第109話 終話、世界は女神(おれ)の国のためにある。
大日本育英団による実質独裁が始まり4年が経ち、任期満了で衆議院の総選挙が行われたが、全議席独占体制はそのままだ。
俺はこの間、ことあるごとに日本列島を祝福している。そのかいあってか例年農産物は大豊作だし、近海漁業も豊漁だ。国内交通網の整備も進み、生産地から消費地が近くなった関係で、消費者価格は抑えられた上生産者の収益は安定的に伸びている。
自然災害について言えば、雨は適度に降るし、台風は素通りする。地震も震度4を超えるようなものは起きていない。台風は来ないに越したことはないし、それだけなのだが、地震については、ある程度エネルギーを放出しなければドでかいのがやってくる可能性があるそうだ。地震エネルギーというか地面の底のひずみエネルギーを地震以外の方法で解放できないかしばらく考えたのだが、素人の俺ではいい知恵は浮かばなかった。
「……、こういうことなんだが、何かいい手はないかな?」と、トルシェたちに聞いてみたところ、
「ダークンさん、物質転換って魔法覚えてますか?」と、トルシェ。
「もちろん覚えてるぞ、まさか地面の下で核爆発起こすってわけじゃないんだろ?」
「まさか。
で、誰でも知っているE=MC2ってあるでしょ?」
「おっ。アインシュタインのあれな」
俺自身聞いたことはあるがそれだけだ。こういう時は相槌を打っておけば間違いない。話を振られた時は話題を逸らすしかなくなるがな。
「あれって、エネルギーは物資に変換できるって意味でもあるんですよね」
『ね』って言われたら頷かなければならないので、俺は鷹揚に頷いて見せた。
「だから、この島国周辺の地下で、溜まったエネルギーを何か適当な物質に変えてしまえばいいだけなんですよ」
「トルシェにはそれができるのか?」
「やったことないけど、それほど難しくはないかな。
いつものように地上200キロから発動すれば日本中を一度に対象にできるし」
「それならぜひやってくれ。100年分くらいのエネルギーが抜けたら十分だぞ」
「了解。早速やっちゃいましょう」
そう言ってトルシェは大広間を出て、気密通路の方に歩いていった。いつものようにそこから高度200キロに扉を繋げるのだろう。トルシェだと非力なので扉を開けたとたん吹き飛ばされる可能性は無きにしも非ずだが、そこらは得意の魔法で何とでもするだろう。
トルシェを見送って3分ほどしたところで、とうのトルシェが戻ってきた。
「終わりました。地震エネルギーを適当な物資に変えてやったから、小さな地震は起こっても、大きな地震となると1000年は大丈夫じゃないかな」
トルシェの力強いお言葉だった。放っておいても、これで20年もすれば耐震基準の実質的引き下げが起きるんじゃないか?
「ご苦労。地震学会の連中も魂消るだろうな。ちなみに地震エネルギーは何に変えたんだ?」
「とりあえず、ダイアモンドに」
「そいつはいいや。日本にはダイアモンドは出ないって聞いていたから、将来地質学者が困るかもしれないが、いいんじゃないか。
いいことをした後は酒が美味いから、そろそろ始めるか」
「「賛成!」」
国に金が必要ならトルシェに頼めば無尽蔵に物質変換で金もできるし、資源が不足すれば、希少金属でも何でも用意できる。今現在、日銀本店の地下には、1万トン、時価80兆円の純金が眠っている。もちろん、米国の金保有量を越えて世界一の金保有量だ。
ただ、日銀自身は自分の足元に金塊が眠っていることを認識していない。その存在を知っているのは俺たち三人団と涼音だけだ。何かの時に文字通りの埋蔵金が見つかればそれなりに役に立つだろう。
そういうことなので、国内問題は基本的に無くなってしまった。
外交問題については、一時期台湾に対する大陸中国の圧力が危険レベルにまで高まり、日本も対応せざるをえなくなったのだが、なぜか大陸中国の指導者が軟化してしまい、台湾を国家として承認するとまで言ってのけた。
そのことが元で大陸中国が大揺れに揺れ、最終的には大陸中国は北京を中心とした中華共和国と浙江省から広東省にかけての沿岸部を中心とした広東共和国、それに複数の周辺国に分裂してしまった。
中華共和国と広東共和国は国境紛争を繰り返しいろいろな意味で衰退の道をたどったが、今のところ両国ともいちおうは大国ではある。しかし分裂以前のような外部に向けての覇権主義的行動はとれなくなっている。
そういった情勢の中、
大川内閣は、非核三原則の破棄と同時に防衛のための核保有を閣議決定してしまった。俺と一緒に桃太○侍をテレビで見ていた涼音は、画面に流れた緊急速報のテロップを見て初めてそのニュースを知ったようだ。
「これくらいどうってことはない。逆に当たり前のことだ」と、俺は涼音に言っておいた。そもそも、こっちには物質変換ウラン235もあるし、プルトニウム239もあるので、今さらといえば今さらだ。
「そ、そうですよね。これくらいなんてことありませんよね?」
「気にするな、この国には俺がついてる」
海外も一部の国を除き、同盟国を中心に好意的な反応を示した。
で、その3日後。今度は、海上自衛隊が竹島を海上封鎖し、竹島を不法占拠していた外国人に対して武装解除を促したうえ、特殊部隊が上陸し、竹島上陸中の外国人を全員逮捕してしまった。逮捕された外国人は即日起訴されている。
銭形○次を見ているところで流れた緊急速報のテロップでこのことを知った涼音は、横に座って一緒にテレビを見ていた俺に、
「どうってことありませんよね?」と、聞いてきたので、
「涼音、お前のコピーはよくやってるじゃないか。何かあるようならこういった行動をしない。裏を返せばどうってことないからこういった行動をしたわけだ。だから全く問題ない」と、涼音に物の道理というものを教えてやった。
さらに、その3日後。今度は、必〇シリーズの何とかという番組を涼音と見ていたら、番組がいきなり切り替わり、テレビ局のニューススタジオが映されアナウンサーが原稿を読み上げ始めた。
『政府は旧ソ連との日ソ中立条約締結時の北方領土領有宣言を行いました。宣言で南樺太、千島列島の領有権はわが国にあると主張。当該地域における外国人に対して速やかな退去を勧告しております。
これに対してルシア共和国政府は沈黙を守っており、状況は不透明です。
平野防衛大臣によりますと、自衛隊は現在特段の警戒態勢にはないとのことです。
このニュースに関連した情報は番組の途中でも入り次第お伝えしていきます』
「ダークンさん、良いんでしょうか?」
「良いんじゃないか。涼音は大船に乗ったつもりでいればいいんだ」
緊急ニュースが終わり、必殺の番組も終わって、次の紋次郎を見ていたら、またニュースが始まった。
『ただいま先ほどのニュースの続報が入って参りました。
ルシア共和国のフーチン大統領はわが国の主張を認め、樺太南部および千島列島からの住民の移動及び軍の撤退を命令したようです。
北方領土が帰ってきます! 南樺太と千島列島というおまけまでついています』
テレビの画面の中でアナウンサーが興奮してまくしたてている。
「言った通りだろ?」
「ダークンさん、以前の大陸中国の台湾承認のときもそうでしたが、今回のフーチン大統領ってもしかして?」
「もしかするかもしれないし、もしかしないかもしれない。
世界は女神の国のためにあるんだ。そう思っていれば間違いない。
この国の繁栄は俺がいなくなっても1000年は続く。安心しろ。
涼音よ、俺は異世界で神になり、この世界に舞い戻ったんだが、俺のなすべきことはやり終えたようだ」
「えっ! ダークンさん、どこかにいっちゃうんですか?」
「実はトルシェが、向うの世界とこの世界を繋げることに成功したんだ。
そういうわけで、俺たちは好きな時に向こうの世界にいくことができる。
もちろん涼音も向こうにいけるし、帰ってくることもできる。あっちにある俺たちの拠点もいいところだぞ。
来週にでもみんなでいってみるか?」
「はい!」
花子が冷めてしまった俺のお茶を取り換えて新しいお茶を出してくれた。
「花子もな」
「はい、マイゴッデス。楽しみです」
(完)
ブックマーク、☆、感想、誤字報告等ありがとうございました。これにて常闇の女神シリーズ完結しました。シリーズ3作合わせて100万字超え。
世間さまでは宗教がー、政治がーとか問題になっていますが、ここまで突き抜けてしまえば問題なし。今回は布教活動をしているわけではなかったので、建前上は政教分離。その前に3権を掌握している以上、何をか言わんやですな。
作者のその他の作品もよろしくお願いします。
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新作:現代ファンタジー『岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する』
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