるような気がするが、正直今飲んでいるお茶が技量の差でうまいのかそうでないのかわからない。逆に言えば、花子は黒ちゃんと同程度の給仕能力があると考えていいかもしれない。しかも花子は、常に上を目指しているトルシェが召喚したスケルトンのいわば第2世代。第1世代の黒ちゃんの上位互換と考えて差し支えはないだろう。



 そんなことを考えながら、まったりソファーで寛いでいたら、鍵をかけたはず(・・)の玄関の扉が開いた音がした。そしてドタドタと土足で廊下を歩く足音が聞こえ、いきなりリビングのドアが開いた。


 ドアを開いて現れたのはメイス?を構えた2メートル近い西洋人の大男と、同じく西洋人の小柄な優男やさおとこの二人組だった。小柄な方は一見武器は携帯していないように見える。着ている服は黒の詰襟に白いカラーをつけた神父さんの外出用のスーツ(せいふく)なのだ。こいつらコスプレ強盗なのか? なぜメイスなのかわからないが、神父風コスプレ強盗とは、俺のいない間に東京はまた進化していたようだ。


 なんだかわからないが、かなり面白い状況だ。


 俺と涼音が立ち上がったところで、いきなり小男が両手を広げて、左右4本ずつ計8本の糸のような物を俺に向かって投網のように投げつけてきた。何だろうと思ってたらその糸が俺に絡みついてきた。


 ただの糸が絡みついただけならどうでもいいので放っておいて、大男の方を見てたら、大男が手にしたメイス?を振り上げ俺に向かってきた。この部屋の天井はそれなりに高いのだが天井からぶら下がった照明などもあるので、かなり危なっかしい。


「おい、物を壊すなよ」


 そう言ってやったら、俺の言葉が通じたようで、メイスを斜めに構え直して俺に向かってメイスを振るった。


 それと同時に、俺に絡みついていた糸が締まってきた。


 意外としっかりした糸のようで、切れることなく俺を締め付けてくる。別にこの程度何ともないが、俺の着ている服が傷んでしまう。


『コロ、この糸を食べてくれ』


 腰に巻いたベルトに擬態しているコロから糸に触手が伸びて、俺に絡みついていた糸だけでなく、小男の手元まで完全にコロが食べてしまった。手元まですっかり食べ終わるのに結構時間がかかった。コロがこの程度の物を食べてしまうのに2秒近くかかったところをみると特殊な糸だった可能性がある。


 俺が糸攻撃を無効にする間に、大男は俺に向かって振り上げていたメイスを2度ほど振り下ろしてきたが、1度目は最初に自由になっていた左腕で受け流し、2度目は糸から自由になった体を反らしてかわしてやった。


 糸の緊張が無くなったばかりか、手の中からも糸が消えてしまった小男はその場で何を仕掛けてくるわけでもなく突っ立っている。こいつは糸しか使えないボンクラのようだ。その点大男は、無駄だと知りながら健気けなげにも俺に向かってメイスを振るおうとしている。


 俺が押し入ってきた男たちと遊んでいるあいだ、涼音は花子にかくまわれてリビングの隅の方に退避している。家事だけでなく、花子は優秀だ。





注1:サチウス・ラーヴァ

ダークンたちのいた異世界でダークンに捕まり、おもちゃにされた挙句、忘れ去られた悲しい悪魔の名まえは『サティアス・レーヴァ』だった。


注2:スケルトンの黒ちゃん

トルシェが召喚したスケルトン種最上位のオブシディアン・スケルトン。非常に強靭。力、素早さ、巧みさが圧倒的。

向こうの世界の拠点でダークンは黒ちゃんに家事全般からお酌までさせていた。戦闘をすることは無かったが圧倒的な戦闘能力を備えている。花子も黒ちゃんと同じオブシディアン・スケルトンであるため、同様に圧倒的な戦闘能力を備えていると考えられる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ