40.続・調合ギルド会議
「それにしても、豪華な顔ぶれがそろってやがらあな。滅多に人前に出てこない東のに西の。それに姫様までおいでとは」
「うふふ。ファストグロウが騒がしくなっているのですもの。力を貸すのはやぶさかではないですよ?」
「そいつは頼もしい。……で、この冒険者ふたりはどうしてここに?」
まあ、そうなるよな。
街の重鎮の中に部外者が混じっていればそういう反応になる。
「そいつらは私が連れて来たのさね。というよりも、東のや姫様に集まってもらったのもその冒険者の功績だよ?」
「ほぅ……それはすごいな。それで、お前たちの名は?」
「俺はフィートです」
「サイよ」
俺たちの名前を聞いた途端、アーベックさんの表情が変わった。
「おう、お前さんがフィートか! 西のオババに薬草を届けてくれてるって言う! いや、助かってるぞ、本当に」
「うわっ!?」
急に近づかれて背中をバンバンたたかれた。
正直、かなり痛い。
「サイってのも聞いたことがあるな。数カ月前にファストグロウを襲おうとしてたモンスターに一番槍を決めてた冒険者じゃねーか? あのときは本当に助かったぜ」
「いえいえ、私たちにとっても利のあることだったから。この槍ね、あのときのモンスターの骨からできてるの。大きさの割に軽くてとっても丈夫なのよ」
「ほう……それにしてもブーストスピアとは珍しい武器を使ってるな。使いこなせているならとやかく言わねぇが」
「ご心配なく。そんなことより、そろそろフィートを離して」
「ん? ああ、わりぃ。つい力が入っちまったな」
何度もたたかれたせいで思いっきりむせてしまった。
というか、いまのでHPが減らないっていうのもおかしな話だぞ。
「いやぁ、オババんとこの薬は効果が高いんだが、材料に精霊の森産の薬草を使うだろ? おかげで流通が滞ってて大変だったんだよ」
「それなら薬草採取の依頼を出せばいいんじゃない?」
サイが根本的な解決法を提示するが、アーベックさんは首を振る。
「それがそんな簡単にいかねぇ。神代の冒険者には問題ねぇんだろうが、あそこの森の瘴気は俺たちには毒だ。さらに、あそこのカラスどもも厄介でな。薬草を採ろうと下を向いてる人間を優先的に狙う性質があるから危険なんだよ」
「なるほどねぇ。私は襲ってきてもすぐさま返り討ちにしてるけど……フィートは?」
「周囲のカラスを全部撃ち落としてから採取をしてる。……それにしても、だからあんなに買い取り価格が高かったのか」
俺たちの会話を聞いて呆れたように会話に参加してくるのはオババだ。
「あんたたちね、薬草が高いには高いなりの理由があるんだよ。神代の冒険者には関係ないとはいえ、こっちの連中から買おうと思えば精霊の森外周に生えてる質の悪い薬草で我慢するしかないんだからさ。それでも薬は作れるが、絶対量が少ないからクシュリナとふたりで作って店売りする分しかなかったのさね」
「そこにお前が薬草を持ち込んでくれるようになって、一般にも流通するようになったわけだ。……もちろんオババの薬は効果が強すぎるが、その分致命傷でも息があれば治せる可能性がある。旅のお守りとして持ち歩く商人や冒険者が増えたってわけだ」
なるほど。
俺たちでもかなりの回復量なんだから、住人からすれば文字通り命を繋ぐ薬か。
そんな薬が流通し始めるなんてすごい話だ。
「……つーわけで、冒険者ギルドとしてもお前さんには感謝している。報奨金は渡せないが、多少のギルドランクくらいだったら融通を利かせてやれる。今度冒険者ギルドまで来いよ」
冒険者ギルドか……。
最近は換金にすら行ってないな。
「わかりました。アイテムの換金もありますので近いうちに」
「おう。職員には話を通してあるから、名乗ってくれればそれでいい」
余談ではあるが、このゲームのプレイヤーは全員がドッグタグのようなものを持っている。
これが冒険者ギルドのギルド証となっており、ここにいままでの討伐成績やクエストのクリア状況、賞罰などが記録されているらしいのだ。
らしい、というのはプレイヤー側からそれを確認する手段はなく、ゲームのシステム的なものとして扱われているためである。
「……冒険者の、話は終わったかい?」
「おお、わりぃ。つい話し込んじまった」
「かまわないよ。それじゃ、あんたも席に着いてくれ。……では、先ほどまでに決まった内容のおさらいだ、冒険者のもよく聞くんだよ?」
「大丈夫だ。俺が聞かなくても、リャナフがきちんと覚えてる」
「……あなたの仕事なんですから、自力で覚えてくださいギルドマスター」
リャナフというのは先ほどからアーベックさんの後ろに控えている人物の名前のようだ。
この人、大分苦労してそうだな……。
冒険者ギルド組に聞かせるための再確認が終了し、いったん休憩となる。
休憩時間中も俺たち以外はいろいろと話し合っており忙しそうだ。
「うーん、なんだか大事に巻き込まれちゃったね」
間延びした声でこっそりとサイがつぶやく。
「まあ、仕方がないだろ。ファストグロウを放置するのも気が引けるし」
「だね。それにしても、この騒動の引き金になったプレイヤー、大丈夫かな?」
「大丈夫、とは?」
「どうも掲示板でかなり強気の発言をしていたみたいなんだよね。それが、開始数分でダメになって、結局誰も【調合】スキルを覚えられてないみたい」
「……そうなのか?」
「そのようだよ。で、あの騒ぎはほかに【調合】スキルを覚えられる方法がないか探しているのと、その発端である……空色マーチだったかな? その人を探しているみたい」
なるほど、あれだけの人間に追い回されているんじゃ大変だろうな。
……あれ、でも?
「ログアウトすればいいんじゃないか?」
「うん、そうすればいいんだけどね。本人、こんな騒ぎになっていると思っていなかったみたいで、さっき再ログインしたみたいなのよ」
「……俺たちが言うのもなんだが、昼間からログインできるって大丈夫なのか?」
「さあ? 私たちみたいに学校を卒業した人かもだし、そこまで知らないよ。で、ログインしたところを見つかって、騒ぎが大きくなったのが二時間ほど前だって」
「……破門された人間を追い回したところでなんとかなるわけじゃなかろうにな」
「だよねぇ。でも、オンラインゲームって暇な人が多いから」
肩をすくめながらやれやれと首を振るサイ。
俺もそれには同感だな。
「……そっちの話は終わったかい?」
「ああ、すみません。俺たち待ちでしたか?」
「待ちってわけでもないけどね。面白い話をしてたからさ」
「この騒動の原因は本当に儂じゃったか」
「しかし、そうなると調合ギルドのことだけで収まるものかね?」
「収まりますよ。それでも収まらないなら、私がなんとかしますから」
「姫様が力を貸してくれるなら話は早い。さて、残りの部分を詰めるとすっか」
休憩が明けて再度会議が行われる。
今度はどうやって冒険者に周知が行われるかだが……その点は便利な道具があるらしいので問題ないそうだ。
最後に、それでも納得しない冒険者がいた場合、さっき宣言したとおりに姫様が薬で抑えるということになって終了。
なお、薬でおとなしくした冒険者は冒険者ギルドで引き取るそうな。
「さて、これで会議は終了だよ。なにか質問があるかい?」
「はい、ひとつ質問が」
調合ギルドマスターの確認に手を上げたのはサイ。
ギルドマスターに促されて質問をする。
「姫様がおとなしくするって具体的にどうするんですか? まさか戦って押さえ込むとか……?」
「そんなことはしませんよ。私の得意なことでなんとかするんです」
「具体的にはしびれ薬を使うのさね。それも、姫様が狙った相手にしか効かないやつをさ」
「うむ、姫様はそれができるからこそ敬われているのじゃ」
「敵に回すとおっかねぇけどな」
「わかりました。神代の冒険者の中には毒に強い人もいますから気をつけてくださいね」
「ご心配ありがとうですよ。でも、そんなヤワな薬じゃないので」
……だんだん心配になってきた。
できれば、その薬が使われないことを祈るばかりである。
「ほかに質問はあるかい? なければ解散だ。冒険者の、準備を頼むよ」
「応よ。調合のババアも抜かりなくな」
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