第13話 殴り込み3、反社勢力一掃キャンペーン
細長い雑居ビジネスビル風のビルの最上階の6階で、小銃を持った2人の男を従えて、偉そうにした細目で小太りのおっさんを見つけた。俺にちゃんとした詫びでも入れてくればビルの完全破壊ダケは許してやろうと思ったが、どうも自分の置かれている状況と立場を理解していない愚か者だったようだ。
危機管理能力を持たない経営者というものはどこにでもいるわけで、その下で働く従業員は自由意思で就職先を選んだのだろうから、これから先起こることが、自分たちにとって悲劇であろうと運命として甘んじて受け入れてくれたまえ。
小銃を持っていた二人は俺が一歩前に出て近づくと、ライフルを床に放り投げて手を上げた。この二人はおそらく場慣れしたプロなのだろう。こういった連中は嫌いではないので、首をわずかに振って部屋から出ていくよう合図してやった。二人はそのままそそくさと部屋から出ていった。部屋を出ていくとき、ご丁寧に扉を閉めて出ていった。
おっさんは出ていった二人に対して大声を上げていたが、二人にとっておっさんははもはや過去の人物だ。撤退することに気兼ねなど何もないだろう。
一人取り残されたおっさんは、俺に向かって大声でまくしたてるが、何を言っているのか分からないし、もう猶予期間は過ぎている。あとは執行するだけだ。
おっさんの方に俺が進むとおっさんが後ずさる。
そこで、いきなり扉が開いた。ガラの悪そうな連中がワラワラと部屋の中に入ってきて、俺の後ろに並んだようだ。何か仕掛けてくればいいものを、黙って成り行きを見守っている。
どうした? お前らの上司がやられるのを見物に来たのか?
おっさんは子分たちに向かって何かまくしたて始めたが、子分たちに動きはない。
「おい、おっさん。子分にも見捨てられたようだがどんな気持ちだ。普段子分を可愛がっていないんじゃないか? 少々可愛がる程度じゃお前のために死のうって気にはならないがな。
後ろの連中も、このおっさんを助けたいなら遠慮せずに俺にかかってきていいんだぞ。俺を見事斃してこのおっさんを助けたら、ヒーローだ。ただ、俺もむざむざやられるわけにはいかないから、反撃はするぞ。死んじまったとしても、業務遂行上の事故死だ。運がよければ遺族には労災が下りる。かもな?」
後ろの連中もついでに脅しておいてやった。
「ケ、警察ヲ呼ブゾ!」
俺が遊んでいたら、おっさんが初めて俺にとって意味のある言葉を口にした。
「好きにしろ。警察がくる前にお前が死んでしまえば、お前にとって何も変わらないと思うがな」
「金カ? 金ナライクラデモアル」
「さっき『どう詫びを入れるんだ?』って聞いたときに詫びればよかっただろ? 今さら遅いんだよ。どれ、お前の言っていた金は、その金庫の中なのか?」
「オ前ニ、コノ金庫ヲ開ケルコトナド、デキルワケナイ」
「そうかなー?」
俺は左の腰に下げたエクスキューショナーを右手で鞘からシャラリと抜き放った。真っ黒い剣身を見せびらかすように軽く素振りしながら、目の前の大型金庫に向かって歩いていき、金庫の左上から30センチくらい右から左下に向かって斜めに一振りしてやった。
ほとんど抵抗もなく振り切った後、金庫の左上の角の部分が床にずり落ちて、
ゴトン! と大きな音を立てた。
「たかが鋼鉄製の金庫など軟らかい飴を切るようなものだ」
鋼鉄製といっても中に火災時の断熱用にコンクリートのようなものも入っていたようだが、エクスキューショナーの前に区別はない。
切り刻んでしまうと後が大変なので、デモンストレーションはこれくらいにして、後はコロの出番だ。
『コロ、目の前の金庫の扉を食べてくれ』
ダークサンダーのベルトに擬態していたコロの極細の触手が数本目の前の金庫に伸びって、アッという名に金庫の扉がコロに食べ尽くされてしまった。傍から見ると俺が何かのマジックを使ったように見えたことだろう。
金庫の扉が消えてなくなったら、細目で小太りのおっさんがまたわめき始めた。その後ろで成り行きを見守っている連中は無言のままだ。
おっさんのわめき声が耳について、かなりうるさくなってきたので、
「うるさい! 静かにしろ! わめくくらいなら殴りかかるなり鉄砲を撃つなり刃物で切りかかってこい」
俺が怒鳴り返したら静かになった。と思ったら、そこら辺の物を手に取って俺に投げつけ始めた。こいつは子どもかよ。
取りあえず無視して、金庫の中にあった現金、一千万の札束の塊が4つに百万の束が3つを収納キューブに入れ、後の書類も全部キューブに回収しておいた。
そのころには投げる物も無くなったのか、おっさんも静かになったので、俺は子分たちに向かって、
「お前たち。このビルは、そうだな、物の回収もあるから15分後に俺が叩き潰す。大ケガをしたくなければ、どっかに逃げた方がいいぞ。お前たちの顔は全部覚えたからこの街に近づかない方が良いと付け加えておこう」
人の顔を覚えるのが大の苦手の俺だ。もちろん、モブキャラの顔など誰一人覚えていないが、一応そういって脅しておいた。
俺の言葉を理解できなかったヤツもいたようだが、理解できたヤツもいてそいつが逃げ出したので、子分たちは結局一人残らず部屋から逃げ出していった。
「このビルはぶっ壊すとして、先にお前の処分だな」
おっさんは俺の言葉にビクッとしたようだ。
「タノム、見逃シテクレ」
「おっさん。人に物を頼むときの頼み方も知らないのか?
まあいい。世の中からお前が消えてなくなっても誰も困らないし、いなくなった方が良いと思う人間の方が多そうだ。お前をこの世から消し去るのは世のため人のため。いわば世直しだ。諦めろ」
俺の言葉を聞いて観念したかと思ったが、おっさんは急に部屋の扉に向かって駆けだした。
そうしたら、部屋の出入り口になぜかホテルの部屋の中でノートパソコンに魅了されていたはずのトルシェとアズランが立っていた。アズランの肩にはフェアがいつも通り座っている。
おっさんは、二人が小柄でどう見ても子供だったので、人質にでもしようと思ったのかいきなりアズランを捕まえようとした。もちろんアズランがおっさんに捕まるはずもなく、おっさんはアズランによって床の上に叩きつけられ伸びてしまった。
「あれー? ダークンさんが一人だけ楽しそうなことをしてた!」
「一人だけはずるいと思いまーす!」
アズランがどこで覚えたのか妙なアクセントで妙な言い回しをし始めた。そのうち「カッコ笑い」とか言い出しそうだ。
「動画を見てたら、ダークンさんらしき人物が、男を片手で吊るして歩いているのがあったんです。それで、ダークンさんが部屋にいないことに気づいて、何となくこっちかな? あっちかな? って探してたら道端にゴミが転がってたんで、ここに違いないと思ってたどり着きましたー!」
「そういえば、動画のダークンさんはなぜかはっきりと映ってなくて、男か女かもわからない状態だったんですが、あんなことができるのはダークンさんしかいないので、ダークンさんと分かりました。やっぱり女神さまだと動画にうまく映らないのかな?」
「そういうこともあるかもしれないな。変な動画が拡散されて全国区になることは覚悟していたんだが、そういった特殊設定が神さまキャラにあったとはラッキーだった。
ちょうど二人がきてくれたことだし、このビルは壊してしまうから、目ぼしいものがあったら早いとこ回収してくれ」
「はいはーい」
「はい」
回収専門家のトルシェがきたから、このビルの中の金目のものが無駄になることはなくなった。
足元に伸びていた小太りのおっさんがちょうど回収作業を始めようとしていたトルシェの邪魔になったようで、
「邪魔!」
トルシェがそう言っておっさんを蹴飛ばしたら、蹴った時に変な音を立てて部屋の隅まで吹っ飛んでいった。部屋の隅で止まった時にも変な音がしたから、骨の数が相当数増えてしまったと思う。




