魔法の基礎を学ぶだけの簡単な授業
目が覚め、時計を確認すると、授業開始10分前になっていた。急いで部屋を飛び出し、教室へダッシュした。
チャイムと同時に教室へ。ギリギリ間に合ったようだ。
「おはようございます。ローランド」
リースの笑顔が眩しい。普通のリースに戻ったようだ。
「ああ、なんとか間に合ったよ」
「それじゃあ、最初授業を始めるぞー」
オーリエ先生が授業を行うようだ。
「1時間目は魔法技術だ。今日は初回だから、基礎の基礎から復習していくぞ」
えーという声が何人かから聞こえる。生徒たちは基礎なんかどうでもいいから、高度な魔法を教えて欲しいと思っているようだ。
「んじゃ、遅刻しそうだったローランドに聞こう」
早速当てられてしまった。
「魔法には全部で7つ属性がある。それを全部答えてくれ」
5歳児でも分かるような問題をわざわざ魔法学校で出すなという声は心の中にしまっておこう。
「無属性を省くなら、火、水、雷、土、草、光、闇の7つ。ですよね?」
「正解だ。使える属性は人それぞれ異なり、得意な属性は生まれつき決まっている。大抵の人間は火、水、雷、土、草のどれか1つを得意としている」
今のオレは、大抵に含まれていないな。
「では複数の属性が使える人がいるのはなぜですか?」
1人の生徒が質問をする。
「得意ではない属性でも微弱ながら使うことができる。だから、猛特訓すれば、得意でない属性も扱うことができる。」
「そうなんですね」
「まあ、まれに複数の属性を得意としている奴もいるけどな。そういう奴は、まあ、才能だ」
7属性全部使える人がいるなら見てみたいな。
「じゃあここからは、お前たちの魔法を見せてもらうとしよう」
「フ、僕の出番のようだね」
エリックが立ち上がる。
「僕が最高の雷魔法を見せてあげるよ」
「それじゃあ、頼む」
エリックは杖を取り、構える。
「ミニ・ライデン」
杖の先で電気がバチバチと弾ける。
「ここでバートリー家の力を開放すると危険だから、手加減してやったぞ」
「さすがはエリックだな。エリックに拍手」
まばらな拍手が起こるが、エリックはすまし顔で着席する。
「雷属性はライデンと詠唱すると使える。さっき言ったように、適正を持っている必要はあるがな。じゃあ、次は土属性が使えるやつ、誰かいないか?」
手を挙げた生徒が1人いた。
「えーと、名前は?」
「レオンです」
「レオンか。じゃあ魔法を見せてくれ」
「はい」
レオンは杖を前方に向ける。
「ジオ」
とがった飛礫が黒板に突き刺さる。
「あ、すっ、すみません」
レオンが頭を下げる。
「いや先生が悪かった。気にするな。座っていいぞ」
「はい」
「土属性の詠唱文はジオだ。出現する物質は先天的な能力や環境により異なる。中には複数の任意の物質を自由自在に操れる奴もいるらしい。
金やダイヤモンドが作れるなら大金持ちだろうな。
「次、草属性を使えるやつ、いないか?」
「僕でよければ」
「名前を教えてくれるか?」
「はい。ジュロードスと申します」
「ジュロードス、お前の魔法を見せてくれ」
「はい、よろこんで」
ジュロードスは杖を上に向ける。
「ユグド」
四つ葉のクローバーが杖先に芽吹く。
「四つ葉のクローバーを出せるなんてすごいな。俺も昔探し回ったんだがな」
「いえいえ、これくらい何てことないですよ」
「ありがとう、ジュロードス。座ってくれ」
「はい」
ジュロードスに拍手が送られる。
「草属性の詠唱文はユグド。土属性と同じく、出現させることのできる植物は個人により異なり、決まっている」
クローバーをどう戦闘に活かすのだろうか。戦っているところを見てみたい。
「こんな感じで、火属性はフレイオ、水属性はアクアと詠唱すればいい」
「先生の得意な属性は何ですか?」
「ああ、俺は武器専門でな、魔法はあまり得意じゃないんだ」
「そうなんですね」
だが、先生はきっと何かしらの属性に適正は持っているはずだ。
「これで基本の5属性は終わったな。これらの属性は相性がある。水属性なら、火属性に強いが、雷属性に弱いといったようにな」
まあ、この辺は魔法学校に行くような人なら知ってて当然の知識だな。
「次は光属性と闇属性についての話をしよう。光属性を使える人、と聞くまでもなく、適任者がいるようだな」
先生がそう言うと、教室の人間の視線が一点に集まる。
もちろんオレ、ではなくリースだ。
「えーと……私でよろしければ」
無言の指名に戸惑うリース。
「是非頼むよ」
「分かりました」
リースは席を立つ。
「召喚、三日月の長杖・レプリカ」
召喚されたのは、国宝級の武器……の複製のようだ。色々と大人の事情がありそうだ。
「ハモーレ」
リースが光魔法を唱えると、杖の先から光が溢れ出す。強い光だが、不思議と眩しさを感じない、温かい光だ。
「どうでしょう?」
「素晴らしい。さすがはリメリア王家の血を引いているだけあるな」
教室中から拍手が送られる。それは決して、彼女が王女であるからではない。洗練された確かな魔力に対してのものであることは明白だ。
だが、王家の名の恥じぬ力を持っていることも確かだ。今のところは、オレが思っていたより凄い人間だな。
「あ、はい……ありがとうございます」
心なしか、リースの表情が曇っているように見える。
「リース、光属性の特徴について答えられるか?」
「はい。光属性は先ほどの5属性とは特性がやや違います。光属性と闇属性は互いに弱点同士です。さらに、光属性と闇属性はどちらか一方の属性しか使うことができません」
「……うん。よく勉強している。教科書的には丸だな」
教科書的には……か。オーリエ先生はおそらくアレを知ってるんだな。
「付け加えるのならば、光属性は適正を必要としない。魔法が使えるものならば、誰にでも扱える可能性がある」
まあそれは闇属性も同じだけどな、という指摘は心の中にとどめておこう。
「よし、これで見せられる属性は全てだな」
さすがにこの場で闇属性は見せられないか。
「もしこの中に闇属性に興味があって手をだそうとしている馬鹿がいたら、悪いことは言わないからやめておけ。この国じゃ死刑もあり得るからな」
興味本位で闇属性の魔術書に手を出す奴がいるらしいな。
「ちょっと早いが、これで授業はお終いだ。んじゃ、学生生活エンジョイしろよ」
そう言ってオーリエ先生は教室を出て行った。
* * *
そんな感じで授業が行われ、時間は過ぎていき、放課後となった。
「ローランド、ちょっといいですか?」
席を立とうとすると、リースに話しかけられた。
「どうした?」
「この後お時間ありますか? もしよろしければ、一緒にお茶でもいかがでしょうか?」
リースからのお誘いに断る理由はないな。
「ああ、是非とも。お茶は大好物なんだ」
「まあそうでしたか。美味しいお菓子も一緒に用意しておきますね。ニコ、どのくらいで準備できますか?」
リースは斜め前の席の女子生徒に話しかけた。
「30分あれば用意できます」
「わかりました。という訳で、30分ほどお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「その間図書館で適当に暇つぶししてるから問題ない」
「はい、ではお待ちしていますね」
そしてリースはさっきの女子生徒と共に教室を出て行った。