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第26話 イタリアンレストランにて


 デパートの婦人服売り場で、俺の服兼花子の服を買っていった。花子用の服は基本長袖長ズボンだ。花子はスケルトンなんだから当然だよな。ついでにコートも買っておいたので、コートを着てしまえば体の線が異常でも目立たないだろう。


 この階は婦人服売り場ではあるが、ほとんどどこかのアパレルメーカーのテナントのようだ。どこでもいいが、激しい動きで簡単に破れてしまうようでは困るので縫製や生地など確認しつつ、


「ここに目出し帽売ってないかな?」


 服を買いながらテナントごとに目出し帽はないか聞いて回ったのだが、季節がらか、どこにも売っていなかった。そもそも女性用目出し帽にニーズがない可能性もある。こうなると目出し帽は諦めて、透明人間ばりに花子を包帯でぐるぐる巻きにするしかないな。それか、プラスチック粘土を買って、花子の顔を作ってしまうか。俺が造形してしまうとクゥトゥルフ的何かができ上りそうだから、それはやめておいた方が良いか。


 花子用として手袋と厚手のスニーカー用靴下、シューズなどを買っておいた。これだけあれば、透明人間ほうたいぐるぐる前提で花子を連れ出すことはできるだろう。


 あとはどこかのドラッグストアで包帯を大量購入すればいいか。



 そういえば、花子の目をどうするかだ。接着剤で顔にくっつけるとしても、サングラスを一応買っておくか。


 買った荷物は人目がないところを見計らってキューブに入れているので、今の俺は手ぶらだ。



 いい気になって買い物をしていたら、知らぬ間に時刻は正午近くになっていた。


 マズい!


 拠点えびすに戻って昼を一緒に食べようと言ってたんだった。


 急いで1階まで下りてデパートの外に出て、通りがかったタクシーに乗り恵比寿に帰った。



 タクシーで涼音のマンションの入り口までなんとか戻ってこれたのだが、涼音のマンションの部屋番号が分からない。階数プラス01のハズだ。よく見れば郵便受けというか投入口が並んだ一画があった。見れば『3004 大川』と書いてあった。ちょっとだけ違っていた。


 入り口の機械で、3、0、0、4、呼び出しボタンの順でボタンを押したら、呼び出し音が続き、じっと10秒ほど待っていたら小さな画面に涼音の顔が映った。


「俺だ。遅くなって済まない。ここを開けてくれるか」


「はい。皆さんお待ちです」


「分かっている」


 マンションの内側のドアが開いたのでその先のエレベーターに乗って最上階に上る。


 俺がエレベーターから出たら、トルシェとアズラン、それに涼音が部屋の外に出て待っていた。


 結局俺は3人と共に今乗ってきたエレベーターに乗って下まで下りた。



 エレベーターの中で、


「遅くなって悪かった」


「わたしはさっき帰ったばかりでした」


「私の方はちょっと待ったけどそれほどでも」


「済まなかったな。花子の買い物をしてたら時間が経っていた。まだ買い揃えたい物があるんだがここでも買えるだろう」


「なんですか?」


「包帯とサングラスだ。花子の顔に包帯をグルグル巻きにしてサングラスを目の前にくっ付けとけば何とかなるだろ」


「それもいいけど。せっかくだからわたしが魔法で何とかしましょうか?」


「そんなことができるのか? というかできるのなら早めに教えておいてくれよ」


「ちょっと前に思いついただけなんです」


「ふーん。それならしかたない」


「家電量販店に行ったらゲームを売っていて、どうなってるんだろうってさっきまで考えてたんです。要は、複雑な模様や形を別途作って後から骨格になる部分に貼り付けてるだけだったんです」


「それで?」


「だから、顔とか手みたいに露出した部分を適当にネットから拾うなり合成して花子の上にかぶせてやるだけです」


「なんだか、トルシェは既にいっちょ前のIT技術者だな」


「えへへへ。任せてください。ただそれだと表情が作れないので、適当なもので花子に肉を作ってやります。食事が終わって帰ってきたら先にやっちゃいましょう」


「頼んだ。

 それで、アズランの方はどうだった?」


「必要な書類は揃ったんで明日免許を取りに行ってきます」


「そいつは良かった」


「それで、ダークンさんの方はどうでした?」


「ちょっと長くなるから、食べながら話そう」


「はーい」


「涼音、どこかいいところはあるか?」


「食事はイタリアンでいいですか?」


「何でもいいぞ。二人ともそれでいいだろ?」


「大丈夫でーす」「オーケーコラール!」


 オーケーコラールが何だかわからないが、意味合い的にはオーケーと言いたかったのだろう。アズランによると著作権に配慮したのだそうだが、俺にはアズランが何の著作権に配慮したのかさっぱりわからなかった。


 俺たちは話をしながら4階でエレベーターを下り、涼音の案内でその階のイタリアンレストランに入っていった。



 料理選びは涼音に任せて、俺はワインのメニューから、適当に赤白ボトルを3本ずつ選んでおいた。ビヤホールのこともあるので最初からトルシェとアズランはワイングラスの員数に入っている。


 運ばれてきた料理をつまみながら、涼音を除く俺たちはワインをカパカパ飲んでいく。涼音は昨日のこともあり今日はとても飲めないそうだ。自分で炭酸水を頼んでいた。それでも俺たちに付き合っていればすぐに飲めるようになるはずだ。焦る必要なない。


「それで、ダークンさん、どうだったんですか?」


「それがな、……」


 午前中新宿であったことを説明した後、


「ということで、俺はこの国の青少年を心身、特に体を徹底的に鍛えて、将来この国を背負って立つような人材を育てようと思ったんだ」


「体を鍛えると国を背負う(・・・)ような人になるんですか?」と涼音が珍しく突っ込みを入れてきた。


「それでは詳しく説明しよう!

『健全なる精神は健全なる肉体に宿る』。この言葉は涼音も知っているだろ?」


「はい。知ってます」


「この言葉を深読みすると、健全なる肉体があれば健全なる精神が得られる。言い換えれば『健全なる肉体には健全なる精神が宿る』ということだ。一般人から見ていささか飛躍した考えであるということはこの俺でもさすがに理解している。だが、この俺を見よ。完全なる肉体に完全なる精神が宿っている。そうだろ?」


「は、はい」


「ということだ」


 何が『ということ』なのか理解できる人間は少ないだろうが、俺の二人の眷属は今の俺の説明を聞いてしきりに頷いている。それを見て涼音も頷いた。何にとは言わないが、勝った!





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