第10話 大陸マフィア
ノートパソコンのカチカチ音を聞きながら横になっていたら夜が白んできた。とうとう徹夜でカチカチやっていたことになるが、二人ともいくら徹夜しようが疲れないとはいえ実に熱心なことだ。
俺も仕方ないのでベッドから起き出して、顔を洗ったりして身支度をしておいた。
横になっているあいだ気付かなかったが、知らぬ間にトルシェは真っ裸になってノートパソコンをカチャカチャしていたし、アズランも下着姿でカチャカチャしていた。特にアズランの着ている下着は大人物のそれっぽい下着なのだが、見た目女子中学生のアズランが着ていると、真っ裸の隣の野人よりも妙な色っぽさをを感じてしまう。写真でも撮ってそれなりのところに持っていけばいい小遣い稼ぎになりそうだ。
こうなってくると、この二人はこの部屋に置いたまま俺は別行動で、今日は拠点探しかな。現金ももう少し持っていた方がいいから、銀行でおろしておこう。昨日のうちに1億程度用意させておけばよかったが、今日も一千万程度おろしておけばいいだろう。ついでにトルシェから、もう2、3本金の延べ棒を貰って現金化しておくとするか。結構やることができた。
「トルシェ。悪いが、もう少し資金を増やしてくるから金の延べ棒を、2、3本出してくれるか」
トルシェは一応俺の言葉は聞こえるらしく、何も言わず金の延べ棒をテーブルの上に2本取り出した。これだけで40キロあるので、まかり間違えるとテーブルが壊れてしまう。
「お前たちがこのままノートパソコンで遊んでいるんだったら、俺は金を現金に換えたり、銀行に行って札束をおろしてくるからな。ついでにどこか俺たちの拠点になりそうなところも探してくる」
「行ってらっしゃーい」「気を付けて」
二人ともノートパソコンの画面を見ながら生返事を返した。この二人、大丈夫なのだろうか? 何とかしてパソコンの魅了から解放したいところだがまだその時期ではないかもしれない。
拠点については面倒なのでこのままホテル暮らしもいいかもしれないが、何せここでは狭すぎる。ホテルでは勝手にトルシェの空間拡張を使う訳にもいかないし。
拠点というなら、この日本ではちょっと贅沢かもしれないが、せめて、2、3百平米は欲しい。
土地だけ買って、トルシェに地下基地か何か作ってもらってもいいが、電気や水道、果てはネット回線まで引くとなると業者を入れざるを得ない。そこはよく考えないとな。
ホテルを出た俺は銀行が開くにはまだ時間が早かったので、この時間でも開いていた道端のチェーン店に入って朝食をとることにした。
和食の朝食セットを頼んだら、ご飯に鮭と納豆と玉子焼きと豆腐のみそ汁と味付けノリがついてきた。何だかすごくおいしい。気付けば少し涙が出ていた。ハンカチを持っていなかったので、テーブルの上にあった紙ナプキンで涙を拭いておいた。
長居はできない店なので食べ終わった俺はすぐに店を出たが、店に居た時間は正味20分もない。銀行が開くにはまだ1時間はある。
仕方ないので、散歩のつもりでその界隈を歩き回ることにした。朝なので清掃車が回りながら道端に出されたゴミを回収していく。コロに食べさせれば簡単なのになー。とか思いつつそういった作業を眺めながら歩いていたら、いつの間にか小さな公園に出た。ブランコと小さな滑り台だけ置いてあるような小さな公園だったが、何となく懐かしくてブランコに腰を掛けて、軽く揺らしながらぼんやり考えごとをしながら座っていた。
この世界に帰ってきたのはいいが、これから何をしていくのか何も考えていない。当面は生活の基盤をしっかりするという仕事があるがその先が何もない。一応銀二のいる組織と敵対しているという組織は叩き潰すつもりだが、その後が続かない。何かないか?
相手の組織に上位組織があるかもしれないからそこはその時次第だな。あればラッキー、なければそれまで。
そんなことを考えながらブランコを揺らしていたら、黒いスーツを着た中年男と季節外れの厚手のジャケットを着た小柄な若い男の二人組が公園の中に入ってきた。そして、そのまま俺の前に立ち、中年男が片言の日本語で俺に話しかけてきた。
「オマエガウチノ若イモンニ悪サヲシタ女カ?」
「そういうお前は誰だ?」
「大陸マフィア。名マエクライ聞イタコトガアルダロ?」
どうやらこいつらは銀二が言っていた大陸系のヤクザの臭いがする。ちょうどいい。こいつらはちょうど飛んで火にいるバ〇二人だな。トルシェがいれば小躍りしそうなシチュだ。
「大陸マフィアという一般名詞は理解できるが、大陸マフィアという固有名詞は知らんな。もしかして、名まえだけで俺をビビらせようとでも思っているのか? お前らみたいなチンピラが何人こようがザコはザコ。どうとでもなる。しかもザコがたった二人で俺の前に立つとはお笑いだな」
「ソウカ。イイ女ダカラキズハ付ケナイヨウニシヨウト思ッタガ、骨ノ1、2本ナラソノウチ治ル。オトナシクスルンダナ」
中年男が懐から拳銃を取り出し、安全装置を外し俺の方に向けた。
「頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
「イマサラオソイ」
「まあ、聞いてくれよ。その拳銃で俺を撃つなら、服は狙わないでくれ。今着ている服は、せっかく昨日買ったばかりの服だからな。撃つなら腰のベルトがベストだがお前の腕前がどんなものか知らんから、無難に俺の頭を狙ってくれよ」
「オマエハナニヲ言ッテイル?」
「今言った通りだが。俺に拳銃の弾など効かないが、あいにく衣服はそれほど頑丈じゃないんだ。ほれ、さっさと撃ってみろ」
「ソウマデ言ウナラ、服ノ上カラハヨシテ、オ前ノ手ノヒラヲ撃チ抜イテヤロウ。ソレデ泣キワメクナヨ」
「ああ、手のひらでもいいぞ。ほれ」
中年男に向けて、手の平を開いて突き出してやった。
さすがにそこまで言われれば、引っ込みがつかないだろう。それでもなかなか撃ってこない。こないんならこっちから行くぜ。
『コロ、こいつの持っている拳銃をまず食べてくれ』
腰に巻いたコロベルトから、細い触手が伸びて中年男の持っていた拳銃を一瞬で食べてしまった。
「さっさとしないから、どっかに拳銃が消えたぞ」
中年男は今まで手にしていた拳銃が消えたことでかなり驚いていた。隣りの若い男は状況が飲み込めないのか俺の方をじっと見ている。なんかキモいな。こういった攻撃は地味に堪える。
「さーて」
俺は腰かけていたブランコから立ち上がり、無防備に目の前で立っていた中年男の喉に左手を伸ばしてガシッ! と、のど輪を決め、そのまま差し上げてやった。
ここでジタバタ足をバタつかされると服が汚れていやなんだが、差し揚げたとたん頸動脈に締めが決まったようで、中年男は白目をむいて簡単に気絶してしまった。
気絶したヤツには用は無いので、中年男を投げ捨て、腰の引けた若い男に向かって、
「おい、お前らの事務所みたいなところがあるんだろ? そこへ案内してもらおうか?」
男が黙って後ずさり始め、Uターンして逃げようとしたので、一瞬で間合いを詰めて男の襟首を後ろから掴み吊り上げてやった。後ろ向きだと、足をバタつかせても俺の衣服に被害がないようだ。いいことを知ったぜ。