昔の記憶を呼び起こすだけの簡単な夢
気が付くと花が咲き誇る庭園にぼくはいた。
そこには、金髪の女の子が立っていた。
「おいで」
その子ニコッと微笑みながらはぼくに手を差し伸べる。ぼくが近づくと、その子はフフッと笑いながらぼくの頭を撫でてくる。
年下の女の子に子供扱いされて、あまりいい気分ではない。
「君、名前は?」
「……ローランド」
ぼくはぶっきらぼうに答えた。
「フフ、かわいい」
何が可愛いのかさっぱり分からない。
「おままごとする? それともお人形さんのほうがいい?」
僕はシートの上のぬいぐるみを指さす。
「この子がいいのね」
女の子はぬいぐるみを抱え、ぼくに渡す。
「はい」
大きなぬいぐるみだ。全身黄色だが、ほっぺは赤い。何の動物なのかはよくわからない。
「その子はわたしのお気に入りなの。わたしにそっくりでしょう?」
「うん」
確かに、女の子の金色の髪とぬいぐるみの黄色、つけている2つのリボンとほっぺの赤はそれぞれそっくりだ。
「あの旗の色もそっくり」
ぼくはお城のほうを指さした。
そこにはリメリア王国の国旗が掲揚されていた。
「ほんとうだね」
それからぼくたちはしばらく色んな遊びを楽しんだ。
しかし、その時間は長くは続かない。
「そろそろお別れの時間ね」
「うん」
「また、遊びにきてくれる?」
「うん。世界の反対側からでも」
子供にしてはよくできた比喩だ。
「フフ、ありがとう。ぜったいだよ」
「うん」
「その子が気に入ったの?」
ぼくはあのぬいぐるみを抱いたままだった。
ぼくはこくりと頷いた。
「じゃあその子ローランドにあげる」
「いいの?」
「そのかわり、大切にしてね」
「うん」
ぼくは強く頷いた。
* * *
ドンッ!
何かがオレの上に落ちてきて、目が覚める。
「何だ?」
オレの目の前にはつぶらな瞳が。
「お前どっから落ちてきやがった」
幼少期からずっと持っていたぬいぐるみがそこにあった。
全身は黒ずんでしまったが、黄色だ。
「そういえば、お前、誰かに貰ったんだよな」
だが、誰か思い出せない。
そして、さっきまで見ていた夢も。
「あー、わかんねー」
オレが覚えている限りで一番古い記憶、それは……
「庭園」
そして、そこで誰かと遊んでいたことは覚えている。
「お前は何か覚えてないか?」
ふとぬいぐるみに話しかけてみる。
「答えてくれる訳ないよな」
ふと、時計を見る。
授業開始10分前だ。
「やべぇー」
急いで支度をし、部屋を飛び出す。
そのまま教室へダッシュした。
* * *
チャイムと同時に教室へ。
あわてて自分の座席につく。
「おはようございます。ローランド」
オレの隣には、リースの笑顔があった。