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第21話 拠点づくりと召喚


 酒盛りからマンション住人専用通路を通って涼音すずねマンション(へや)に戻った俺たちは、まず涼音の服を脱がして、そのままベッドに寝かせてやった。


「トルシェ、ちゃっちゃっと拠点を整備して、また飲み直そうぜ」


了解りょうかーい!」


 俺とアズランは、涼音に借りた小部屋の先にトルシェが空間拡張して部屋を作っていくのを眺めていた。基本はワンルームマンションで足りなければその壁にボコボコ新しい空間を作って繋げていくだけだ。すぐに20メートル四方で天井までの高さが4メートルほどの大部屋ができた。


「ダークンさん、照明はどうします?」


「そうだなー。俺たちには照明は不要だし、涼音も俺の祝福受けているのでそれほど困りはしないだろうが、一応現代人の気持ちになって照明くらい付けておくか」


「りょうかーい」


 トルシェは自分キューブの中にたくさん入れている魔道具の照明を天井に取り付けていった。


 どういう仕組みだか俺にはわからないが、電気代がかからないのが素晴らしい。問題なのはいつも明るいことだ。そのうちトルシェがレベルアップして消灯できるようになるかもしれない。


 トルシェはこれまで何度も似たような作業をしているので慣れたものである。部屋の隅の方にとりあえずベッドを3つ。キッチンなどは今回は涼音の物を使えばいいので不要だ。そう考えると無駄に広い部屋になってしまった。


 とりあえず今日は飲み直すことが目的なので、部屋の真ん中にトルシェが大き目のテーブルと椅子を3つ自分の収納キューブから出して、そのあと俺が俺のキューブから料理と酒を並べていく。


「それじゃあ、改めてカンパーイ!」


 こんどは、ジョッキの中にコメの酒(・・・・)を入れて乾杯だ。


「このくらいの方が美味しいな」


「さっきワインのボトルを見たら、14.5度でした。このコメの酒はもう少し濃いのかな?」


「純正の日本酒ってわけじゃないから、きっと濃いんじゃないか? いままで長いこと飲んでいたが気にしたこともなかったから鑑定もしてなかった。久しぶりに鑑定でみるか。

 どれどれ?

 えーと、

 名称:なし

 種別:酒(原料、水、米)

 アルコール度数、20度。

 だそうだ。ちょっとだけさっきのワインより濃かったみたいだな。昨日きのうだか一昨日おととい飲んだ日本酒もそれなりだったが少し薄かったものな」


 どうでもいいことを駄弁だべりながら、酒を飲み適当なつまみをつまんでいく。


「やっぱり、給仕するだけでも黒ちゃんがいた方がいいな」


「そうですね。それじゃあ、黒ちゃん2号を作っちゃいましょう。この世界だとスケルトンは話だけで実在しないようだから、連れ歩くときは暑苦しいけど覆面を着けましょう」


「それならいいんじゃないか。トルシェ、さっそく頼んだ」


「久しぶりの召喚だからどうだったかなー?

 えーと、こんな感じかな? 出でよ、オブシディアン(こくようせき)・スケルトン」


 トルシェのヤツ、スケルトン最上位ハイエンドきしゅ、わが懐かしのオブシディアン・スケルトンを召喚したようだ。俺の場合はその変異種オブシディアン・スケルトン・ナイトだったがな。


 すぐにトルシェの目の前で黒っぽい靄のようなものが渦巻き始めそれがだんだんと濃くなって、やがて黒光りするスケルトンの形になった。なかなか憎い演出だ。やはりこういった演出もネットで研究したのだろう。惜しむらくは、トルシェそのものに召喚に対する演出が全くなかったことだ。ただ突っ立って『出でよ、オブシディアン・スケルトン』では目の肥えた視聴者は許さないぞ。


「なかなかいいぞ。今はスーパーマッパだが、背格好は俺くらいだから後で俺の服を着せてやろう。

 名前は黒ちゃん2号でいいのか? 2号さんだと俺的にはちょっと違和感を感じてしまうんだがな」


「ダークンさんが適当に名まえを付けていいですよ」


「ところで、このスケルトンの骨格は女なんだよな」


「いちおうあの頃の(・・・・)ダークンさんを参考にしてます」


「俺かよ。うん? このスケルトンはトルシェが創ったんじゃなくて、召喚したんだよな?」


「そうだけど、そこらは適当に何とでもなるんですよ」


「そうなんだ。知らなかった。

 まあいいや。

 女だったら、ここは日本だし、純日本風に花子はなこでどうだ?」


「フラワーガールって意味ですね。いいんじゃないですか」


「じゃあそれでいこう。

 スケルトン、これからおまえの名まえは『花子』だ。いいな」


 花子が首を縦に振りながらあごでカタカタ音を立てた。何気になつかしい。


 花子に俺の持っていた服を着せてやろうと思ったが部屋の中では無駄なのでエプロンだけ着けて、裸エプロン風スケルトン(スーパーマッパ)でいさせることにした。花子に渡したエプロンにはたまたま黄色い花柄の刺繍がついていたので、花子にピッタリだ。その刺繍一つで何だか花子が可愛く見えてしまう。不思議なものだ。


 とはいえ、スケルトンに花柄エプロンだ。俺から見れば可愛くは見えるのだが、一般人から見ればやはり違和感バリバリのはずだ。それでもそこらの安っぽいスケルトンと違い花子は高級感満載の黒光りするスケルトンなだけにしっくりしてる気もする。例えれば、そこらの軽自動車と黒塗りのセン〇ュリーの差だな。



 花子も外に連れ出すには衣装もいるし、俺の服も補給しないと数が減ってきたので明日は新宿で適当に見繕ってくるか。


 新宿をブラブラしていたら寄付をしたがる連中(バカ)が寄ってくるかもしれないしな。新宿には大陸系の自由業の方が沢山いらっしゃるようだから、ちょうどいい。うまくすればまた『世のため、人のため、そして自分のため』ウィン・ウィン・ウィンだ。とはいえ、千万単位の収益をチマチマ稼いでいてもラチが開かない。稼いだ金の使い道など酒を買うくらいしかないが、ここらで大勝負して、4、5百億稼ぎたいもんだ。


 朝方まで花子に給仕をさせながら、飲み食いしていたら、涼音がやってきた。昨日の今日で、小部屋の先がこんなふうになってしまっていたら、それは驚くだろう。150平米へいべいのマンションが一挙に400平米広がって550平米だもの。資産価値激増だから悪いもんじゃないだろう。だだっぴろい部屋の中の真ん中にポツンと置かれたテーブルを3人で囲んで酒を飲んでいるところも見ようによっては、世俗とは言い難く神々しさがある。


 新拠点には窓はないので太陽の位置から時間の見当をつけることはできないのだが、女神さまの俺の体内時計は正確なのだ。すでに日本時間に修正されているので秒単位とはいかないが、分単位でピッタリだ。


「おう、涼音。おはよう」


「お、おはようございます。

 えーと、黒い骸骨?」


「花子だ。トルシェが召喚したスケルトンだ。一応スケルトンの最上位種だから頭もいいし相当強いぞ。

 花子、涼音だ。挨拶してみろ」


 俺がスケルトンの時と同様花子は顎をカタカタ動かして自己紹介をした。


「カタカタカタカタ」


 今のは『わたしは花子です。よろしくお願いします』と言ったんだ。もちろん俺にも花子のカタカタ言葉なんぞ分かるはずないが、状況からしてこれしかないだろう。


「部屋のほうは、中身はまだ揃えていないが、なかなかいい部屋だろ? 窓がないのはご愛嬌だがな。

 あれ? トルシェ。窓って作れないのか? できたら、青空や夜空を見たいところだな」


「今すぐは難いけど、どこかに壁を繋げればできるかも」


 トルシェのことだからこの部屋を作った空間拡張と一緒でいわゆる『空間魔法』を使ってそのうち何とかしてくれるだろう。できれば景色のいいところにしてもらいたい。ダメならダメで、涼音の方の見晴らしのいい居間で酒を飲めばいいだけだ。




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