第100話 瘴気サウナにて
『三人団、神の国』も100話になりました。完結109話まであと10話。最後までよろしくお願いします。
さて、山陰の小都市での小手調べは大成功だった。しかし、今回は広く薄くではあるが有権者に対して俺が直接祝福を送るという力技を使ってしまった。本番の国政選挙ではさすがにこの技は使えないのでテレビを通じた祝福を真面目に考える必要がある。その気になれば自衛隊の飛行機を何とかチャーターして高高度から日本縦断祝福飛行もあり得るがそれは最後の手段だ。
政見放送をするわけでもない俺自身を、いくらテレビ局の経営者が俺の配下の人造人間たちであれ、何の意味もなく俺を映して全国放送するわけにはいかないから、俺がテレビに出る納得のいく理由が必要だ。要は女神さまである俺が有名人となる必要がある。
では、どういった有名人になればいいか?
ズバリ、美を売りとしたタレントだろう。メディアを牛耳っている以上タレントとしての売り出しは確実だ。妙なアンチが湧いたときはテレビ界、メディア界からソイツを追放するだけだ。忘れていたがSNSにも浸透しておく必要があるな。その辺りトルシェとアズランに抜かりはないだろう。
そんな事を考えながら、瘴気サウナの中のマッサージチェアに体を預けて、ぼーとしていたら、トルシェとアズランが入ってきた。
ここのところ、空いた時間はいつもこんな具合だ。瘴気は人をダメにするといういうかこの濃度の瘴気に当たれば10秒も経たずに人なら本当に昇天すると思うが、女神さまとその眷属も十分寛いでへろへろのダメにされている。もしや、これは悪魔の呪いなのでは?
冗談はさておき。
数日前に涼音から聞いた話を二人に振ってみた。
「5月以降世界的に行方不明者の数が激減したというニュースが流れていたそうだ。結構なことだ。少しずつではあるが世界的にも世の中が良くなってきているのだろう」
「わたしたちが、日々この世界のために精を出しているわけですから当然でしょう」と、トルシェ。
「5月以降というと、悪魔の拠点を潰したからかもしれませんね」と、アズラン。
アズランの言葉は確かに信ぴょう性があるな。あの連中、相当な数の人間をかどわかしていたはずだものな。その大元がなくなれば、行方不明者が減るのは当たり前だ。
「しっかし、この前の成都作戦はおいしかったな。これまでの戦利品のうちこの瘴気祭壇は群を抜いてるよな」と、俺はサウナ部屋の真ん中で瘴気を垂れ流している祭壇を顎でさした。
「そうですねー。これほどの一品はあっちの世界にもないでしょう」
「そう考えると、サティアスの世界がなくなってしまったのは惜しかったな。
あいつらの血と汗と涙の結晶なんだろ、この祭壇は」
「サティアスが知らないだけで悪魔の世界はまだあるかもしれないし。いつぞや向うの世界にあったゲートから出てきた変な連中の世界もあるじゃないですか」
「そうだったな。そのうち、あのゲートの先の世界にいって、一丁揉んでやってもいいかもな」
「面白そー」「ウキウキ!」
「ところで、次の国政選挙では、日本全国津々浦々にまで俺のご威光を届かせないといかんのだが、今考えている方法は、俺が俺自身の美しさを前面に出してタレントとして売り出せばどうか? というのと、飛行機に乗って日本列島を高高度から祝福しつつ縦断するという2つなんだがどう思う?」
「日本列島縦断というか、高高度から日本列島全体を視界にとらえることはそれほど難しくないですよ」と、トルシェ。
「俺は、自衛隊のジェット機でも何とかしてチャーターできればといいと思っていたんだが自衛隊のジェット機のチャーターは厳しいだろ? それでトルシェは、どうすればいいと思ってるんだ?」
「ダークンさんは女神さまなんだから少々空気が薄かろうが、寒かろうが平気でしょ?」
「まあ、そうだな。おそらく、宇宙空間でも生きていけるだろうな。
うん? まさか俺をロケットに括り付けて人工衛星にするっていうんじゃないだろうな?」
「当たらずと言えども、遠からず。かな。
いえ、単純に日本上空200キロくらいの高さにこの部屋を繋げて、そこからダークンさんが日本列島に向けて祝福すればいいんですよ。この部屋からでもいいし、入り口の通路からでもいいし。どっちも気密室だから、空気が漏れ出てもいいでしょ?」
「確かに。そう言われればそうだな。俺がわざわざ媚びを売ってビッグタレントになるより確実だし楽だな。
デジタルで撮影されてもいいよういろいろ工夫してきたことが、俺に限って言えば無意味だったか。
となると、後は立候補者の数の確保か。今までは政治家をスケルトン改造人造人間と取り換えてやろうと思っていたが、最初から人造人間でいってもいいな。ただ、国籍がはっきりしていないとマズいから、そこらで戸籍を買ってくるわけにはいかないし、そこらの人間を適当に人造人間に置き換えるのもかわいそうだぞ」
「ダークンさん。世の中には掃いて捨てるほど悪い人間がいるから大丈夫ですよ。ねえ、アズラン?」
「そうだね。
ダークンさん、国会議員の総数700人くらいならすぐに見繕ってこられますよ」
「なら、それでいくか? 次は衆議院選挙として、比例、小選挙区全部候補者を立てて全員当選だ。供託金はそれなりにかかるだろうが、2、30億もあれば足りるだろう。それに選挙が終われば全額戻ってくるわけだから問題ない。
で、次の参議院選で参議院の半分の議席を取る。過半数のために非改選議員のうち目ぼしいやつを人造人間に取り替えれやればやり放題だ」
「そっちの方が、政治家なんかを取り換えるよりよほど簡単だからそうしましょうよ」
「よし決めた。それで行こう。
トルシェは、どんどん人造人間を作ってくれ。
アズランは、取替対象の人員確保だな。クズはクズでも出自だけはしっかりしてるほうがいいぞ」
「「了解!」」
「国会議員全員がスケルトン改造人造人間だと指示を出す俺たちの負担が大きくなりすぎるだろうし、実物もいた方がいいから、涼音と白鳥麗子は確定として、後誰を国会議員にする?」
「白鳥麗子の兄はどうです。市長から鞍替えしてもいいんですよね」
「そうだったな。しかし、それを勘定に入れてもたったの3人。あんまり実弾がないな」
「川口銀二なんかどうです?」
「いいねー。当選自体は簡単だが、大川組はいちおう反社だから足を洗わせないとマズいな。まっ、大川組は涼音の実家だし、そこは何とでもなるだろう。
なんちゃら先生ってのも国会議員になってるらしいから、元893っていうのも悪くない。
更生して立派な社会人になったというストーリーが描けるしな」