第106話 神の国3
衆議院選挙投票日の翌日。
午前6時には開票が終了した。当の涼音たちはインタビューを受けて気疲れしたのか寝てしまったが、俺たち3人団の3人は、片手に濃い酒の入ったジョッキを手に選挙番組を昨夜からずーっと眺めている。ジョッキが空になると、花子が酒をなみなみ入れた新しいジョッキにすかさず代えてくれるので、飲まないわけにはいかない。という建前で3人とも飲み続けている。
最終投票率99.3パーセント。
今回の選挙の有権者数はほぼ1億。寝た切り老人、入院患者などを除く実質有権者数は9900万。うち『大日本育英会』の獲得票数9930万。寝た切り老人や入院患者の中にも何とかして『大日本育英会』、略称『大日本』に投票した人がいたらしい。俺の祝福で投票所に出かけるくらい元気が出た可能性もある。もちろん比例180全議席を獲得した。
小選挙区も立てた候補は全員トップ当選を果たし、比例180名、小選挙区180名、目論見通り全員当選した。衆議院議員総数三分の二を優に上回る四分の三、実に75パーセント。
三分の二以上の議席数があれば、衆議院で成立した法案を参議院で否決しても衆議院で再可決することで強引に法案を成立させることができる。
同じく三分の二以上の議席数があれば、なにかしでかした議員の除名もできる。まさにやりたい放題だ! 衆議院の本会議で寝ている連中とか委員会で大騒ぎをする連中は議長、委員長権限でつまみ出してやればいい。本会議中なら議場からつまみ出したあと、除名の緊急動議、引きつづき衆議院の懲罰委員会、除名相当の結論を受けて本会議で可決、そしたら晴れて除名だ。
つまみ出されたと思ったらその日のうちに懲罰対象。議会の75パーセントを制する『大日本育英会』の議員から除名動議が出されたとなると、本人及び本人の所属する政党がどうあがこうと除名確定だ。本人にとったら悪夢かもしれないが、痛快だ。
今までは、自党議員が似たようなことをやらかす可能性があったためよほどのことがなければ除名動議などできなかったんだろうが、欠点だらけの他党議員と比べ、わが『大日本育英会』の人造人間議員たちは、24時間365日働き続けることのできる疲れ知らずだし、やじなど飛ばさないデキた人造人間だ。国会外においても問題行動を起こすことは決してない。
国会外においても不埒な行動が公になった衆議院議員にあるまじき輩はバンバン除名してやる。
ここぞとばかりにメディアが除名議員の悪行を暴き立ててやればなお面白い。今となっては、お昼のニュースショウはないのでその手の話題は週刊誌の独壇場だ。棲み分けができてそれはそれでいいんじゃないか。
週が明けて3日目の水曜日。先週までの与党を含め各党が混乱する中、前与党の内閣によって特別国会が召集され、内閣は同時に総辞職した。
まず当然のごとく大日本育英会の副会長白鳥麗子が衆議院議長に選出され、旧与党、現在野党第1党から副議長が選出された。
大日本育英会議員たちの拍手の中、議長席に上った白鳥麗子新衆院議長の議事進行の元、常任委員会の委員長は全て大日本育英会で占められ、引き続き大川涼音が首班指名された。もちろん、白鳥麗子の議長席の机の上には担当者によってつくられた議事進行のあんちょこが置かれていたのは言うまでもない。
参議院では前与党、現野党第1党の党首が首班指名されたが、それを受けて開かれた両院協議会は1分もかからず散開し、涼音の総理大臣就任が確定した。間を置かず涼音は官邸入りし組閣を開始した。
初めて官邸入りした涼音を官邸職員が総出で拍手をもって迎えた。涼音の後ろには俺たち3人と、白鳥麗子、今日はスーツ姿の川口銀二の二人、それに花子が続いている。総理大臣の涼音と衆議院議長の白鳥麗子にはSPが付いており、内閣官房長官予定の銀二にもSPが付いている。そういったこまごましたところは、内閣府内のスケルトン改造人造人間官僚たちが上手く対応してくれている。何気に有能だ。
すでに組閣名簿はトルシェとアズランが鉛筆を舐めてでき上っているので、適当なところで記者を呼んで内閣官房長官予定の銀二が官邸内で発表するだけだ。
俺たち3人が総理官邸にやって来たのは単に興味本位の見学のためだ。俺たち3人と花子は今まで全く表に出ていなかった見た目一般人だが、総理となった涼音が連れてきた建前になっているためフリーパスで官邸の中に入ることができた上、首からかけるようにケースに入ったパスカードまでもらった。内閣府内の局長クラスのだれかが気を利かせたのだろう。
人造人間に案内されて涼音は首相執務室、銀二は官房長官執務室に連れていかれた。花子は涼音についていかせた。
俺たち3人と閣僚になる予定のない白鳥麗子は俺の配下の人造人間に案内されて首相官邸を見学して回り30分ほどで帰っていった。
その日の夕方、首相官邸1階の記者会見室で銀二が組閣名簿を読み上げた。もちろん内閣官房長官の銀二以外の閣僚はスケルトン改造の人造人間で、もとはどこの馬の骨ともわからない悪人だった連中だ。そういった連中も人造人間にとって代わられることでこの世の中、日本の社会に一つだけでも貢献したわけだから日本人として生まれてきたかいがあったわけだ。
翌日には宮中で親任式が行われ日本国憲政史上初の女性しかも若干25歳の総理大臣が正式に誕生した。新閣僚の認証式も親任式に引き続き行われている。
各国首脳、元首からの祝辞が新首相大川涼音の元に届けられたのは言うまでもない。
そして、その2日後、今上陛下の名まえで臨時国会が召集された。会期は長めで90日としている。