リース姫と2人きりで話すだけの簡単なティータイム
3階に建ての白い屋敷が、木々と黒い鉄柵で囲まれている。
「これが王族の屋敷か」
ラスタード魔法学園には寮があり、学生1人につき1部屋が貸し出されている。
しかし、王族ともなると、セキュリティやその他諸々の事情で、専用の屋敷が用意されており、そこで生活しているようだ。
だが、この屋敷はリースのために作られわけではなく、元々ここにあったものだ。
王族はラスタード魔法学園への入学が無条件で許されており、現在の王も含め、多くの王族がこの学園の出身だ。
まれに他の魔法学校へ行く王族もいる。リース姫のいとこにあたるゼルマルド王子がそうだ。
「お待ちしておりました」
門の前にニコと呼ばれていた生徒がメイド服を着て立っていた。
「どうも」
まさか、メイドだったとは。
「リース様がお待ちです。こちらへ」
ニコに連れられて、敷地内へ入る。建物の中でを通り、中庭へ。そこには紅茶を嗜むリースの姿があった。
「リース様。お客様です」
リースはオレに気づくと、カップを置き立ち上がる。
「ローランド。来てくれたのですね。さあ、こちらに座ってください」
言われた通り、空いていた椅子に座る。
「紅茶はお好きですか?」
「いや、あまり飲まないな」
あまりというより、ほとんど飲んだことがない。
「ニコ、他に何か飲み物は?」
「他にはコーヒーくらいしかございませんが。そうしますと、リース様がお飲みになれないかと」
「すみません。私はコーヒーが苦手で」
「いや、別に気にしなくても。それなら紅茶で構わない」
「すみません」
「そういえば、先日使節団の方から頂いた緑茶ならございますが」
「緑茶があるのか?」
この国ではお茶といえば紅茶なので、そうそうお目にかかれる物ではないのだがな。
「お好きですか?」
「ああ、それを頼む」
「では緑茶をお願いします。ニコ」
「かしこまりました」
献上品ともなれば、いい品に違いない。楽しみだ。
ニコがその場を去る。
「昨日は急にいなくなってしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、なんかこっちも悪いことをしてしまったみたいだし」
「いえ、一方的に感情を押し付けてしまったのは私です。ローランドに非はありません」
「あ、ああ」
何と言っていいのか。
「お茶とお菓子をお持ちしました」
ちょうどいいタイミングでニコが緑茶を持ってくる。
「ありがとうございます」
派手派手しい模様が描かれた陶磁器のカップに緑茶が注がれる。少し違和感を覚える組み合わせだ。
「こちらはショートケーキです」
装飾の施された皿と金ぴかのフォーク、ショートケーキは金箔が乗っていること以外は普通だ。
「それでは失礼します」
「ニコ、あなたも一緒にいかがかしら?」
「仕事中ですので」
「ニコは頑張り屋さんですね」
「何かあればお申し付けください」
ニコは再びこの場を去る。
「それではいただきましょうか」
「そうだな」
まずはショートケーキを口に運ぶ。
うん、普通のと味の違いがよくわからないがおいしい。
続いて緑茶をいただく。
香りからして安物とは違うことがわかる。苦味が少なく、とてもおいしい。
茶葉のよさだけではなく、淹れ方もうまいのだろう。さすがは王室直属のメイドだ。
ショートケーキとの組み合わせは意外と悪くない。
「お味はどうですか?」
「うん、とてもおいしい」
「それはよかったです……そういえば、ローランドはどちらのご出身ですか?」
初対面であれば必ずといってもいいほど聞かれるこの質問。オレにとっては少し、いや、かなり答えに困る。
「ああ、一応……ゲートポートの出身だ」
こういう質問をされたら、ゲートポートと答えるようにしている。
「ゲートポートと言えば。やっぱり海ですよね。一度あのきれいな海で泳いでみたいです」
大抵の人間は海か白い建物が浮かべるよな。
「オレも泳いだことはないな」
「え? そうなんですか。それはもったいないですよ」
「あれだ、隣の芝は青いってやつ」
芝ではなく海だが。
「では、ローランドの考える、セント・リメリアの青い芝とは何ですか?」
また答えに詰まる質問だな。王都に来てから数日しか経っていないからなんとも言えない。
「うーん、そうだな……」
少しの間考える。
「城」
「――全然よくないです!」
そう即答される。
「いいじゃないか。綺麗だし、でっかいし。ああいう権力を全面に誇示するような建物はゲートポートにはないな」
そういう巨大で豪華な建物はロマンがあって好きだ。
「中々お城の外に出してもらえないですし。あと、高いので、地上に降りるのとか大変ですよ。」
「ははっ、地上に降りるって、神か何かか?」
その表現がツボにハマる。
「本当にそう思っている人たちもいて大変ですよ。私は正真正銘の人間です」
「オレは神とかそういう類のものを信じていないが、リースが地上に舞い降りた天使だと聞かされても、疑問は抱かないだろうな」
「もう、からかわないでくださいよ」
リースは頬を赤らめる。
「ともかく、オレはセント・リメリアのベージュ色の街並みが好きだな」
「私はゲートポートの白い街並みのほうが、歴史を感じられていいと思います」
「やっぱりセント・リメリアだろ」
「いいえ、ゲートポートです」
そんな感じで話が続いた。
* * *
「日も沈んできたし、今日はこの辺でおいとまさせてもらうよ」
オレはそう言って席を立つ。
「そうですか。では玄関までお送りします」
リースも立ち上がる。
「悪いな」
「いえいえ」
リースはオレの横を歩く。
「今日1日、クラスの様子を見てローランドはどう思いましたか」
少しの沈黙の後に、リースがそう切り出す。
「そうだな、もうちょっと活気があってもいいと思ったが」
「私も、クラス全体に硬い印象を受けました」
初日だからそんなものだろうとも思うが。
「私、クラスのみんなと仲良くなりたいですし、他のみんなもきっとそう思っていると思います」
「まあ、わざわざ一匹狼になろうとする奴はいないだろう」
「クラスのみんなが仲良くなるためにはどうしたらいいでしょう?」
オレは友人関係が多いほうではない。
それに人と打ち解けるのも苦手だ。
いい手が思い浮かばない。
「うーん」
だが、リースとは少し打ち解けられたと思う。
「いっそみんなでお茶会をしたらどうだろう?」
「なるほど。それ、いいアイデアですね」
「そうか?」
適当に言ったつもりなのだが。
「場所はどうしましょう」
「そうだな」
この屋敷で30人は、ちょっと無理かもな。
「そういえば、今日の昼学食に行ったんだが、5時からパーティーのため貸し切りとなっていたな」
「そうなんですか?」
「金があれば、オレ達でも使えるかもな」
「検討してみましょう」
「大丈夫か?」
30人分ともなれば相当な額だ。
「私にまかせてください」
「そうか」
まあ、王族ならばどうとでもなるか。
「はい、期待していてください」
「それじゃあ、これで失礼する」
「はい、また来てくださいね」
「ああ、もちろん」
是非ともまたお茶したいものだ。