第104話 選挙当日
今日は衆議院選挙投票日。
全国的にも梅雨が明け夏空が広がったが、投票は朝から低調だった。そもそも期日前に80パーセントもの有権者が投票を済ませているので当然ではある。最終的な投票率は95パーセントを確実に超えると言われている。
今回の選挙では白鳥麗子の兄、正一郎を引っ張ってこなかったが、白鳥正一郎の市長選の時と同じことが全国レベルで起こっただけだ。
この前代未聞の投票率から、山陰でのとある市長選の再現が国政レベルで引き起こされるのではないかと、とあるニュース番組で正解を言い当てたコメンテーターもいたが、感想を延べただけで二つの繋がりに気づいたわけではない。
12日間の選挙戦最終日の昨日、俺は宇宙空間から日本列島津々浦々まで3回目の祝福を行っている。もはや絶対だ!
開票の始まる午後8時が待ち遠しい。
俺たちは朝方、今回正規の人間として立候補している大川涼音、白鳥麗子、川口銀二を伴って投票所にいき投票を済ませた。マンションから外出するとメディアの連中に見つかるので、投票所の近くにトルシェが例の扉を作りそこから投票所に向かった。
メディアに見つかることなく投票を済ませて拠点に帰ってきたら、開票の始まる午後8時まで何もすることがなくなった。そういうことなので俺たちは拠点で前祝の宴会を始めた。
「今回の選挙で供託金は払ったが全員当選する以上すべて戻ってくる。使った金はポスターの写真代とデザイン代、下の事務所の購入費用と管理料、それに電話代、あとはセキュリティー会社代で済みそうだな。
今回俺たちが使った金から事務所の購入費を引いて当選者数で割ると、国会議員1人が当選するために使った金額の最低記録だと思うぞ」
「大臣や副大臣、政務官なんかは適当に決めちゃっていいですよね?」とトルシェ。
「涼音たち3名を除いてみんな改造人間なんだから、サイコロで決めていいんじゃないか? 必要な知識は後からでもインストールできるんだろ?」
「省庁にはもう何人も人造人間を送っているし、入れ替えた時のデータも取ってあるから、ここに連れてくれば簡単ですよ」
「各省庁の事務次官級は前回の人事異動で3分の2以上が局長から昇格した人造人間だし、その下の局長クラスは全員人造人間だ。
国会の委員会の方も適当に決めていいぞ。
臨時国会をすぐ開いて委員会の数も減らしていこう。委員会は確か国会法の規定だったはずだから、国会法を改正するだけでどんどん数を減らしていけるはずだ」
「憲法違反だとか騒がれたらどうします?」
「来年には参議院の改選がある。そこではまだ半分しか議席をとれないが、その3年後、今から4年後の参議院選で参議院の3分の2というかほとんどの議席をとるから、そこで憲法を改正してしまう。違憲とか言って裁判を起こされようが、4年じゃ判例もない憲法がらみの判断はまず下りない。違憲も何も元の憲法が変わってしまえば、訴え自体が無意味になって自動的に無効になる、はずだ。そもそもその前に最高裁の裁判官も俺の配下になってるだろうからいずれにせよ影響はない」
俺たち3人が気楽に選挙後の話をしていたら、涼音がやや緊張して、
「私、本当に総理大臣に成っちゃうんですよね?」
今更ながらのことを聞いてくる。
「国会での質問事項はあらかじめ知らされていて返答は官僚が作るからそれを読むだけだ。委員会も含めて不謹慎なやつは議長、委員長権限で国会からつまみ出せるよう国会法を改正するからな。
総理大臣より、官房長官のほうが露出が多い分大変だと思うぞ。とはいえ、こっちも官僚に作文させてそれを読むだけだから簡単だ。官僚の作文がちゃんと読めないと恥をかくから漢字にはちゃんとルビを振るよう指示しとけよ。漢字全部な」
「漢字はそうします。だけど高校中退のこの俺が官房長官でいいんですか?」と、少し声を震わせながら銀二が弱気なことを言う。
「もちろんだ」
「えーと、私は何をするんでしたっけ?」と、白鳥麗子。
「白鳥麗子は盛りだくさんだ。まずは衆議院議長。こいつも台本が用意されるはずだから、本会議でそれを順番に読んでればいいだけだ。通常の衆議院議長は名ばかりの名誉職で国会議員とすればアガリのポストなので他の役職につくことはまずないが、わが『大日本育英会』はそういった慣例を踏襲する必要はない。
そういうことだから、白鳥麗子は衆議院議長職に加えて大日本育英会の副会長、幹事長、政調会長、総務会長を追加しておく。それも名ばかりのポストだからなにもすることはないはずだ。
それにあと一つ副総理がつく。大川涼音総理にもしものことがあった場合、通常は官房長官が臨時に総理となるが、副総理職があればそっちのほうが優先順位が高い。涼音にもしものことがあるはずはないので、これも名まえだけだ。
役割的には他党との折衝もあるが、別に他党を相手にする必要などなにもないので無視すればいい」
「じゃあ、本当に何もしなくていいんですか?」
「国会の本会議に出て、議事を進行させとけばいいだけだ。
そういう意味では、一番楽な仕事だな」
「良かった」
そのころ、ダークンたちのいるマンションの下では報道陣が詰めかけて大変なことになっていたのだが、ダークンの契約したセキュリティー会社の面々が必死になってマンションへの侵入を阻止していた。