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第108話 神国いやさか


 7月の衆参同日選挙において大日本育英会は衆議院全議席を獲得し、参議院の改選議席も全議席獲得した。これで参議院でもこれまでに取り替えた人造人間議員を含め三分の二を超える議席を獲得した。憲法改正の意味合いは薄れているもののいつでも国民投票に附す準備ができた。


 支持率99パーセントを超す大川内閣は選挙後も内閣改造など一切行うこともなく、銀二は官房長官のままだし、白鳥麗子は衆議院議長のままだ。


 国内各地で衆議院議員独占は憲法違反であるとか、不正選挙であるとかデモが発生したが、支持率ほぼ100パーセントにもかかわらずそういったデモが発生することを不審に思い確認したところ、デモ参加者は外国人だった。


 これを受けて外国人の政治活動の全面禁止及びデモ等に参加する者に自身の国籍を示す証明書の携帯義務付けを法制化した。外国人の政治活動の罰則は国外退去のみという優しい法律になっている。証明書不携帯の罰則は一律罰金5万円なのでこれもかなり優しい。そもそも日本人でそういったデモに参加する人間は非常に稀なので、取り締まりする警官の点数稼ぎにはもってこいではある。もちろんこの法律について憲法違反であるとの訴訟が起こったが、最高裁まで行くには何年もかかるし、そのころには訴訟のよりどころとなった憲法部分は改正され、なおかつ最高裁の判事も人造人間にすげ代わっている。


 帰化要件はこれまで通りとしているので、政治活動がしたければ帰化して日本国民になればいいだけだ。




 国民の安心安全が図られた以上次の施策を推し進めていった。少子化対策、高齢化対策、雇用の安定と所得の増加、エネルギーと食料自給率の向上だ。


1、法人税率を一律10パーセントに引き下げ国内での企業活動を支援。補助金等の段階的撤廃。


2、所得税の最高税率を20パーセントに引き下げ。


3、国民の医療費、介護費の大幅低下が予想される中、健康保険税、介護保険税を当分の間(・・・・)現行のまま据え置くが目的税である消費税は撤廃。医療、介護の自己負担率を50パーセントに引き上げる。これでも、国民一人当たりの医療費、介護費は4分の1以下になるだろうと試算している。


4、年金負担者は国や企業などの負担分を含めその3割まで日本国籍を有する2親等までの親族に限り直接支払い先を選べる。例えば、10万円年金を負担している者は、3万円まで自分の親に仕送りできることになる。支払先の年齢は問わない。


5、子どもを養育した両親に対して最大18年の養育期間に対して月割で1000円(2人めで2000円、同様に3人目以降千円ずつ増額)の年金割増し。18年間、2人の子どもを養育した場合、夫婦で年額18×12カ月×1千円+18×12カ月×2千円=64万8千円、一人頭32万4千円の年金が増額される。

 3人の子どもを養育した場合は、一人頭年間64万8千円増額される。

 ひとり親の場合は、ひとり親に対して全額支給される。途中離婚した場合は見合いで按分される。


6、農業の法人化促進。

 企業参入完全自由化。農地所有自由化。

 企業による焼き畑農業(地力低下により収穫量が減少し、経営が立ち行かなくなり農地を放棄して撤退する)の厳罰化。

 個人による農地の売却は売却先が農業法人である場合を除き原則禁止。

 耕作放棄地を国が買い上げ、専門企業に委託して農地として再生。農業法人に売却。


7、農村の活性化1

 農村、山間部における交通の便の改善。バス等の運航に国から補助。


8、私立大学への補助金は、前年度の卒業生徒数だけで決定(全生徒数でないのは、不当な留年などを防ぐため)。これにより定員割れ大学の統廃合を促す。新規私立大学の設立は当面凍結する。


9、私立大学への補助金縮小により浮いた予算を使い、大学院以上の高等専門教育は私立の教育機関も含め無償とする。


10、私立小中高への補助金は、日本国民である生徒数だけで機械的に決定する。


11、私立大学の統廃合が進み、大学進学希望者に対して大学の受け入れ人数が足りなくなることが予想されるため、新たな受け皿として、大日本育英団農業隊を発足させる。


12、農村の活性化2

 大日本育英団農業隊員は日本各地の小規模、高齢化農家に派遣され、農作業の手助けをする。農業隊員はもちろん自衛官と同じ特別職国家公務員である。隊員は基本4年の任期制で、任期を終えた場合、継続して隊員を続けることもできる。除隊した場合、農業法人を中心に就職を斡旋する。


13、消費課税の部分的撤廃

 消費税の撤廃に続き、酒税、揮発油税、石油ガス税等を撤廃する。


14、各省庁のスリム化

 各省庁の外郭団体を段階的に廃止。関連団体を洗い出し、関係の透明化をはかり補助金などあれば停止。


15、地方自治体の外郭団体、関連団体についても同様の処置をおこなう。


16、14、15、によるスリム化で浮いた予算で公務員の待遇改善をはかる。


17、各省庁の外郭団体は原則廃止だが、必要なものは外部ではなく省庁内で新たな部署を設ける。


 農業関連の施策により、国内の食料自給率が直ちに向上するわけではないが、10年後には8割を超える予想だ。



 国内の景気だが、消費税撤廃を中心とした各種の消費課税撤廃により、消費が爆発的に上昇した結果、企業収益の伸び率が過去最高を記録し、法人税は減税分を埋め合わせたうえにさらに増収となった。


 加えて、法人税の減税効果で海外に進出していた優良企業の国内回帰の動きがブームとなった。日本各地では工場の新設ラッシュが起こっている。


 企業側は表立って喧伝するわけではなかったが、雇用は勤勉でなおかつ基礎教育のしっかりした日本人が望ましいということで、初任給がアップしていき、それが全体の給与水準の引き上げにつながっていった。



 主要企業の国内回帰については、減税といった国の表向きの後押しだけでは動きは鈍かった可能性もあるが、主要企業、特に主要銀行のトップ(じんぞうにんげん)は俺の意思通り動くので、動きは早くなるのは当然だ。




 減税と給与引き上げが相まって、家計の可処分所得は大幅に伸び、国民の将来に対する希望が膨らんだ。その結果、ここ2年ほどで出生率も大幅に上昇しており、本年度以降もその基調は続くと予想されている。


 今年のGDPの伸び率も通期で名目10パーセント越えが今年も予想され、平均株価も年内に新値をつけるのでは、と投資家筋ではうわさされていた。長期債価格が低下して長期金利も上昇し、日銀も政策金利を段階的に引き上げている。




 国内が明るいムードに覆われる中、俺とトルシェとアズラン、それにメッシーナの4人は新宿のとある高校のグランドに視察に来ていた。4人とも肩書は大日本育英団顧問だ。俺自身実際は団長なのだが、団長を前面に出してしまうと面倒なので、団長は俺のダミー(じんぞうにんげん)が適当にやっている。


 グランドでは男子生徒たちが持久走の最中だ。トルシェとアズランという超絶美少女が自分たちを見ていると知った男子生徒たちのスピードが上がった。トルシェとアズランほどの超絶美少女ではないが超美人のメッシーナの格好はハデハデ(きじすくなめ)の高速ランニングスタイルだ。


 自衛隊から派遣された教官が俺たちを見つけて駆け足でやって来た。


「ご苦労さまです。育英団本部よりお話は伺っています。

 あと3分ほどで、12分間走が終了しますのでお待ちください」


 しばらく待っていたら、教官が笛を吹き、生徒たちはランニングを止めてそこから歩いて、教官の前に集合した。


「前回から記録が伸びた者は、手を挙げろ!」


「「はい!」」全員が元気に手を挙げた。


「よーし。各人教室に戻ったらいつものように12分間で何メートル走れたか記録しておくように。

 今日は大日本育英団いくえいだんの本部から顧問の方々が視察にお見えだ。

 みんな、挨拶!

 ご苦労様です!」


「「ご苦労様です!」」


 生徒たちに元気いっぱいに挨拶されたら、こっちも嬉しくなってしまった。


「ありがとう。みんな」俺はそう返事を返し、トルシェとアズランは生徒たちに向かって小さく手を振ってやっていた。


 生徒たちから『スマホ持ってればよかった』とか聞こえてきた。今日の俺たちはお忍びモードでスキン未装着なので、メッシーナ以外スマホでは撮れんよ。


 教官が生徒たちに向かって、


「ここにいらっしゃる大日本育英団いくえいだんの顧問の深水ふかみメッシーナさんが、鍛えればこの程度走れるようになることを実地で教えてくださる。

 全員その場に腰を下ろして注目!」


 メッシーナがスタート地点に立った。


「教官、スタートとタイムをお願いします」と、メッシーナ。


「了解しました。

 それでは、位置について、……、よーい!」


 教官は「スタート!」と同時にストップウォッチを押し、メッシーナは勢いよく走りだした。明らかに次元の違う走りに生徒たちは半分口を開けてメッシーナの走りに見とれていた。


「1周目、200メートルのラップタイムは、30秒0」


 ……。


「2週目、400メートルのラップタイムは、59秒6」


 ……。


「9週目、1800メートルのラップタイムは、4分30秒3」


 ……。


「ゴール! 2000メートルのタイムは5分0秒1。

 もしかして、このタイムは女子の世界記録では?」と、教官が俺に聞いてきた。


 メッシーナはゴール後軽く流して走っている。


「女子の2000メートル走の公認記録は5分20秒くらいだから、未公認だが世界記録なんだろうな」と、俺。


 俺の言葉に生徒たちはざわめいた。


「そんな感じだ。なんだってやればできる。みんな頑張れ」


「「はい!」」生徒たちから元気な返事が返ってきた。



 今回の視察兼デモンストレーションを皮切りに、政治のことは涼音たちに任せて俺たちは日本海側の中高を回ることにしている。地元の料理を堪能するための行脚である。




 3カ月かけて日本海側のグルメ旅行を満喫した俺たちは久しぶりに恵比寿の拠点に戻った。


 今では、涼音はすっかり総理の仕事をコピーに任せており、たいていリビングのソファーに座ってテレビを見ている。


 それを知った白鳥麗子も自分にもコピーが欲しいといい出して、結局トルシェが白鳥麗子のコピーも作ってやったので、白鳥麗子も国会の仕事はコピーに任せ奥の方でノートパソコンを覗き込んでいる。


 銀二一人は真面目に官房長官の仕事をこなしている。支持率99パーセントの政権であり、国会議員は全員大日本育英会の議員だし、不祥事など誰一人起こすわけもないので楽なものである。



次話『第109話 終話、世界は女神おれの国のためにある』で完結です。

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