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お父さんの謎の人脈
清水義孝 様
拝啓
長かった梅雨がようやく過ぎたかと思えば、世間はすっかり夏ですね。暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。こちらは変わらずです。お父さんもお母さんも、病気や怪我なく過ごしております。畑のほうも心配いりません。梅雨に雨が沢山降ったお陰で、我が家の夏野菜は今年も元気に成長しています。そろそろ収穫の時期ですが、お父さんと二人では今年も骨が折れそうです。
さて、義孝が急に東京へ飛び出してからもう三年目になります。物書きになると息巻いていましたが、そちらの調子はどうですか? 何か仕事はもらえましたか? ちゃんと食べていますか? お前は昔から何かに熱中すると回りが見えなくなるから、一日中家に引きこもって文机に齧りついているんじゃないかと心配です。たまには外の空気を吸って、人と交流を持ちなさい。都会なら、そういった機会も多いでしょう。
それと、もし仕事の当てが見つからないなら、同封の連絡先の人に当たってみてください。お父さんの知り合いの人で、もう話を通してくれています。もちろん仕事ですから、お前を使ってくれるかどうかはお前の力次第です。それでも、もしお金に困っているなら連絡を入れてみてください。
一人息子のお前がいなくなって、我が家は随分静かになりました。昔はそうは思わなかったのに、お父さんと二人で暮らすには我が家は広すぎます。義孝、たまには帰っておいで。それか、一通くらいは連絡をください。お父さんもお母さんも、お前のことが心配でなりません。
義孝、お母さんたちを安心させておくれ。
秋になったらまた連絡します。それまでに、お前から良い連絡をもらえることを祈っています。
敬具
清水奈津子