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女性偉人短編

王妃のお人形

作者: 白百合三咲

「さあ、マリアンヌ今日も可愛くしましょうね。わたくしが貴女を素敵なプリンセスにしてあげるわ。」

 そう言いながら鏡の前でわたくしの髪をとかすのはおしゃれが大好きなお姫様。わたくしの髪にティアラを被せてくれる。

「さあできたわよ。」

そう言ってわたくしを化粧台から棚の上へと移動させる。

「失礼致します。」

ノックと共に侍女が入ってくる。

「マリー・アントワネット様、マリアテレジア陛下がお呼びです。」

「分かったわ。今行くわ。」

マリーはわたくしに行ってくるわと一声かけて部屋を出る。マリーはオーストリアの王家の娘、そしてわたくしの持ち主。わたくしはフランス人形、マリーの一番のお友達。



あの日マリーはわたくしを真っ白なドレスに着替えさせてくれた。マリー自身も純白なウェディングドレスに身に纏っていた。 

「マリアンヌ、わたくし達はこれからフランスに行くのよ。わたくしはフランスの王子様と結婚するの。でもマリアンヌ、どんなに素敵な王子様がいても私の一番のお友達は貴女よ。私達はいつも一緒よ。」


マリーの結婚はオーストリア中が祝福してくれた。わたくし達はライン川を渡りフランスへと向かった。わたくし達はフランス王家の人間になったのです。




フランスに嫁いだマリーはオーストリアにいた頃よりも華やかで美しくなったわ。宮殿の舞踏会の話をわたくしにいつもしてくれた。わたくしを抱き上げ優雅に踊り出す。お部屋で2人だけ舞踏会が始まるのだったわ。

 ある時はプチトリアノンのお茶会で貴婦人達にわたくしのことを紹介してくれたときもあった。わたくし達はいつも一緒だった。だけど幸せは永遠には続かなかったわ。






 貴族達が優雅な暮らしをする一方で平民達の生活は苦しい物になっていた。その日食べるパンすらない者も。国民達は原因がマリーの贅沢だといって集団でわたくし達の済むベルサイユ宮殿へと進軍してきたの。ポリニャック伯爵夫人をはじめとするマリーの傍にいた貴族達は皆マリーを見捨てて隣国へと亡命してしまったわ。

 わたくし達はその後ベルサイユ宮殿を追われパリのテュルリー宮へと移りました。使用人も以前よりも減り、ベルサイユにいた頃のように舞踏会やお茶会はなくマリーは子供達と本を読んだり、刺繍をしながら過ごしていたわ。わたくしのドレスやアクセサリーも特注ではなく、マリーの手作りになっていったわ。慣れない針仕事で手は傷だらけでした。




 あの日は部屋に1人の少女が入ってきたわ。ピンクのワンピースに白のフリルやリボンのついたエプロンの少女が。小間使いのロザリーだったわ。ロザリーはわたくしに上等な靴を履かせてくれた。

「ロザリー何をしてるの?」

マリーが部屋に入ってくる。

「王妃様、この子にと頼まれていた靴を持ってまいりました。」

マリーはわたくしの足元を見る。

「なんて可愛いピンクの靴なの。この子が今にも踊り出しそうだわ。ピンクなんて貴女らしい色ね。」

「ありがとうございます。」

 ロザリーは平民で靴屋の娘。王党派の公爵夫人の侍女をしていたときに公爵夫人とマリー主宰の舞踏会へ。それ以来ロザリーはマリーに仕えてくれてる。

「王妃様、パリで靴屋をしていた母が言ってました。女の子はとびきりお洒落な靴を履く。すると靴が素敵なところへ連れていってくれると。」

「ありがとう。ロザリー。でも貴女は平民でありながらなぜわたくしにここまでしてくれるのかしら?」

 ロザリーは街にいたときは他の民衆と同じくマリーを憎んでいた。だけど公爵夫人に連れられていった舞踏会でマリーが平民である彼女に優しい言葉をかけてくれた。

「どうぞ楽しんでいってくださいね。」と

それだけだったがロザリーは嬉しかった。こんな言葉をかけられる人が民衆を苦しめることをするはずはないと。

「王妃様、私は最後まで王妃様のお傍にいます。」


そのとき革命委員会の男達が部屋に入ってきた。

「マリーアントワネット、貴女を裁判にかけるためコンシュジュリーの牢へと移ってもらいます。」

男達はマリーを部屋から連れていこうとする。ロザリーも庇ったがむなしく2人は男達に連行されてしまった。わたくしは部屋に1人とり残されてしまったわ。




あれからマリーは死刑が確定したと聞いたわ。処刑台へはボロの衣服をドレスのようにつまみ階段を1段1段上がっていったと。最後までフランス王妃としての誇りを失わなかったそうよ。ロザリーは最後までそんなマリーの元を離れることなくお世話をしたと。



 それからわたくしはというと人形の国に戻りましたわ。ロザリーの靴がわたくしを行きたい場所へと連れてきてくれたわ。マリーの衣装やアクセサリーをアレンジしてブティックを始めたわ。マリーはいつもベルサイユ宮殿の貴婦人達の憧れのまとだった。平民には評判はあまり良くなっかったけどロザリーのようにマリーを慕っていた少女も少なくなかったそうよ。

 わたくしはマリーのように自分らしく輝きたいという願いがある女の子達のために今日もお洋服を作っていますわ。それがわたくしを友達と呼んでくれたマリーにできるわたくしの恩返し。


「ごめんください!!」


あら今日もお客様がいらしたわ。


「ごきげんよう。ようこそマリアンヌのお店へ」

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