41.冒険者ギルドの発表
「よーし、集まったな、お前ら、よく聞け!」
壇上では冒険者ギルドのマスター、アーベックさんが声を張り上げている。
あの会議のあと、俺とサイは昼食があるのでいったんログアウトした。
そして、食べ終わったあとにログインしてきたのだが……戻ってきたところをオババたちに捕まり、この騒ぎに巻き込まれている。
壇上にいるのは冒険者ギルドと調合ギルドの両マスター、それから姫様。
脇に控えているのがオババにオジジ、それから俺とサイだ。
正確にいえば、俺たちは天幕の中に入っているので外からは見えないのだが。
{サイちゃん、ここどこ?}
{冒険者ギルド前じゃないよな}
{でもギルドマスターは見えてるし}
{なんで正面じゃなくて横側から見えてるんだ?}
サイは、ギルドマスターたちの許可を取って配信中だ。
と言っても、あまりしゃべれないので、コメントが流れていっているだけだが。
{ここは壇の横手に作られたテントの中だよ}
{へー、なんでそんなところにいるの}
{なにかイベント?}
{イベントといえばイベント}
{そっかー、ちなみにこの騒ぎってなんなの?}
{私たちは知ってるけどギルマスたちの話を聞いてね}
{オッケー}
サイのコメントによって流れも大分緩やかになったようだ。
プレイヤー側からすれば、これもまたイベント、つまりお祭りみたいなものだからな。
俺たちにとってはクエストだったのだが。
「おおよその冒険者どもは集まったな。今日の発表はほかでもない、どうも神代の冒険者を中心に騒ぎになってる【調合】スキルを覚えられるようにしてやろうという話だ」
アーベックさんのセリフに集まった冒険者がざまざまな反応を見せている。
困惑するもの、喜ぶもの、憤慨するもの……最後のはどういう了見なのだろうな?
{プレイヤーの様子を見るのにここって特等席じゃね?}
{だな。起こっている連中はなにに怒ってるんだか}
{NPC風情ガーとかじゃね?}
{マジかよ}
{大抵の生産スキルはそのNPCから習わないと覚えられないのにな}
ふむ、生産スキルってそんな縛りがあったのか。
覚えようと思ったこともないから気付かなかったよ。
「これは神代の冒険者だけじゃない。普通の冒険者にも門戸が開かれることになった。お前ら、祝いどころだぞ」
このセリフには一部の冒険者から大きな喝采が起こった。
あれが住人側で【調合】を覚えたかった冒険者だろう。
「さて、肝心のスキルの覚え方だが……それについては調合ギルドのギルドマスターから説明してもらう」
「私が紹介に預かった調合ギルドのマスターだよ。挨拶は抜きにして覚え方について説明させてもらおうか」
そこから語られるのは先ほどの会議で決まった内容。
調合ギルドに所属する際に入門金を五万リル支払う。
スキルを覚えるための講座は十種類あり、それぞれ受講するには一万リル必要。
各講座の終了時には試験があり、それに合格しないと単位がもらえない。
試験に不合格だった場合、再試験だけを受ける場合は五千リルの受講料になる。
全十個の単位を取得出来れば晴れて【調合】スキルを覚えることができるようになる。
ということだ。
これについては、大勢の冒険者から不満の声が出ていた。
だがそんな声に対して、アーベックさんが一喝する。
「うっせぇな、てめえら! お前らは不死身で不老なんだろうが! だったら、多少の時間を勉強に費やすぐらいのことはしやがれ! そもそも、薬を扱う【調合】なんてまね、基本ができてない連中に任せられるかよ!」
ギルドマスターの一喝を受けてほとんどの冒険者が黙り込んだ。
そもそも、ここに集まったほとんどのプレイヤーはコストを支払ってまで【調合】スキルなんて覚えるつもりはないのだろう。
「おいおい、ギルドマスターさんよ? その理論でいったら東のオジジだったか、あいつから習ってスキルを覚えたプレイヤーはどうなるんだよ?」
演壇に上がり込んでそんなことを言い出すプレイヤーが数人。
なんとなく、柄の悪い連中だな。
「あ、あいつら」
「サイ、知ってるのか?」
{彼氏さんは知らないよね}
{ニーズヘッグって言うクランの連中だ}
{一言で言うと素行の悪い連中が集まったクラン}
{あ、クランっていうはプレイヤーが集まってできた小規模組織ね}
「……という訳なのよ」
「ニーズヘッグねぇ。なんでそんな連中が、こんな場面で出てくるんだ?」
「あいつらは暴れて金をかすめ取りたいだけなのよ。だから住人からもプレイヤーからも嫌われているわ」
「それは……だろうな」
「でも、今回はけんかを売る相手が悪かったでしょうね」
「だよなぁ」
演壇の上ではニーズヘッグとやらの仲間が冒険者を煽るようなまねをしている。
ただ、それに賛同するものはほぼいなく、しらけたムードが漂っていた。
「……それで、お前たちがいいたいことはそれだけか?」
「お? そのとおりだ。あいつ……空色マーチだったか? あれはどうすんだよ?」
「その話は聞いている。東のオジジからは破門になったとな。破門になった以上、スキルは使えてもまともに鍛えることは不可能だろう。自力で努力するか、なんとかして破門を解いてもらうか、それとも調合ギルドの門をたたくか。それは当人が考えることだ」
「俺が聞きたいのはそんなことじゃねーんだよ!」
「俺が答えられるのはこれくらいだ。まだ暴れたりないというなら、こちらにも考えがあるが?」
ああ、これは姫様の出番ということかな?
「へぇ、これでも俺様は累積200を超える冒険者だぜ? それなのに戦うっていうのか?」
「戦いにすらならねぇよ。……姫様、お願いします」
「はーい。では行きますよ」
姫様が袖の中からとりだした小瓶。
その中身が振りまかれると、虹色の粉が宙を舞い、演壇だけではなくその周囲まで広がっていく。
そして、演壇に上がり込んでいたニーズヘッグの連中はひとり残らず倒れ込んでいた。
「……これがファストグロウの姫様の力だ。即死毒を使われなかっただけマシだと思え」
「……ぐ……が……」
「しゃべれもしねえか。おい、こいつらを牢屋の中に放り込んでおけ」
アーベックさんの指示を受け、冒険者ギルドの職員が倒れた男たちを運び出していく。
それが終わったあと、調合ギルドのマスターが締めの言葉を告げた。
「邪魔が入っちまったが、冒険者の受け入れはこれから行う。一日に受け入れられる数は限りがあるからそこは受け入れるんだよ!」
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