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第14話 殴り込み4、反社勢力一掃キャンペーン2


 このビルの最上階の6階で目ぼしい物の回収が終わったので、俺たちは一階下の5階に階段で下りて行った。


 5階は、2階と同じ作りで、エレベーターの前から廊下が一本走っていて、片側に扉が並んでいた。通路の一番奥に扉があるのも2階と同じだ。


 片端から部屋の扉を開けてトルシェが金目のものを回収していく。一番奥の通路の突き当りにある部屋は、廊下の分だけ他の部屋より広い。


「あれ? この部屋だけ鍵がかかってる。それに中に人がいるみたい」


「まさか怖くなって中から鍵をかけて隠れてるってことはないよな。

 何が出てこようがどうってことないだろうが、ここは俺が開けてみる」


 俺が扉の取っ手に手をかけ、力をわずかに込めて扉を押したら鍵が壊れたらしく、ガリリと音を立てて、分厚くて重い映画館の扉のような扉が開いた。そのとたん、部屋の中からムッとする血の臭いと汚物の臭いが漂ってきた。


 この部屋は道路に面した部屋のはずなのだが、窓があるはずの面には厚手のパネルがはめ込まれていて、外から中はうかがえないようにしていた。


 部屋の真ん中に椅子が一つ置いてあり、その椅子に顔を下に向けた全裸の女が全身赤黒い血と傷と痣だらけになってロープで縛りつけられていた。床には、女から垂れた血と汚物が広がっていて、今も女の傷口から伝わった血がポタリ、ポタリと床に落ちている。女は死んでいるかと思ったが、かすかに胸が上下している。気を失ってはいるがまだ生きているようだ。


 女の周りには拷問道具のようなものと、拷問の様子を撮影でもしていたような機材が並べられていた。こういうことは普通地下で執り行うと思うが、このビルには地下はなかったためか、わざわざ部屋に防音が施すためらしく、壁の材質がこれまでの部屋とは違うようだ。


 俺は女の体に食い込んでいたロープを引きちぎってやろうとしたが、その拍子にロープがさらに女の体に食い込みそうだったので、ダガーナイフ、スティンガーを腰から引き抜いてロープを切ってやり、女を椅子にちゃんと座らせてやった。


「トルシェ、この女をヒールオールか何かで治してやってくれ」


「はーい。ヒールオール」


 女の体が薄青く発光しながら、見る見るうちに傷や痣が消えていった。しばらく女の体が元通りになるのを眺めていたら、女が気絶から覚めた。そのとたん、


「ギャー、こ、こないで! こないで! こないで! ……」


 女は椅子から転げ落ちて自分で作った血だまりで血だらけになりながら、部屋の隅の方に俺たちの方を見ながら後ずさっていった。よく見ると、女の目は虚ろでどこを見ているのか焦点が定まっていない。


 いきなり目の前に、真っ黒いスーパーヒーローが現れては、さすがに怖かったのかもしれないが、この反応は普通ではない。


 拷問を受けていたようだから、精神が壊れている可能性も考慮する必要がある。しかし、こうなってしまうと手が付けられない。面倒なので殴って静かにさせようかと思って女に近づいていったらフェアが気を利かせて、妖精の鱗粉で女を眠らせた。普通に寝息を立てているから、毒とか妙な効果は妖精の鱗粉から出ていないようだ。ただ女は眠りながらも荒い息をしている。


「どうするかな?」


「助けるにしても、気が狂ってるようだったから、厳しそう」


「ダークンさん。ダークンさんの闇の祝福をこの女に与えたらどうでしょう?」


「その手があったな。よし。女神おれが祝福を与えればこの女も救われるはずだ!

 いくぞ、闇の祝福!」


 このところ祝福などしたことがなかったので、祝福時のポージングを忘れてしまっていた。仕方ないので、女の額に向かってそれっぽく右手のひらを向けて祝福してやった。


 俺の手のひらから何かエフェクトでも出てくれれば見てくれがよかったものを、何も出なかった。それでも女の寝息が落ち着いてきたところをみると、効果があったのだろう。


 本人が気を失っている以上何の意味もないが、こういった時は後光スイッチ(注1)を入れるのだった。かなりブランクがあったので本当に失念していた。他に失念していることはないか心配になってきた。


 おとなしくなった目の前の女は、床に足を投げ出して座ってはいるが、見た感じ背丈的には俺よりも小さい。それでもトルシェよりも大きいので、合う服がない。このまま全裸という訳にはいかないので、少々ダブダブではあるが上位互換ということで俺の服を着せることにした。



 俺の後ろで、そこらのものをいじりながら回収していたトルシェが、


「ダークンさん、カメラがノートパソコンにつながています。ネット配信でもしてたかも」


「何をこいつらが企んでいたのかはわからないが、相当なもんだな。ただ、この程度のボロビルしか持ってない連中のやることにしたら大げさだな」


「ここは支店で他に本店があるのかもしれませんよ」


「そうだな。新宿辺りに拠点アジトがあるかもしれないし、もっと言えば大陸に本拠地がある可能性もある」


「そしたら、大陸まで乗り込みますか?」


「それはちょっと面倒だな。俺たちに明確に敵対してくるようならそれも考えるがな。しかし、トルシェもアズランももうこの世界のことはほとんど知ってるみたいだな。ネットはあなどれん」


 二人と会話しながら思ったが、ほんの半日ネットをいじっていだけでトルシェもアズランも日本における現代常識を身に着けてしまったようだ。悪くすると俺が一番この世界のことを知らない可能性すらある。


「でへへ。まあわたしたちにかかれば、そのくらいチョロチョロですよ。チョロチョロ」


 いつものすごい自信だがこれも事実なので、


「まったくだ。さすがはわが眷属のトルシェとアズラン、俺も鼻が高いぞ」


 などとおだてておいた。


 

 

 寝ている女に服を着せるのも面倒だし、このまま背負って連れて歩くわけにもいかない。トルシェも部屋の中のめぼしいものを回収し終えたようなので、そろそろ女を起こすことにした。


 俺がガントレットを着けたこの手で女の頬をぺちぺちすると、口の中を切ったり奥歯が折れたりするので、トルシェに向かって、


「トルシェ、女を起こせるか?」


「はーい。アウェイク」


 目覚まし魔法というのもあったようだ。一応トルシェは向こうの世界では魔法の大家、大賢者さまだったからな。この程度は朝メシ前なのだろう。ところでこの二人、朝食べてきたのだろうか?


 トルシェの魔法で目覚めた女は、俺たちを再度見て、


「あなたたちは?」


 至極しごく真っ当な質問をしてきた。おれの祝福を受けて頭の調子は正常に戻ったようだ。俺は女の目の前でダークサンダーの真っ黒いヘルメットをとって、


「たまたまではあるが、ここで拷問を受けていたらしき女を助けた者だ。この建物にはもうほとんど人はいない。俺たちが追っ払った」


「私はみなさんに助けられたのですね。ありがとうございます。しかも傷跡も無くなっている。そういえば目も潰され、歯も抜かれていたはず。それが全て元通りになっている。私は今まで悪夢を見ていた? いえ、目の前で妖精が飛んでいるところをみると今見ているのも実は夢?」


「現実だから安心しろ。いまお前の目の前で飛び回っているのは俺たちの仲間の妖精だ。しかし、お前がそこまでひどいことをされていたとは知らなかった。今までのことは夢だったと思っていた方がお前のためかもしれないな。

 その格好では外も歩けないだろうから、俺の服を貸してやる。その前に、

 コロ、この女の体に着いた血やら汚れをきれいに食べてくれ」


 タオルで拭いてやろうかと思ったが、コロを使ったほうがきれいになるので、女の体にこびりついた汚れを食べさせることにした。


 数秒で女の体から汚れも取れ、短めの黒髪もサラサラになった。汚れがとれてきれいになったことで女はさらに驚いていたが、意外と若くて美人だったので俺も驚いた。


「よーし。それじゃあ、ちょっと大きいと思うが我慢して俺の服を着ろ」


 俺はキューブから昨日買った下着と予備の普段着と運動靴を取り出して女に渡してやった。靴は合わないと履けないので、運動靴用の短いソックスを二足渡してやった。


 女は俺の服を着て、長袖をまくり、足の裾も丸めて何とか格好がついた。靴も靴下2枚重ねで何とか履けるようになった。



注1:後光スイッチ

信者獲得のため、ダークンは信者の前で『奇跡』風パフォーマンスを行うことがある。その時に、背後を明るくする能力がある。実際はいつも後光が出ているのだが、それだとありがたみが薄くなるので、通常は後光を消しており、スイッチオンで後光が現れるようにしている。


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