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第16話 ウィン・ウィン・ウィン


 先ほどの出来事は第3者から見た場合『弱い者いじめ』に見えるかも知れない。『弱い者いじめ』と言ってしまうと、何か悪いことをしているようなイメージが付きまとってしまう。


 だがしかーし。状況を詳しく分析すれば、たまたま悪の構成員が弱っちかっただけで『悪人退治』と言えばガラリとイメージが変わってしまう。そう、俺は弱い者いじめ風悪人退治をしたのだ!


 自己肯定感バリバリではあるが、嘘は言っていない。俺は嘘と他人ひとさまに迷惑をかけることが大嫌いだからな。


 よく考えたら、越後のちりめん問屋のあの爺さんも同じだ。最強の二人の子分を使って悪人退治してたものな。あれだって、相手が弱っちかったから弱い者いじめの範疇はんちゅうに含まれるはずだ。だが、世間さまあれを見て快哉かいさいを上げる。「勧善懲悪ここに成る!」と。俺との違いは、俺が悪人を成敗するところには大抵視聴者がないので、視聴者(だいさんしゃ)に対して勧善をしたくてもできないところだ。もちろん悪人本人たちも罪を悔い改める前にこの世という舞台から強制退場しているので、彼らに対して勧善しようと思ってもできないわけだ。


「これからも弱い者いじめ風悪人退治をしていくぞ!」


 ビルが崩壊したことで、もうもうと立ち昇る粉塵から遠ざかりながら、俺が独り言のようなことを言うと、トルシェが待ってましたとばかりに、


「それなら、さっきみたいに適当な連中のところに押しかけて、寄付・・してもらいましょうよ。『寄付』っていい言葉ですよね! 今までは道や建物の中に落ちているものを拾っていたけど、これからは相手の『善意』をこちらがありがたく頂く。お互いが幸せになれる。えーと?」


WIN-WIN(ウィン・ウィン)な」


「そうそう、ウィン・ウィン。いい言葉だなー」


「さっきみたいな悪人限定で寄付してもらえば、世間さまもハッピーだしな」


「となると、ウィン・ウィン・ウィン。いい言葉だなー」


「それだと、なんだか、機械がうなってるように聞こえるな」


 そんなバカな話をする俺たちの後を大川涼音おおかわすずねが黙ってついて歩いている。適応力が高いのか? まあ、俺の加護を持っている以上俺の信者のようなものだから『常闇の女神』の俺やその眷属の会話に違和感を抱かないのだろう。



「一応ここは片付いたから、貴金属屋にいってきんを売って、それから銀行に回って現金を引き出してこよう。しかし、きんを売ってばかりじゃいずれ金も無くなるから何か寄付金集め以外に商売を考えないとな」


「ダークンさん、金でも銀でも好きなだけ魔法で作れますよ(注1)」と、トルシェ。


「あれ? そうだったけ?」


「一度試したことがあったじゃないですか」


「あっ! そういえばそんなことがあったような」


「いやだなー」


「まあいいや、あんまり金をポンポン売ってばかりじゃマズいからな。

 話は戻るが、涼音。お前、どこかに無事を知らせなくていいのか?」


「はい。家の者に」


「それだったら早くしろよ。と言いたいが俺たちは今のところ携帯持ってないんだ。しまったな。さっきのビルを壊す前に電話しとけばよかった。ここらに公衆電話はないかな?」


 そうそう都合よく電話ボックスは見つからなかった。


「電話ボックスを探しながら貴金属屋に行ってみるか。電話ボックスがなければ貴金属屋に言えば貸してくれるだろ。なにせ俺たちは上客だからな」



 通りには人も車も増えてきた。いや、人は先ほどのビル倒壊を見物に行く連中のようだ。救急車だか消防車だかパトカーのサイレンも聞こえてきた。


 脆くなって勝手に倒壊したビルなど俺たちにはこれっぽっちも関係ないことなので知らんふりで通りを歩いていく。もうちょっと行けば貴金属屋があるはずだ。


「アズラン、昨日の貴金属屋はこっちでいいんだよな?」


「ちょっと違うかも。私が先導します。確かあそこに見えるビルの南側の道を少しいったところですから、そこの道を曲がりましょう」


 最初からアズランに任せておけばよかった。


 少しばかり道を間違えていたようだが、それでもそんなに時間もかからず店に着いた。いつもの俺ならもっと道を間違えていたはずだ。


 店に入ると、昨日の今日なので店員には簡単に話が通じた。


 20キロの金の延べ棒2本、計40キロの純金を店員に渡したところ、涼音は40キロもある金の延べ棒を俺が持ち歩いていたことに驚いていた。それはそうだ。


 店員が重さや品位を計測し手続きするのを待つあいだ、


「ちょっと電話を貸してくれないか? 俺たち今携帯持ってないんだ」


「かしこまりました。こちらの電話をお使いください」


 思った通り上客には丁寧だよな。


「涼音、はやいとこ無事を知らせてやれ」


「はい」


 涼音が番号を押して、


「もしもし?」


『涼音か? 父さんだ。今どこにいる?』


「今池袋のXX貴金属にいる。いろいろあったんだけどいまは大丈夫。凄い人たちに助けてもらったの」


『どこの誰に助けてもらった? いずれにせよ礼をせねばならん。その人たちに自宅うちに来てもらえ』


「わかった。ちょっと待って。

 ダークンさん、父がお礼をしたいと言っていますので、自宅うちに来てもらえますか?」


「ここが終わったらすぐに行っていいぞ」


「お父さん、1時間くらい後にそっちに行くから」


『ちょっと待て、こっちも支度があるから2時間後で頼む。の打ち合わせに使っている部屋マンションの方に頼む』


「わかったわ。それじゃあ。

 ダークンさん、父も何か支度するようですから、2時間後くらいでお願いします」


「それじゃあ予定通りここが終わったら銀行に回ろう」


 電話が終わって数分で、つつがなく手続きも終わり金を売却できた。値段は昨日と少ししか違わなかった。




「さて、次は銀行だ。アズラン、案内頼む」


 知ったかぶって街を歩くと大回りになり、足腰を鍛える可能性が高い。今さら俺たちが足腰を鍛えても仕方ないので、最初からアズランに先導してもらうことにした。女神おれも学習するのである。




 今日は朝から臨時収入があったので銀行に行く必要はなくなったのだが、現金はあって悪いものでもないので、予定通り俺たちは昨日の銀行にも顔を出し1000万ほど引き出しておいた。窓口の担当者が昨日と同じだったので、ここでもつつがなく手続きが進み、現金をろすことができた。


「それじゃあ、簡単に昼を食べてそれから涼音の家に行くか?」


 俺たちは近くにあったチェーン店のファストフードの店に入ってハンバーガーセットとコーラで昼を簡単に済ませた。涼音は体を回復させたせいか食欲があったようで、チキンとポテトを追加で頼んだ。



 ファストフードを出たところで、


「涼音、ここから歩いていくのか? 遠いようならタクシーを使いたいがな」


 歩くのは嫌いではないが、タクシーを使うことで少しでもこの国の経済を回そうという親心からの提案だ。


「ここからですと、タクシーだと大回りになって20分くらいかかるかもしれません。歩きだと15分くらいだと思います」


 そう言われてしまうと、経済のことはおいておかないといけないよな。


「じゃあ、歩いていこう。案内してくれ」


「はい」




注1:金でも銀でも好きなだけ魔法で作れますよ

前作の感想をいただき、読み返したところ、作者も忘れていた驚愕の事実だったため、2022年1月23日そのあたり数行追加しました。

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