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第105話 神の国2


 前祝いを午後7時50分ごろ切り上げた俺たちは、涼音のリビングのソファーに移動してテレビの選挙報道番組を見ることにした。


「やってる、やってる」


 画面にはとある党の選挙本部が映し出されていた。画面の中では誰一人として何も語ることなく、報道関係者を集めた会場は静まり返っている。まさにお通夜状態だった。


 それから数回画面が切り替わり、各政党の選挙本部が順に映し出されたが、雰囲気は全く同じだった。


 午後8時、投票が締め切られ、開票が始まった。速報値ではあるが投票日の投票率は19パーセント以上。期日前投票と合わせると99パーセントを越える投票率となった。


 そして、番組ではそれまでの出口調査などから推定した当落予想の発表が始まった。


『すでに「大日本育英会」全候補者の当選確実が出ております。翌朝まで予定しています選挙番組が実質的に終わってしまいました。

 数日前から予想されていた結果ですが、これほどの票を集めた政党、厳密には国会議員を一名も抱えていない政治団体ですが、そのような政党はわが国の歴史にはありませんでした。おそらく世界でもまれ、いえ、世界でも初めてではないでしょうか?』


 テレビの中のキャスターが興奮して喋っていた。


「当然の結果だが、まずは一安心というところだな」


 午後8時3分あたりから、各党党首から敗北宣言が出された。ある党の代表などは、これはなにかの間違いだ! と、大声を出していたが、番組のキャスターに、


「選挙結果を否定するおつもりですか?」と突っ込まれたら黙り込んでしまった。


 その政党代表も落選確実であり明日からはただの人だ。実際は解散時にタダの人になっていたのだがまさか自分が落選するとは思っていなかったのだろう。気持ちは分からないではないが見苦しい。明日から立派なタダの人として余生を送ってくれ。それでも国会議員だったら国籍は日本人。日本人なら俺の祝福を受けているはずだから、悲惨な余生にはならんと思うぞ。


 テレビを見ていたら、俺達のいるマンションが映し出され、出入り口付近で俺が雇った警備員ともみ合っているメディアの連中が映し出された。テレビに映っていると知ったメディアの連中は急に大人しくなった。


「涼音、なにも言わない訳にはいかないから、下の事務所にいってインタビューを受けてやれ。報道関係者を1クルーだけ通すよう連絡しておく。

 白鳥麗子と銀二も一緒にな」


 俺が警備会社に電話をかけて、警備会社経由で下の警備員に指示が飛ばされた。


 N〇Kのクルーだけがマンションへの立ち入りを許され事務所に通されたようで、テレビを見ていたら、そのうち、うちの事務所が映された。


 事務所内には人造人間の電話番が10人いるだけで、涼音たちはまだ到着していない。すぐに画面が切り替わりキャスターが場を持たせていた。あのままでは放送事故だからな。


 30秒ほどして涼音たちが事務所に到着した。涼音と白鳥麗子の服装は余所行よそいきのスーツだが、銀二は選挙ポスターと同じアロハシャツに短パン、履いているのはショッキングピンクのゴムサンダルだ。


 そこでリポーターの実況中継が始まった。


『大日本育英会の大川涼音会長が事務所に現れました。大川会長の右隣は、白鳥麗子副会長、左隣はえーと?』


 リポーターがなにやら本部と連絡を取ったようだ。


『失礼しました。大日本育英会の川口銀二候補です。詳細は不明ですが比例優先順位3位ですし、大日本育英会での序列が3位ということなのでしょう。

 歴史的大勝利ですがこの事務所はいたって静かです。ポスターなども何も貼られていませんし、候補者名が張り出されているわけでも、当確を示すバラもありません。

 最初からこの選挙結果が見えていたのでしょうか?

 ではさっそく大日本育英会の大川会長にお話を伺ってみます』


『大川会長、おめでとうございます』


『ありがとうございます』


『さっそくですが、この選挙結果、予想されていましたか?』


『もちろんです。期日前投票での出口調査であきらかでしたから』


『一切の選挙運動をなさらなかったとか?』


『いえ、わたし自身ポスター貼りをしていますし、今回の立候補者はおそらく全員ポスター貼りをしていると思います』


『ポスター貼りだけですか?』


『政見放送の録画もしました』


『そ、そうでしたね。それ以外には?』


『何も。ここのオペレーターたちだけは問い合わせの電話の応対をしてました』


 嘘偽りを言っているわけではないが、これではインタビューにならないな。


 ……。


『これまで明確な党の方針など公表されていなかった大日本育英会ですが、第1党となった今、大日本育英会の政策方針がわが国の政策になるわけですから具体的な党の政策方針を伺ってもよろしいでしょうか?』


『はい。

 まずは教育の充実です』


『第1の政策が教育ですか?』


『そうです。国の発展は教育無くしてはあり得ません』


『具体的には?』


『教育の中心に体育を据え、健全な肉体を作ることで健全な精神をはぐくみます。そのための施策として、大日本育英団を組織します。団員は全国の中学1年生から高校3年生までの全員です。団の目的は団員の体を鍛えることです。校内での活動が主になりますが、団員同士の交流も図っていきます。そのための施設を各都道府県に早急に作り上げます。大日本育英団員の鍛錬を行う教官は自衛隊から各校に派遣する予定です』


『そ、それは初耳ですが、実現可能なのでしょうか?』


『おそく大日本育英会は明日の朝までに衆議院の75パーセント近くの議席数を獲得します。どういった法案であれ国会を通すことは可能です』


『力ずくで議案を通すということですか?』


『9割を越える国民の声と思ってください』


 ……。


 こんな具合でインタビューは続いた。涼音も結構やってくれている。その反面白鳥麗子と川口銀二は手持無沙汰だ。涼音へのインタビュー中、たまにアロハシャツ姿の銀二がショッキングピンクのサンダルから頭まで大写しされるのだが何か意味があるのだろうか?



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