表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/56

リース姫と2人きりで話すだけの簡単なティータイム

 3階に建ての白い屋敷が、木々と黒い鉄柵で囲まれている。


 「これが王族の屋敷か」


 ラスタード魔法学園には寮があり、学生1人につき1部屋が貸し出されている。


 しかし、王族ともなると、セキュリティやその他諸々の事情で、専用の屋敷が用意されており、そこで生活しているようだ。


 だが、この屋敷はリースのために作られわけではなく、元々ここにあったものだ。


 王族はラスタード魔法学園への入学が無条件で許されており、現在の王も含め、多くの王族がこの学園の出身だ。


 まれに他の魔法学校へ行く王族もいる。リース姫のいとこにあたるゼルマルド王子がそうだ。


「お待ちしておりました」


 門の前にニコと呼ばれていた生徒がメイド服を着て立っていた。


「どうも」


 まさか、メイドだったとは。


「リース様がお待ちです。こちらへ」


 ニコに連れられて、敷地内へ入る。建物の中でを通り、中庭へ。そこには紅茶を嗜むリースの姿があった。


「リース様。お客様です」


 リースはオレに気づくと、カップを置き立ち上がる。


「ローランド。来てくれたのですね。さあ、こちらに座ってください」


 言われた通り、空いていた椅子に座る。


「紅茶はお好きですか?」


「いや、あまり飲まないな」


 あまりというより、ほとんど飲んだことがない。


「ニコ、他に何か飲み物は?」


「他にはコーヒーくらいしかございませんが。そうしますと、リース様がお飲みになれないかと」


「すみません。私はコーヒーが苦手で」


「いや、別に気にしなくても。それなら紅茶で構わない」


「すみません」


「そういえば、先日使節団の方から頂いた緑茶ならございますが」


「緑茶があるのか?」


 この国ではお茶といえば紅茶なので、そうそうお目にかかれる物ではないのだがな。


「お好きですか?」


「ああ、それを頼む」


「では緑茶をお願いします。ニコ」


「かしこまりました」


 献上品ともなれば、いい品に違いない。楽しみだ。


 ニコがその場を去る。


「昨日は急にいなくなってしまい、申し訳ありませんでした」


「いや、なんかこっちも悪いことをしてしまったみたいだし」


「いえ、一方的に感情を押し付けてしまったのは私です。ローランドに非はありません」


「あ、ああ」


 何と言っていいのか。


「お茶とお菓子をお持ちしました」


 ちょうどいいタイミングでニコが緑茶を持ってくる。


「ありがとうございます」


 派手派手しい模様が描かれた陶磁器のカップに緑茶が注がれる。少し違和感を覚える組み合わせだ。


「こちらはショートケーキです」


 装飾の施された皿と金ぴかのフォーク、ショートケーキは金箔が乗っていること以外は普通だ。


「それでは失礼します」


「ニコ、あなたも一緒にいかがかしら?」


「仕事中ですので」


「ニコは頑張り屋さんですね」


「何かあればお申し付けください」


 ニコは再びこの場を去る。


「それではいただきましょうか」


「そうだな」


 まずはショートケーキを口に運ぶ。 


 うん、普通のと味の違いがよくわからないがおいしい。


 続いて緑茶をいただく。


 香りからして安物とは違うことがわかる。苦味が少なく、とてもおいしい。


 茶葉のよさだけではなく、淹れ方もうまいのだろう。さすがは王室直属のメイドだ。


 ショートケーキとの組み合わせは意外と悪くない。


「お味はどうですか?」


「うん、とてもおいしい」


「それはよかったです……そういえば、ローランドはどちらのご出身ですか?」


 初対面であれば必ずといってもいいほど聞かれるこの質問。オレにとっては少し、いや、かなり答えに困る。


「ああ、一応……ゲートポートの出身だ」


 こういう質問をされたら、ゲートポートと答えるようにしている。


「ゲートポートと言えば。やっぱり海ですよね。一度あのきれいな海で泳いでみたいです」


 大抵の人間は海か白い建物が浮かべるよな。


「オレも泳いだことはないな」


「え? そうなんですか。それはもったいないですよ」


「あれだ、隣の芝は青いってやつ」


 芝ではなく海だが。


「では、ローランドの考える、セント・リメリアの青い芝とは何ですか?」


 また答えに詰まる質問だな。王都に来てから数日しか経っていないからなんとも言えない。


「うーん、そうだな……」


 少しの間考える。


「城」


「――全然よくないです!」


 そう即答される。


「いいじゃないか。綺麗だし、でっかいし。ああいう権力を全面に誇示するような建物はゲートポートにはないな」


 そういう巨大で豪華な建物はロマンがあって好きだ。


「中々お城の外に出してもらえないですし。あと、高いので、地上に降りるのとか大変ですよ。」


「ははっ、地上に降りるって、神か何かか?」


 その表現がツボにハマる。


「本当にそう思っている人たちもいて大変ですよ。私は正真正銘の人間です」


「オレは神とかそういう類のものを信じていないが、リースが地上に舞い降りた天使だと聞かされても、疑問は抱かないだろうな」


「もう、からかわないでくださいよ」


 リースは頬を赤らめる。


「ともかく、オレはセント・リメリアのベージュ色の街並みが好きだな」


「私はゲートポートの白い街並みのほうが、歴史を感じられていいと思います」


「やっぱりセント・リメリアだろ」


「いいえ、ゲートポートです」


 そんな感じで話が続いた。







 * * *







「日も沈んできたし、今日はこの辺でおいとまさせてもらうよ」


 オレはそう言って席を立つ。


「そうですか。では玄関までお送りします」


 リースも立ち上がる。


「悪いな」


「いえいえ」


 リースはオレの横を歩く。


「今日1日、クラスの様子を見てローランドはどう思いましたか」


 少しの沈黙の後に、リースがそう切り出す。


「そうだな、もうちょっと活気があってもいいと思ったが」


「私も、クラス全体に硬い印象を受けました」


 初日だからそんなものだろうとも思うが。


「私、クラスのみんなと仲良くなりたいですし、他のみんなもきっとそう思っていると思います」


「まあ、わざわざ一匹狼になろうとする奴はいないだろう」


「クラスのみんなが仲良くなるためにはどうしたらいいでしょう?」


 オレは友人関係が多いほうではない。


 それに人と打ち解けるのも苦手だ。


 いい手が思い浮かばない。


「うーん」


 だが、リースとは少し打ち解けられたと思う。


「いっそみんなでお茶会をしたらどうだろう?」


「なるほど。それ、いいアイデアですね」


「そうか?」


 適当に言ったつもりなのだが。


「場所はどうしましょう」


「そうだな」


 この屋敷で30人は、ちょっと無理かもな。


「そういえば、今日の昼学食に行ったんだが、5時からパーティーのため貸し切りとなっていたな」


「そうなんですか?」


「金があれば、オレ達でも使えるかもな」


「検討してみましょう」


「大丈夫か?」


 30人分ともなれば相当な額だ。


「私にまかせてください」


「そうか」


 まあ、王族ならばどうとでもなるか。


「はい、期待していてください」


「それじゃあ、これで失礼する」


「はい、また来てくださいね」


「ああ、もちろん」


 是非ともまたお茶したいものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ