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第20話 酒盛り


 涼音の後について入ったビヤホールの中には、昼間だというのにそれなりの人が入っていた。とはいえ、テーブルにはまだ余裕があったので、店のお姉さんに言って俺たちの席は六人掛けのテーブルにしてもらった。なぜかというと、俺もトルシェもアズランさえも人の数倍は飲むからだ。ワハハ。


 どう見ても未成年者に見えるトルシェとアズランだが、童顔なのだと店のお姉さんに強く言ったらそれ以上何も言われなかった。文句を言うようなら戸籍謄本を見せてやったのだが、戸籍謄本自体本人の物か分からないので意味ないな。そこらへんがザルでよかったよ。店の看板からすると、大手のビール会社の経営のようだが、案外この店だか本社は、経営が傾いているのかもしれない。


 トルシェとアズランは戸籍に書かれた生年月日からいって、二人とも18歳なんだが、18歳から成人だよな? 涼音のお父さんも変な顔をしていたし、藪蛇という言葉もある。ここはあえて確認しない方がよさそうだ。



「とりあえず、大生だいなま4つ。涼音も飲めるんだろ?」


「飲めますが、大ジョッキはきついかもしれません」


「こんなところで飲み過ぎてかれては困るから、ちゅうにしとくか」


「はい」


「そしたらおねえさん、大生だいなま3つに中1つ」


「かしこまりました」


「料理はビールが来たら頼むから」


「はい」



 お姉さんが戻っていったので俺たちはメニューを見て料理を決めることに。何を食べても美味しいはずなので、適当に頼めば十分だ。


 すぐに先ほどのお姉さんがジョッキを抱えてきたので、注文をどんどん入れていく。


 調子に乗ってメニューの片っ端からどんどん注文していったら、


「お客さま、これ以上ご注文されますとテーブルがいっぱいになると思います」


 それを見越しての6人席だったがそれでもいっぱいになるようだ。食べ終わった料理は端から片付けてもらって次を注文していくしかないな。どうせビールはどんどん注文するんだし。


「じゃあそれで」


「かしこまりました」




「まずは、涼音が俺たちの仲間に加わったということで、カンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


 ゴクゴク、ゴクゴク。ウンマーイ!


 世界のビールを飲み比べたことがあるわけではないが、日本の生ビールは世界一だ。いや、あっちの世界を含めても一番だ。『日本に帰ってこられて良かったー』と、つくづく実感したぞ。ビールの泡が口ひげになるところも新鮮だ。それをプファーと吹きとばす。アッハッハッハ。


 下戸げこに対する一気飲みの強要はただのイジメだが、俺は一気飲みが大好きだ! 飲ませるんじゃなくて飲む方だぞ。誰か、俺に一気飲みを強要してくれー!



 トルシェとアズランも俺とほぼ一緒に大ジョッキを飲み干したようだ。涼音の中ジョッキは泡の部分が少し減っただけに見える。涼音は自己申告通り下戸だったようだ。それなら、ソフトドリンクを頼んだ方がよかったかもしれない。


「お姉さーん、お替わり。大3つ。

 涼音は無理する必要ないから、コーラでも飲むか?」


「それでしたらオレンジジュースで」


「お姉さん、さっきのにオレンジジュース追加」


「かしこまりました」


 店のお姉さんもたった30秒で呼ばれるとは思っていなかっただろう。よーし、また30秒で呼んでやるぞー。


 ……。


 それから俺は3回ばかり30秒ルールを守ってやった。トルシェが2回、アズランが1回だ。勝った!

 なぜ4回目がないかというと、食べる方が忙しくなったからだ。


「ダークンさん、ビールもいいけどそろそろ濃い酒にしませんか?」


 一見未成年、いやどう見ても未成年のトルシェが濃い酒を所望し始めた。これに対して、見ようによっては小学生、ひいき目に見て中学生のアズランが頷いている。俺もそろそろと思っていたので、お姉さんを呼び、


「日本酒ある?」


「ございます」


「あれば、とりあえず一升瓶で」


「申し訳ございません。当店では270ミリリットルの小瓶しか置いていません」


「そんなんじゃ飲んだ気がしないな。ウイスキーは?」


「ウイスキーは、グラスでのご提供のみになっております」


「じゃあワインは?」


「ワインでしたら、720ミリリットルの普通サイズの物がございます」


「だったら、適当に2、3本持って来てくれる。グラスは、……。3つでいいか。大き目のグラスにしてくれる。なかったら中ジョッキで」


「かしこまりました。グラスは大き目の物をお持ちいたします。ワインには赤、白、ロゼとございますがそれも適当でよろしいですか?」


「飲むのは3人だから、赤3、白3、ロゼ3でいくか」


「かしこまりました。どのワインも値段は一緒ですのでお勧めの物をお持ちします」


「よろしくー」



 お姉さんの持ってきたワインを用意してくれた大き目のワイングラスになみなみと注いだら、ボトルの半分入ってしまった。


 なんだー。これじゃあすぐ無くなってしまう。これだと、ボトル一本30秒ルールになってしまうぞ。これを飲み終わったら、赤、白、ロゼ9本ずつにしたいところだが30本近くもこのテーブルに置けないから6本ずつにするしかないじゃないか!


 涼音は飲むのも食べるのもやめて俺たちの飲みっぷりを目を丸めて眺めている。そもそもあの量の液体が体のどこに入っているのか、全く腹が膨れているようには見えないはずなので傍から見ればそれは不思議だろう。いくら飲み食いしようが出す必要のない便利な体だから重宝するよ。


 ……。


「お客さま、ラストオーダーのお時間になりました」


「それじゃあ、最後にビールで締めるか。一人3杯として、大生9」


「は、はい。承りました」


 お姉さんは一人で左右3個づつで6個の大ジョッキを抱えてきた。応援のお姉さんが残り3個のジョッキを持ってきた。


「それじゃー、カンパーイ!」


 どうしてジョッキが揃うと乾杯したくなるのかねー?


 ……。


 半分寝ていた涼音を連れて出口の会計へ。


 支払いは会計担当のトルシェに任せた。支払いが済んだら妙に長いレシートを渡された。


「いくらした?」


「30万円弱でした」


「昼過ぎから散々飲んで意外に安かったな。酒も薄いのばっか飲んでたからな」


「そうですね。次は日本酒のお店に行きましょうよ」


「そうだな。宅飲みもいいが、外で飲むと注文するだけでいいから便利だものな」


「スケルトンの黒ちゃん(注1)がいたら便利だったんだけど。拠点に帰ったら黒ちゃん2号作りましょうか?」


「黒ちゃん、今頃どうしてるかなー」


「百年や二百年は何ともないから、元気にやってるんじゃないかな」


「そのうちあっちに帰れることも有るかもしれないしな。

 いまのところは、涼音のうちに帰ろう」


 涼音は半分寝てしまったようなので、俺がおんぶして、途中では通路のロックの暗証番号を寝ぼけた涼音から教えてもらい、やっと涼音のマンションに帰り着いた。




注1:スケルトンの黒ちゃん

トルシェが召喚したスケルトン最上位種であるオブシディアン(こくようせき)・スケルトン。あちらの世界で家事を任されていた。


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