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 天使と出会ってから、もう一年になる。


 不規則に揺れる電車の二人席。窓際に座り、外の景色へ目を向ける。晴天の下に見えるのは、どこまでも広がる田畑と、その奥に連なる山々。瞬く間に過ぎ去っていく夏の景色は、ここではない、あの日の思い出を呼び起こす。

 とても大切な、二人だけの記憶。

 東京の郊外にある深い深い山の奥。そこで僕は、天使と出会った。

 今更になって振り返れば、天使なんて呼び名は大仰だったのかもしれない。人当たりの良さ、端正な顔立ち、朗らかな表情。きっと僕は、初めて会った彼女に自分の理想を押し付けていただけなんだ。けれど、あの人と言葉を重ねた今なら、それは間違いだと知っている。穏やかで温和で、全てを受け入れてくれそうな包容力を装っておきながら、服を捲くってみればお腹は意外にも黒かった。表ではいい顔を見せて、裏でいろいろ悪いことを企むような人だった。僕もこれまで何度おちょくられたか知ったものではない。今の彼女へ抱く印象は、思い浮かべる天使像とは程遠い。

 とどのつまり、僕が天使だと信じた人は、僕にとっての天使ではなかった。

 そんな彼女と過ごした土地から、電車に乗って離れていく。

 あっという間の一年だった。その間、彼女とは幾度となく言葉を交わし、沢山の思い出を作った。その内、彼女は僕にとっての特別になった。きっと彼女も同じだろう。

 積み上げた思い出を一つひとつ仕舞っていく内に、手帳の数も三冊になってしまった。これを読み返すことを思うと、あまりの文量に億劫になる。それでも大切な思い出だ。しっかり、持って帰ろう。

 車内に乗客は片手で数えられるほどしか居ない。静かな空気を、無機質な駆動音が震わせる。

 三年越しの懐かしい風景。それを横目に流しつつ、鞄から一冊の手帳を取り出す。大きく『1』と書かれたそれには、僕らの思い出の始まりが仕舞われている。表紙を捲れば、あの日の光景が今でも鮮明に思い出される。

 僕ら二人で紡いだ記憶。その始まりは、彼女と出会う一週間前に遡る。

 誰かに対し"こうあってほしい"と願うのは人の常でしょう。だから人は勝手に期待をして、勝手に失望する。

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