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第23話 都会の釣り2、外道(げどう)


 俺は釣り竿(つりざお)も持たずに涼音のマンションを出て、新宿方向に徒歩で歩いていった。恵比寿えびすの隣が新宿だと思って山手線に沿って新宿方面(・・)に適当に歩いていたのだが、気付けば渋谷に出ていた。こういうこともある。


 渋谷から新宿までは歩くと結構距離があるので、結局タクシーに乗って新宿駅の東口で降ろしてもらった。この調子だと、タクシーを使わないと都内のどこにも行けないな。


 タクシーを降りて駅前の人混みを北に向かって歩いていくと、それっぽい一画に行きついた。ここがうわさの新宿2丁目なのか、などと思っていたが、うわさが2丁目なのか3丁目なのか、それとも4丁目なのか全く記憶にない。細い道で人通りが少なければ、釣果ちょうかが期待できる。気持ちは海釣りだ。世界の海はつながっているので、少々釣り場が悪くともエサが一級品だから、糸を垂らせば何かがひっかかる。ハズだ。


 夜歩くとそれなりにネオンでケバそうな道を歩いていったが、道も広いし通行人もまだまだ多い。今日の俺の格好は、春向きのベージュのパンツスーツだ。それに黒いパンプスを合わせている。動き易さを重視しているが、靴はシューズではないので靴に負担をかけないよう、足で蹴っ飛ばすのは控え、膝蹴り程度に抑えた方が無難だろう。人目がなければ、ダークサンダーを装着するがな。


 釣果おおものを期待しつつ一本裏道に入ってさらに北方向に歩いていったら、それらしい雰囲気の場所に出た。午前中の早い時間だったせいか、そこらの単一目的ビル(・・・・・・)から男女が人目を忍ぶように出てきて、そのままそこで別れて去っていった。今日は日本国中ウイークデーだと思うが世の中は平和かつ好景気なのかもしれない。


 俺の権能に『愛』とか『性愛』とかあれば祝福くらい与えてやったのだが、惜しいな。


 そういったラシイ(・・・)通りを歩いていたら、俺の後を二人組の男がついてきている。アタリがあったわけだから、じっくり針を飲ませてそれから一気に釣り上げるとしよう。お互いにとって好都合なことに通りには俺たち以外に人はいない。


 そう思って、思わせぶりに振り向いたところ、俺の顔をはっきり見た二人組が嬉しそうな顔をして急ぎ足で俺の方に近づいてきた。


 釣りはエサ次第ってことだな。


「女一人デ、コンナトコロ、歩イテルト、危ナイヨ」


 いやいや。危険の真っただ中にいるのはお前らの方だぞ。つい顔がほころんでくる。俺のニコニコ顔を見て何を勘違いしたのか、片側の男が俺の脇に近づき、もう一人が、反対側から近づいて俺の方に腕を伸ばしてきた。こんなのに触られるとキショイので、特撮シーンモードに。依然通りには俺たち以外に誰もいない。


変身へんしーん!」


 こいつらにとっては『ん』が取れて「変死へんしー」かもな。



 俺が変身と口に出しつつ心の中で『装着』と言ったことで、漆黒の全身鎧ダークサンダーが俺の体を覆った。


 正確に言うとダークサンダーの地の色は漆黒ではなく、地の上の稲妻模様が漆黒なのだ。その稲妻模様は見ようによっては血管模様にも見える。実にカッコいいのだ。


 俺の禍々(りり)しいダークサンダー姿を見たとたん、二人とも蒼い顔をしてわめきながら一目散に逃げだした。はて? いまの二人、俺のことを知っていたのか? まさか昨日ぶっ潰したビルから逃げ出した連中じゃあるまいな。気になったので、一匹捕まえることにした。そうでなくとも捕まえることは既定路線だったがな。


 一気に加速して、遅れた方の男の襟首に手をかけて捕まえた。男がわめいている言葉はもちろん日本語じゃない。しかし逃げるなら同じ方向じゃなくて別々の方向に逃げるのがホントだろ。程度の低い連中だ。


「静かにしろよ。あんまりうるさくしてると、どっかからお迎えが来るぞ。まだこの素晴らしき世界(・・・・・・・・・)を見ていたいんだろ?」


 それなりの脅し文句を肩越しに男の耳元に小声でつぶやいてやったら、俺の純正日本語が通じたようで頭をしきりに縦に振っていた。純正日本語が実は通じていない可能性もあるが、この状況、人並みのおつむが付いていれば俺の言葉の意味は理解はできるはずだ。


「どこにあるのかな? きみたち(・・・)本拠地アジトぼく(・・)に教えてくれよ」


 これも意味が通じたようだが、男は今度はしきりに首を横に振る。そんなに首を振ってると、振り切れちゃうぞ。


ぼく(・・)の言った意味が総合的・・・に理解できなかったのかな? ならきみ(・・)はもういらない。ゴミはゴミ箱に」


 そう言って手にした襟首に力を入れて真上に放り投げてやった。


 トランポリンの選手なら空中で技を決めてくれたのだろうが、残念ながら男は空中遊泳の素人だったようで、見ようによっては複雑な回転をしながら5メートルほどの高さまで上昇しそこから落下し始めた。その段階で五月蠅かった男の声は途絶えていた。そのままアスファルトの上に落っことしてしまうと、潰れたカエルのでき上りだ。そうなってしまえば、それこそゴミ箱を探さなくてはならなくなるので、大サービスで落ちてきた男を受け止めてやった。


 うまく受け止めてやったはずなのだが、ちょっと手元が狂ったようで、男の足の先がアスファルトに当たったようだ。妙な音と一緒に男の片足の足首から先があらぬ方向に曲がってしまった。


 ドンマイ。


 今の空中演技中、男はどうも失神してたらしい。逃げたもう一匹も捕まえていたらお手玉ができたのに残念だ。


 この男にはアジトに案内してもらわなければならなかったのに、気絶してしまった上に足も半分いかれているし、股間はなぜか濡れてるし。


 なんの役にも立たなそうだし、キショイので、ちょうど目の前にあったビルとビルの狭い隙間に男を無理やりねじ込んでやった。



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